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地域映画『まつもと日和』 -8mmフィルムがつなぐ 過去・現在・未来-
こんにちは。私たち「まつもとフィルムコモンズ」がつくった地域映画の第1作が『まつもと日和』です。
1960年代から1980年代を中心に信州・松本で撮影された8mmフィルムを集め、提供者の皆さんのインタビュー、市民による音楽、アニメーションなども交えて1本の映画に紡ぎました。
現在は2024年10月26日・27日公開予定の2作目の映画を制作中ですが、今回は記念すべき1作目『まつもと日和』についてご紹介します!
スクリーンによみがえる、昭和の暮らしと街並み
この映画の見どころは、まずはスクリーンによみがえる昭和の暮らしや街並みです。
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本作のために集まった8mmフィルムは345本。そこには、今では見ることのできない貴重な風景がたくさん残されていました。
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国宝・松本城にあった遊園地、チンチン電車やオート三輪、多くの人々で賑わうデパートや商店街、温泉街、映画館。凍った湖のスケート場…。
8mmフィルムが広まったのは、戦後から高度経済成長期にかけて。誰でも簡単にスマホで動画が撮れる現在と違って、当時は写真が「動く」だけでも感動や驚きがあったのでしょう。
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子どもの成長や結婚式、お祭り、運動会など、当時の日常記録がたくさん残されていました。
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令和の今とは少し違う昭和の風景に、当時を知る人たちは「懐かしい」、若い世代は「新しい」「エモい」と声を上げていました。
令和の人々のインタビュー
フィルム提供者さんや家族が集まり、昭和の映像を令和の人々が鑑賞する様子も本作の見どころです。
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「これ〇〇さんだよね」「この子、お母さん?」そんな会話が飛び交う、笑いあり涙ありの楽しいインタビューは心が温まります。
まちの姿は変わっても、家族に対するまなざしは、昔も今も変わらないのかもしれません。
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そして戦争や災害があることも。川の氾濫でまちが混乱する様子、「近代化は失敗だった」と語る地元財界人の言葉、戦争に出征する息子を見送る記録や、その家族のインタビューも本作に登場します。
アカデミー賞の原点となった「幻のフィルム」
2024年3月10日(現地時間)、松本市出身の山崎貴監督の最新作『ゴジラ-1.0』が第96回アカデミー賞視覚効果賞を受賞しました!
『まつもと日和』には、山崎監督が中学時代に同級生たちと撮った8mmフィルムによるSF映画『GLORY』(グローリー)の一部が登場します。
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この映画は40年以上も所在がわからなくなり「幻のフィルム」と呼ばれていました。噂を聞いた私たちは、地元の方々に話を聞いて回り、ついに発見!
山崎監督や同級生を招いて『GLORY上映会』を開催しました。その様子も本作で見ることができます。
大学生が発掘した「幻の市歌」
信州の歌といえば長野県人なら誰でも歌えるといわれる『信濃の国』が有名ですが、昭和15年(1940)には松本の市歌が作られたそうです。
ところが、歌詞の一部が時代にそぐわないとされたのか、戦後は次第に歌われなくなり、市民の記憶からも消え、音源も残っていたなかったため、「幻の市歌」と呼ばれるようになっていました。
この「幻の市歌」を現代に蘇らせようとしたのが、「まつもとフィルムコモンズ」の大学生メンバーです。半年間に渡ってゼミで調査し、なんと作詞した高野辰之さんの直筆譜を発掘したのです!
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松本在住の音楽デュオ「3日満月」が楽譜を起こし、10代の子どもたちから「小学校の授業で教わった」という90代の女性まで、多世代の市民による合唱・演奏がクライマックスを盛り上げます。
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エンディングに流れる素敵なロトスコープアニメーションは、市内の中学校の美術部が制作。提供者さんのインタビューやフィルム編集は、監督の指導のもと、大学生メンバーが担当しました。
老若男女、本当にあらゆる世代の市民の協働によって完成したのが『まつもと日和』のいちばんの特徴といっていいかもしれません。
まちを元気に!地域コミュニティの再生
地域映画の制作や上映を通じて、世代も背景も異なる市民が語り合い、まちを元気にしていく。
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「地域コミュニティの再生」が、まつもとフィルムコモンズの目標です。
この取り組みを評価していただき、2024年1月には「第14回地域再生大賞優秀賞」を受賞しました。
また、高校生メンバーが撮った本作のドキュメンタリー番組『つなぐ』は、第47回全国高等学校総合文化祭「文部科学大臣賞」を受賞。
2作目の『8ミリがつなぐあの日の記憶』も、第70回NHK杯全国高校放送コンテスト長野県大会テレビドキュメント部門「優秀賞」を受賞しました。
地域コミュニティの再生は、あらゆる地域にとっての課題だと思います。『まつもと日和』は、どの地域の方が見ても、きっと何らかのヒントが見つかるのではないでしょうか。
オンラインでも配信しています。ぜひ一度、ご覧になってみてください!
映画監督・山崎貴さんと是枝裕和さんのコメント
最後に「まつもとフィルムコモンズ」の活動を応援してくださっている2人の映画監督、山崎貴さんと是枝裕和さんのコメントをご紹介します。
山崎貴さん「本来であれば失われる映像が、時間を乗り越えたことで力を得たと感じる。個別の家族の思い出が、まるで自分のことのように思えた」「個人の記録として残した8mmフィルムが、時を経て復活して、今度は皆の思い出になる。まるで発掘された宝物のよう」
是枝裕和さん「いつか失われてしまう8ミリフィルムを発掘し、再生し、記憶として共有する。それはきっと、地域社会の財産として 街を 人を 豊かに繋いでゆくはずです。この素晴らしい取り組みを 心から応援しています」
地域映画『まつもと日和』
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カラー/73分/2023
監督:三好大輔
音楽:3日満月(権頭真由/佐藤公哉)
製作:まつもとフィルムコモンズ
支援:信州アーツカウンシル(一般財団法人 長野県文化振興事業団)
後援:松本市教育委員会 令和5年度文化庁芸術創造拠点形成事業
作中に登場する8mmフィルム
・松本祭り|昭和54年(1979)
・お花まつり|昭和37年(1962)
・浦嶋本店|昭和36年(1961)
・松本城児童遊園地|昭和35年(1960)
・おのろけ豆|昭和32年(1957)
・旭町保育園 入園式|昭和40年(1965)
・岡宮神社の舞台|昭和47年(1972)
・里山辺 須々岐水(すすきがわ)神社お船祭り|昭和47年(1972)
・美鈴湖スケート|昭和38年(1963)
・お正月|昭和33年(1958)
・長野縣護国神社|昭和15年(1940)
・浅間温泉〜神宮寺〜茶臼山〜富喜の湯|昭和15年(1940)
・西堀町セントラル通り|昭和35年(1960)
・井上デパート|昭和37年(1962)
・本町通り商店街|昭和36年(1961)
・ぼんぼん|昭和53年(1978年)
・青山様|昭和49年(1974)
・上高地(大正池)|昭和48年(1973)
・道祖神祭り(里山辺)|昭和47年(1972)
・中劇 映画館新築工事|昭和35年(1960)
・中劇 待望の開館|昭和35年(1960)
・女鳥羽川氾濫|昭和34年(1959)
・「GLORY」監督 山崎貴|昭和54年(1979)
・中信スケートセンター|昭和46年(1971)
・上高地|昭和42年(1967)
・松本城児童遊園地|昭和43年(1968)
・社員運動会|昭和23年(1948)
・出征|昭和15年(1940)
・里山辺保育園 運動会|昭和51年(1976)