天国から母がかけてくれた心のエンジン
2013年1月某日、
ぼくの母は病院のベッドの上でこの世を去った。
息子の僕が言うのもアレだけど、
立派な人だった。
ぼくの実家は千葉県外房にある小さな干物屋さん。
そこで母は父を支えながら
一年中、アジをさばいて干物を作っていた。
よく手を動かして働く人だった。
これは公にしていることで、
今さら隠すこともないが、ぼくの父は借金を苦に自ら命を絶った。
自分の保険金で借金を帳消しにしたのだ。
小さな港町のこと。
父の噂はすぐに広まったことだろう。
それでも母はグチもこぼさず、実家を片付け、干物屋を畳んだ。
父が残した保険金の残りもあったから
そんなに働く必要もないのに、近所のホテルで布団の上げ下ろしの
バイトなどをしていた。
そんな母が胃がんになった。
胃を全摘出する大手術を小さな体で耐えた。
一時は笑顔が戻った。
でも再発した。
病院のベッドの上でやつれていく母を見ながら
こう思った。
「どうしてこの人の人生は
こんなにもハードモードなんだろう」
弟と二人、交代で母を見舞った。
食べ物は喉を通らず、病院から出された
ハイカロリーな栄養ドリンクを弟にあげていた。
ある日、病床でかたわらにいた僕に言った。
「これから言うことをメモしなさい」
それは実家にある預金通帳の場所だった。
もう自分は生きて病院から出られない。
そう覚悟をして、ぼくに伝えたのだ。
2013年1月某日の日付が変わったばかりの深夜
母は息を引き取った。
くしくもそれは、ぼくの誕生日だった。
ぼくは母の命日を絶対に忘れない。
うつから救ってくれたnoteとKindleと母
母の死から5年後、
ぼくはうつになった。
ぼくは放送作家というちょっと変わった仕事をしている。
そこで報道ステーションという番組のスポーツコーナーをやっていた。
苦労しながらも何とか仕事をこなしていた。
あの番組には優秀なスタッフが多い、
次第にぼくは自分の能力の低さに絶望するようになる。
いよいよ限界を悟り、
11年半携わった番組を2016年いっぱいで去った。
それまで所属していた作家事務所も去り、
フリーになった。
でも仕事がない。
自己肯定感は加速度的に下がっていき、引きこもる生活。
2018年の夏、睡眠が壊れた。
1日の平均睡眠時間は2~3時間、
体が疲れ切っているハズなのに、夜、布団に入っても眠れない。
気が狂うかと思った。
自分で救急車を呼んだ。
後日、メンタルクリニックでハッキリ「うつ」と言われた。
病院で処方された睡眠導入剤で
どうにか5時間ほどの睡眠は取り戻した。
でも自己肯定感は上がらない。
ある時、ふとしたきっかけで自分の半生をnoteに書いて
みようと思った。
記事のタイトルは・・・
「放送作家26年 なんてことない人生
周りの人がすごかった」
ぼくはいたって凡人だ。
周りのスゴイ人に助けられて、どうにかやってきた人生だった。
そのことを素直に書いた。
古舘伊知郎
伝説の放送作家・腰山一生
報ステで一緒に仕事をした
サッカー解説者・福田正博、澤登正朗
周りには超一流と呼ばれる人たちが うなるほど居た。
そんな人たちのことを書いていたら、最後に母の話にたどり着いた。
書けば書くほど
母のすごさが分かってきた。
このnoteを3回に分けて連載したら、
コメント欄に「Kindle本にしてみれば?」と書き込んでくれた人がいた。
最初はためらった。
父の自殺のことも、母の胃がんのことも全部書いた記事だ。
果たしてこれを本なんかにしていいのか。
でもやってみた。
「やっちゃいなさいよ」
そんな母の声が天国から聞こえた気がしたのだ。
Kindle本にすると、
ぼくが思った以上に反響があった。
沈みっぱなしだった自己肯定感が少しずつ回復した。
この世を去ってなお、
息子を助けてくれるのか。
何十年後か、ぼくが死んだなら、母に会いたい。
会ってお礼を言いたい。
あの時、心のエンジンをかけてくれて、
ありがとうと。
それまではもう少し頑張ります。
また会う日を願って。
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