「切る」を支える
「紙を切る」ことは、図工や美術などでの作品作りに限らずあらゆる生活場面で必要なことですが運動の困難さがある方が自分でできるように支援するのは意外と難しいことです。
「紙を切る」ことで最初に思い浮かぶのは、ハサミやカッターの使用です。ハサミに関しては押すだけで切れる
のようなユニバーサルデザインのハサミや
のような電動バサミをスイッチを接続できるように改造する方法です。
しかし、肢体不自由の特別支援学校に在籍する方の多くは、ユニバーサルデザインのハサミでも操作が難しいです。そのため、支援者と一緒にハサミを持って握るという自分でやっている感ゼロの状態に陥りやすいです。
電動バサミについては、スイッチ操作はできても紙を支えるのは支援者の場合が多くイマイチ自分で切っているという実感が持ちにくい印象があります。
カッターについては、
のようなロールカッター版が安全で良さそうですが、持ち手を下に押しながら引いたり押したりしなければならず、肢体不自由の特別支援学校に在籍する方の多くは一人ではできず、またもやご本人の手の上に支援者の手が被さってくるという事態に陥りやすいです。
そこで、ある日思いついたのが紙にミシン目を事前に入れておいて裂く方法です。子どもの頃にはまったモギリのビリビリという感覚を思い出し、これならと思い試してみました。
最初に
や
であらかじめミシン目を切りたい紙に入れておきます。オルファのカッターの方は、どの大きさの紙にも対応出来ますが、定規を当てていてもズレやすいので注意が必要です。スライドカッターはずれないで便利ですが、紙の大きさに制約があります。ミシン目をつける時には、強めにカッターを最低1往復させた方が後で綺麗に紙が裂けてくれます。
ミシン目をつけたら紙を書見台にセットします。この時、ミシン目に沿って写真のような木の板にマグネットシートを貼ったもので固定します。少し裂いて折り曲げでダブルクリップ挟みます。二重に折り曲げてからクリップで挟むと引っ張った時にクリップから抜けにくくなります。
この状態でクリップを持って裂けるお子さんもいるのですが紐で延長して引っ張りやすいようにしたり、
大きな輪っかをつけて握りやすくしたり、その方が好きなものをつけることで自分から手を伸ばしやすくしたりする工夫が必要な場合もあります。
また書見台に紙を固定することも大切です。書見台の面は自分と目標物(クリップ)をつなぐ連続的な手がかりになり、見えにくさのある方でも、運動の困難さがある方でも手を面に沿って滑らしながら目標物にたどり着けます。
以下は、「SHJ学びサポート」の活動の中に実際に切っている様子です。
最初の方は、電車が好きなので吊り革に見立てた大きな輪っかをクリップの先につけました。握ることが難しい方はヘアゴムなどで手首に固定しても上手くできます。また、裂いたものをクリップごと入れる容器を用意しておけば容器に入れて終わりという終点を明確に示すことができます。容器は入れた時に音の出る缶などが有効です。
一緒に活動したアーティストが裂いた紙を部品とし、花を作り塗り絵の作品に添えました。
もう一人紹介します。この方は、木の筒が大好きで他のものにはなかなか手が出ないのに木の筒だけは握ってくれるのでクリップにつけてみました。
書見台の面を叩きながら筒を見つけます。
筒が見つかると握りしめ一気に引っ張り紙を裂きます。
裂き終わると後ろにある缶の中に落とします。
別の角度から見てみると
手元をよく見て引っ張っているのがわかります。
たくさん裂いた紙を部品にして花を作り
アーティストが描いた台紙に貼って髪飾りにしました。
最後に支援者の豆知識。
木の板につけるマグネットシートは100円ショップのものよりも値は張りますが
のような強力タイプがオススメです。磁力が弱いと紙を引っ張った時に紙と一緒に外れてしまいます。
もう一つ。クリップに輪っかや木の筒をつける時には、写真のようにリングを2つ繋げて結束バンドで固定するのが便利です。
結束バンドの余分な部分を切り落とした後、バリが出る場合は危ないのでやすりがけしておきます。
木の筒には大き目の結束バンドを使用します。
二つのリングを使うことで輪っかや木の筒がブラブラして思わず引っ張ってみたくなる感じになります。
今回は以上です。ぜひお試しください。
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