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【随想】 空間Xの行方

 コーヒーがカップに注がれる。コーヒーの香りが鼻腔鼻の奥くすぐる。
 そんなとき、ある“疑問”がいつも思い出されるのだ。まるで、マドレーヌの味が少年時代の記憶を呼び起こすかのように……。
 さて、老生が抱く疑問とは、「コーヒーが注がれる前、カップ内にあった“何も無い空間”は何処に行ってしまったのか?」というもの。「そんなコトを疑問に思っているのか、はははははっ」と笑いたければ笑えばイイさ。燕雀安んぞ鴻鵠の志を知らんや。
 コーヒーは“何も無い空間”を何処にやったのか。カップの外側の空間へと押し退けたか。もし、そうなら、カップ周辺の空間には“歪み”が生じていることになろう。世の存在は常に空間に歪みを与えているのか。我々は空間を歪ませながら生きているのか。
 それとも、コーヒーは“何も無い空間”と“融合”してしまったのだろうか。コーヒーの内部に“何も無い空間”が存在しているのだろうか。「ドーナツの穴はドーナツか否か」のような、新たな説が唱えられよう。それは、“コーヒー空洞説”。地球空洞説のようじゃないか。コーヒーの内部に、もうひとつの世界が広がっている。何とも雄大じゃ。
 するってえと、“空間”とは如何なる状態なモノかって話になる。何となく哲学的な話になってきたゾ。
 閑話休題それはともかく。コーヒーを飲む。カップの中に“何も無い空間”が段々と戻ってくる。そして飲み終えると、カップはまた“何も無い空間”だけとなる。
「おかえり、君(=何も無い空間)は何処に行っていたんだい?」
 そう呟けば、きっと君(=何も無い空間)は怪訝な表情かおをするに違いない。
 それからからのカップを見つめながら、もう一杯コーヒーをおかわりしようかどうか、大いに悩む老生なのであった。

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