天然の冷蔵庫「雪室」 〜小浜の雪で熟成されたコーヒーの味〜
JR東小浜駅から車で15分。
ぐねぐね道を登って登って車を走らせた先に見えた集落。遠敷川上流、標高300mの高地にある、かつて炭焼きや林業、畜産業などを営んでいた小浜・上根来地区。
上根来地区は、10年以上前に計画廃村となり、今その地区に暮らす方はいらっしゃらない。
集落を抜けてさらに車を走らせること5分。今日は、いつもene COFFEE STANDで使用しているコーヒー豆を雪室と呼ばれる伝統的な貯蔵方法まで届けるため、車を走らせている。
平成15年まで牛舎として使用されていた広大な場所が見えてきた。その一角に、目指す雪室はあった。
雪室とは、雪の冷気と湿度を利用し、食材を保存・熟成させる伝統的な方法。元々は中国から日本に伝来した貯蔵方法。
電気冷蔵庫がなかった時代、冬に降る雪や氷が天然の冷貯蔵庫として利用されていた。
貯蔵庫内の温度は1〜2度、湿度は85〜100%に保たれており、みずみずしく長持ちするだけでなく、味わいに変化が生まれる。
食材によって貯蔵期間は異なるが、野菜や米はみずみずしく甘く、酒や酢はまろやかに、コーヒー豆は角が取れて甘く深く、変化する。
上根来の雪室は、小浜周辺で出た間伐材を使用し、ログハウスの要領で小屋を組み立てる。
一度組んだ小屋は10年ごとに使いまわすそうだ。
牛舎から落ちた約30m3の屋根雪を集め、組み立てた小屋をすっぽり覆う。
空気に触れて溶けないよう、これまた小浜で出たもみ殻を被せ、もみ殻が飛ばないようブルーシートで抑えて完成。
小屋が覗くほど雪が溶けてしまうまでの約半年間、雪室としての機能を果たす。
上根来は標高が高いこともあり、静かで振動が少なく雪が溶けにくいため、雪室にぴったりだそうだ。
雪室にコーヒー豆を入れると、角が取れて酸味が落ち着き、甘く、深く味わいが変化することが科学的に証明されている。
貯蔵中、味は一度フッと軽くなり、さらに熟成が進むとコクと深みが増すそうだ。
ene COFFEE STANDのコーヒー豆熟成も今年で2回目。1回目は、現在使用しているブレンドとは違い、ベリー系の甘酸っぱさが感じられる中深煎りのコーヒー豆の貯蔵を依頼した。
2ヶ月の貯蔵期間を経て、どんな変化が起きたのかわくわくしながら飲んだコーヒーは、カカオのような深みと、ベリー系でもフレッシュではなくドライフルーツのようなじわっと広がる甘酸っぱさに変化していた。
そんな変化を見せた1回目の昨年とはコーヒー豆も変わり、オリジナルブレンド「GOSHOEN BLEND」は初の試みだった今回の貯蔵。
酸味を抑えた柔らかい口当たりで、チョコレートのような味わいが特徴のGOSHOEN BLENDだが、果たしてお味は…?
小浜では、上根来の豪雪を有効活用しようと2014年より雪室プロジェクトが開始された。
上根来の元住民の会・百里会とNPO法人WACおばま、福井県立大学が協力し、雪室に取り組んでいる。
雪室の形状や、食材ごとの貯蔵期間を試行錯誤しながら、老舗のお酢屋さんや自家焙煎の喫茶店、酒蔵の商品を貯蔵・熟成しているそうだ。
「今後は雪室だけでなく、上根来の地場産業である炭焼きや特産である油桐の活用、山歩きなどと併せて、『上根来里山再生プロジェクト』を進めていきたい」
NPO法人 WACおばまの代表で雪室協議会会長の鳥居さんはそう語る。
市民が気軽に・手軽に・身近に雪室を楽しめるよう、「預かり貯蔵」も視野に入れているのだそう。
お気に入りの野菜やお酒を預け、熟成させて楽しめる日が来るのも近いかもしれない。
小浜だから出来ること。
小浜だから味わえるもの。
雪室をきっかけとして、地域の人が食材や文化など、眠っていた地域資源の価値に目を向ける機会が生まれてほしいと思う。
そして、雪室の味わいをたくさんの人にお届けしたい。