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人間の尊厳と自立②【2020年第1問】

今日の問題

Aさん(78歳、女性、要介護3)は、訪問介護(ホームヘルプサービス)を利用している。72歳から人工透析を受けている。透析を始めた頃から死を意識するようになり、延命治療を選択する意思決定の計画書を作成していた。しかし、最近では、最期の時を自宅で静かに過ごしたいと思い、以前の計画のままでよいか気持ちに迷いが出てきたので、訪問介護(ホームヘルプサービス)のサービス提供責任者に相談した。
サービス提供責任者の対応として、最も適切なものを1つ選びなさい。
1 「この計画書は、医師が作成するものですよ」
2 「一度作成した計画書は、個人の意向で変更するのは難しいですよ」
3 「意思確認のための話合いは、何度でもできますよ」
4 「そんなに心配なら、特別養護老人ホームに入所できますよ」
5 「この計画書は、在宅ではなく病院での治療を想定したものですよ」

こちらの画面から問題を開いて、以下の解説を読み進めていこう⇓
https://docs.google.com/presentation/d/1GHYMErLzUCz-3w9Ud06VOM9W4YcMTLQ5P6jD57UqIIQ/edit?hl=JA#slide=id.p

問題の背景

人工透析っていうのは、一言でいうと腎臓の働きを機械に置き換える医療処置のことだ。腎臓の機能は残念ながら、一度損なわれると元には戻らない。
腎臓では身体の老廃物を尿として排泄して、血液をきれいに保つ。僕たちがおしっこをする頻度でこの治療を受けるわけにはいかないので、週に3回、1回に4時間位のペースで治療を受けることになる。

長時間拘束されるうえ、肩や腰が痛む、血圧が下がってめまいがする、動機がして呼吸も苦しくなる、終わった後もしばらく体のだるさが続く…身体の負担も結構大きい。この治療、やめてしまうと多くの場合1~2週間で亡くなってしまう。それも結構苦しい亡くなり方で安らかな最期ってわけにはいかない。

そしてできるだけ長く生きようと延命治療を選択した場合は人工呼吸器など、医療機器を装着して声明を維持する可能性が高いことも付け加えておこう。

ここでもまず考えてほしい。君や、君の愛する家族がそんな状況になったら君自身はどう思うだろう?

問題のポイント

このおばあちゃんは、訪問介護(ホームヘルパーサービス)を利用している。そのヘルパーさんやお医者さんに「延命治療をしたい」、つまり「なるべく長く生きられるように必要な医療や介護を受けたい」と言う意思を表明していたってわけだ。

突然体調を崩して意識を失ったりしてその場で意思表示ができなくなってしまった時、この意思表示が医療や介護の方針を決める材料になる。だから医師や介護士たちも、この意思決定に携わって「計画書」として作成したわけ。それなりに時間と労力を割いて、この「意思決定の計画書」は作られている。

でも、このおばあちゃん、死を意識して、気が変わったみたい。そこでホームヘルパーの責任者がどう対応すべきか…それがこの問題だ。

この意思決定は「リヴィング・ウィル」と呼ばれている。自分が亡くなる時に、どんな亡くなり方をしたいのか、どんな医療や介護を受けたいのか、意識や判断力がしっかりしているうちに、医療や介護の専門家も交えて話しあい、文章として計画書を残すんだ。この計画書には2つの大きな原則がある。

①どのような決定であっても、本人の意思は肯定され、尊重される。
②本人の気が変わったら何回でも撤回し、内容を書き換えることができる。

①について
どんなに体中チューブだらけになっても、命を長らえたいと思う人。できるだけ周りに迷惑をかけずに亡くなりたい人。できるだけ苦痛なく亡くなりたい人。回復の見込みがないならできるだけ早く死にたいと思う人
…死についての考え方は人それぞれだ。でもどんな考えであってもそれを最大限尊重する。それが「リヴィング・ウィル」の大原則だ。

②について
人の気は変わるものだ。小さな例えで言えば、友達と買い物に行く約束をしたけど、気が変わって家でマンガでも読んでいたいなー…なんてこと、よくあるよね。死に直面したらなおさらだ。
この人のように、死が近づいたらやっぱり穏やかに死にたいとか、逆に死ぬのかが怖くなって延命をしたくなったとか…いくらでもある。
そういう気持ちの変化にとことん付き合うよ。それがもう一つの大原則なんだ。そのための時間や労力は惜しまない。介護士たちの情念が伝わる原則だよね。

問題の答え・解説

もう答えは言ってしまったね。もちろんだ。

一応他の選択肢も見ていこう

1 「この計画書は、医師が作成するものですよ」
…作るのは医者じゃない。医者もかかわるけどつくる主体はあくまで本人だ。
2 「一度作成した計画書は、個人の意向で変更するのは難しいですよ」
…もう説明不要だね。個人の意向で何度でも書き換えられる。だから納得して意思決定ができるんだ。
4 「そんなに心配なら、特別養護老人ホームに入所できますよ」
…「特別養護老人ホーム」は平たく言うと、介護の必要度が高い人が入る老人ホーム。これでは自宅で静かに過ごしたいっていう本人の想いが叶えられないよね
5 「この計画書は、在宅ではなく病院での治療を想定したものですよ」
…死を迎える場所をリヴィング・ウイルは想定していない。むしろどこで亡くなりたいか、という希望だって何度でも書き換えて良いことだ。

今日のまとめ

亡くなる時にどんな最期を迎えたい?
…これって、人生の中で究極の希望なんじゃないかな。

その意思決定支援を支え、本人の気持ちを肯定し、そして何回でも話し合いに応じる。それが介護の仕事のひとつなんだ。

こうも言い換えられる。介護の仕事のひとつに「幸せに亡くなってもらう手助けをする」ことがある。

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