#3 出発した! …家を
結局、家の最寄り駅の列車に乗り込んだのは午前10時半頃だっただろうか。乗換案内アプリの計算によると空港到着時刻は出発時刻の約3時間前といったところだ。
ネットの情報によると出国に時間がかかることを考慮し、出発時刻の3時間前には空港に着いておいた方が良いとのことだったがギリギリになってしまった。当初の予定では4時間前には着いているはずだったが、少しのんびりしすぎてしまったようだ。
まあ、そういうことを想定しての時間設定をしていたつもりだったし、日本からの出発に関しては問題ないだろうと僕は高を括った。
僕の家から関西空港までは約1時間半といったところだ。それは僕にとって酷く無駄な時間に感じられた。
そもそも乗り物というものは、費用・時間のコストを考慮し、目的地までの時間短縮ができるということだけで大変ありがたい人類の叡智の結晶だということは承知しているのだが、例えば電車でも隣の駅まで少なくとも2分はかかってしまう(時間があればゴロゴロダラダラやってるクズが何生意気なこと言ってんだ!)。
そのため僕は常々耳にイヤホンを装着し、そこから身体全体に流れこんでくるあらゆる音色で、己の感覚を研ぎ澄まし、知識を深め、少しでも無駄な時間を少なくするよう心掛けている。
嘘だ。
そんな高尚ぶった理由はない。
ラジオジャンキーの僕にとって、移動の時間はスマホに録音したラジオを聴く絶好の機会だ。いつもラジオパーソナリティとメール職人さん達のハイセンスな下ネタにより、にやける口元を抑えるのが精一杯だ。
だが今回は、スマホが僕の命綱である。もちろんバッテリーは準備してあるのだが、何度そいつに頼ることになるかわからない。僕は少しでも電源を節約するため、出来るだけ無駄な操作をしないよう心掛けた。
本も持ってきてはいたのだが、どうも気が高ぶっていてとても読む気にはなれなかった。
こんなに列車の音を聞いたのは久しぶりかもしれない。
その半面頭の中では、つい先日まで一人で何度も聞いていた、KICK THE CAN CREWの「クリスマス・イブRap」のイントロが流れていた。
「そう雨はだんだんと…」
カラオケでは冒頭の「そう」を如何にカッコよく歌えるかだよなぁ。