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[2023/06/23] ウォノソボライフ(64):呼称あれこれ(神道有子)

〜『よりどりインドネシア』第144号(2023年6月23日発行)所収〜

私がインドネシアと関わるようになってまず驚いたのが、会話の中で使う呼称・敬称の豊富さでした。日本ではとりあえず『さん』か『先生』、あるいは『先輩』を使っていればよく、改まった場面で『様』が増えるくらいで、その使い分けに悩むことは特にありませんでした。

インドネシアでは、英語のミスターにあたるバパッ(Bapak)とミスにあたるイブ(Ibu)、それにお店の店員さんなどの比較的年若い男性・女性へのマス(Mas)・ンバッ(Mbak)、さらに私がホームステイした地域がスンダ地方だったために、スンダ語での男性への敬称アア(Aa)とテテ(Teteh)などをまずは覚えねばなりませんでした。年若い女性は一様にテテでいいのかといえばそうでもなく、例えば若くても学校の先生などの立場の人に対してはイブを使用するなど、相手との関係性、距離感、場所などで使い分けることが求められてきます。その煩雑さが、私にとっては魅力的でもあったのです。

さらに、ジャワ地方へ引っ越し、家庭に入るようになったことで、またスンダ地方とは異なる呼称の世界の奥深さが見えるようになりました。相変わらずその場その場で正しい使用が出来ているのかは甚だ自信がありませんが、一度ここで現在に私の周りにある色とりどりな呼称・敬称たちをまとめてみようと思います。


一人称、二人称

呼称というと相手への呼びかけに注目しがちですが、その前にまず、自分自身を指していう言葉、一人称を見ていきましょう。

日本語は豊富な一人称が特徴と言われており、最もスタンダードな『私』の他にも『僕』『俺』『わし』『あたし』などなど・・・それぞれニュアンスの異なる一人称があります。特に僕、俺など、性別による使い分けがされているのは面白い点かもしれません。

インドネシア語では一人称については性別で区別することはありません。男女共有で以下のようなものがあります。

  • サヤ(Saya):最もフォーマルな一人称。『私』。

  • アク(Aku):ややくだけた一人称。『僕』のようなニュアンス。

サヤは最も無難ではありますが、フォーマルすぎる印象もあります。親しみのある一人称はアクで、日常会話ではこちらを使う人が多いでしょう。

また、ジャカルタ弁の一人称を使う人もいます。

  • グア、グエ(Gua, Gue):くだけた一人称。『僕』、『俺』に相当?

ジャカルタから遠く離れたウォノソボですが、TVやインターネットでは非常によく使われているので耳慣れた言葉ではあります。しかしここであえてジャカルタ弁を使うのは、カッコつけや若干荒っぽい印象が拭えません。若い人でもリアルな会話で使う人はなかなかいないように思います。ジャカルタや都市部に長く住んでいてこちらに戻ってきた人など、なにかしらウォノソボの外の空気に影響された経験があると使いやすいのかもしれません。

また、一人称が複数の場合は以下になります。

  • キタ(Kita):話し相手を含む『私たち』

  • カミ(Kami):話し相手を含まない『私たち』、『わたくしども』

例えば複数人で旅行に行った話をしていたとして、その旅行に参加していた相手にはキタ、旅行には行かなかったけど旅行の思い出話を聞かせているような相手にはカミを使う・・・というような区別があります。ただし、これはあくまでフォーマルなルールであって、普段の会話では本来カミを使うべきケースでも一様にキタで済ませている方が多いように思います。カミをきちんと使うと、ややかしこまった印象さえ出るのです。このあたり、キタ・カミの使い分けについて、他の地域ではどうなっているのか興味があります。

さて、以上はインドネシア語(とジャカルタ弁)での呼称でしたが、ここは普段の会話はジャワ語がメインです。パダン人、バタック人など、ジャワ語話者ではない人が場にいて、みんなインドネシア語で喋ろうね、などと言っていても、10分と経たずにジャワ語に戻ってしまうほどにジャワ語は魂に根付いた言語なのです。

そのジャワ語では一人称は以下のものがあります。

  • クロ(Kula):丁寧な一人称。フォーマルな場面や目上に人に対しての『私』。

  • アク(Aku):ややくだけた一人称。

  • ニョン(Nyong):ジャワ語の中でもバニュマサン(Bayumasan)と呼ばれる、中部ジャワ西部で使われる方言の一人称。標準ジャワ語のアクに当たる。

ジャワ語のバニュマサン(バニュマス方言)の分布はバニュマスを中心にブレベス、チラチャップ、トゥガル、プルバリンガ、バンジャルヌガラ、クブメンといった地域で使われています。そのバニュマサンの分布のおよそ東端がウォノソボあたりではないかと考えられているのです。それより西、特にジョグジャ方面へいくと標準ジャワ語となるため、ウォノソボはバニュマサンと標準ジャワ語の交錯する地域のようです。

同じジャワ語ですが、ここではなぜかアクの方がよりかしこまった印象があります。地元の気心知れた相手であればほぼ必ずニョンを使うことになります。近所の人でも年上相手であればクロです。

複数形での一人称は以下です。

  • アワケ デウェ(Awake Dhewek)、もしくはデウェのみ:直訳すると、『自分の体』という意味になるのですが、それが自分自身、そして自分たち自身、つまり『私たち』になります。友人など親しい間柄で使われる、ややくだけた言い回しです。

ジャワ語ではあまり「話し相手を含むか含まないか」での『私たち』の使い分けはしないようです。もしくは、本来そうした使い分けをする言い回しもあるのかもしれませんが、この辺りではあまり一般的には用いられていないようでした。

一人称だけでもおよそこれくらいの種類のものをTPOで使い分けるわけです。しかも、これはあくまで「ウォノソボで日常的に頻繁に使うもの」に限定しているので、丁寧すぎて普段はほとんど使わないけれどもちろん意味は知っているというものも含むのならもっと多くなります。

次に二人称を見ていきましょう。あなた、君など、話し相手への直接の呼びかけの言葉です。インドネシア語では以下のようなものがあります。

  • アンダ(Anda):『あなた』。フォーマルであり若干距離を置いた印象があるため日常会話よりも討論会などの場に向いている言い回し。

  • カム(Kamu):『君』『お前』『あんた』といったニュアンス。親しい友人、同輩、子供などに対して。

  • ディリム(Dirimu):『君自身』という意味。文学的ニュアンスなのでちょっとそういう雰囲気を出したいときに。

複数形はこちら。

  • アンダ スカリアン(Anda Sekalian):『あなた方みなさん』、改まった言い回し。

  • カリアン(Kalian):上記アンダスカリアンの略。『君たち』くらいのニュアンス、よく使われる。

ジャワ語ではこうなります。

  • ジュヌンガン(Jenengan):丁寧な『あなた』。年上の人、初対面の人などに対して。

  • サンペヤン(Sampeyan):丁寧だけれど親しみのある『あなた』。ジュヌンガンよりは距離感が近いがまだ礼儀のある言い方。

  • デケ(Deke):『君』、『お前』。バニュマサンというよりウォノソボ特有の方言。一人称のニョンと合わせ、ニョン・デケはウォノソボの特徴と言われる。

ジャワ語で『君』『お前』に相当する言葉は、コウェ(Kowe)、シロ(Sira)、リコ(Rika)などその他諸々ありますが、ここではほぼ使われず、デケ一択なのだそうです。インドネシア語の『あなた』であるアンダがあまり使われないのに比べ、ジャワ語のジュヌンガン、サンペヤンは非常によく聞きます。

複数形ではカリアンを使うか、ジュヌンガンやサンペヤンを2回繰り返した『ジュヌンガン・ジュヌンガン』、『サンペヤン・サンペヤン』が一般的です。インドネシア語、ジャワ語では単語を2回繰り返して複数形にすることがあります。

また、相手への呼びかけに関して、上記の『あなた』『お前』以外に、インドネシア語やジャワ語では敬称を人称代名詞としても使います。つまり英語のミスター、ミス、または日本語の『先生』などのように、それだけで『あなた』という意味の言葉になるのです。そのため、『あなた』という言葉を使うよりは『お兄さん』『お姉さん』という呼びかけをした方が柔らかい印象になり、多用されます。次で各種の親族呼称と敬称を見ていきましょう。

親族呼称

日本語では、親族名称と親族呼称が区別されています。例えば親族名称としては『父』だけれど、実際の呼びかけでは『お父さん』『おやじ』など、人前でその人物に言及するときの言い方と本人への呼びかけは異なります。ここではそれらはほぼ同一であり、さらには「一般的に父親とされるような年代の男性全般、およびその男性への敬称」としても『お父さん』という語が使われるなど、非常に広い意味を持ちます。以下、それぞれの親族名称・呼称ごとに見ていきます。これらの呼称は、呼称+個人名で使うか、呼称だけで相手への呼びかけとして使います。

1.お父さん、お母さん

  • バパッ(Bapak)/略称のパッ(Pak):インドネシア語およびジャワ語のお父さん。または男性への敬称。一般的に中年以降の男性を指して言うが、相手が若くても特に敬意を込める場合は使う。2回繰り返した『バパッバパッ』は、男性に対する『皆さん』という呼びかけ、または『おじさん(中年男性一般という意味の)』

  • アヤ(Ayah):インドネシア語のお父さん。バパッと違い、実際の父親にのみ使い、男性一般の意味で使われることはない。

  • ロモ(Rama):ジャワ語のお父さん。バパッより丁寧な言い回し。男性一般への敬称として使うことはあまりないが、先生、特に宗教指導者に対して使うことがある。ジャワのカトリックでは神父のことはロモと呼ぶ。(ジャワ以外の地域でカトリックの神父がなんと呼ばれているのか、ご存知の方は是非ご教授ください)

  • パッエ(Pak’e):ジャワ語のお父さん。自分の父親、および親しい間柄の子持ち男性への敬称。普段使いのあまり丁寧ではない言い回し。

  • イブ(Ibu)/略称のブ(Bu):インドネシア語およびジャワ語のお母さん。または女性への敬称。2回繰り返した『イブイブ』は、女性に対する『皆さん』、もしくは『おばさん(中年女性一般)』

  • ブンダ(Bunda):インドネシア語およびジャワ語のお母さん。イブより少し丁寧。先生などに対して。

  • マッエ(Mak’e):ジャワ語のお母さん。自分の母親、および親しい間柄の子持ち女性への敬称。普段使いのあまり丁寧ではない言い回し。

  • シンボッ(Simbok)/ンボッ(Mbok):ジャワ語のお母さん。年上の女性への呼びかけ。

このほかにも、父親、母親を指す言葉は色々あるのですが、ここでは相手への呼びかけとしても使われている言葉のみを並べました。例えばビユン(Biyung)も母親という意味ですが、お母さんという呼びかけでは使われません(あくまでここでの話なので他の地域はわかりませんが・・・)

2.お兄さん、お姉さん

  • カカッ(Kakak):インドネシア語で年上の兄弟を指す。性別をあえて明確にする場合には『カカッ・ラキラキ(Kakak Laki-laki: 男性の年上の兄弟=お兄さん)』、『カカッ・プルンプアン(Kakak Perempuan: 女性の年上の兄弟=お姉さん)』という言い方をする。ただし敬称としてはカカッのみで使う。お店などで男女問わず、また民族問わず年若い客に対する敬称として使われる。

  • マス(Mas):ジャワ語のお兄さん。および若い男性への敬称。妻から夫への敬称。

  • ンバッ(Mbak):ジャワ語のお姉さん。および若い女性への敬称。

  • ユ(Yu):ジャワ語でお姉さんを意味する『ンバッアユ(Mbakayu)』から。年上の女性への敬称。どちらかといえば、中年以降の女性同士がよく使っている印象がある。

これ以外にも、友人同士などのくだけた場で、英語のブラザー由来のブロ(Bro)、シスター由来のシス(Sis)をそれぞれ男性と女性への敬称として用いることがあります。若干都会的な印象の言葉です。また、キリスト教会員同士が教会の繋がりを意識して活動の中でブロ、シスと呼び合うこともあります。

ジャワ文化の中では年齢による序列、特に兄弟姉妹のそれは大変重視されています。それは年下の兄弟姉妹が年上の兄弟姉妹より先に結婚する際には、兄/姉に許しを乞うランカハン(Langkahan)という儀礼が必要なことからも見てとれます。

この年齢の序列の興味深いところは、例えば従兄弟同士でも相手の親が自分の親より年上なら、年下の従兄弟をも『兄・姉』と呼ぶのです。

ややこしいので具体例で説明しましょう。Aさん(30歳)とBさん(25歳)という兄弟にそれぞれ子供がいたとします。Aさんの子供A‘(3歳)とBさんの子供B’(6歳)とします。

本来であれば、年下のA‘はB’のことを「お兄さん」と呼ぶべきです。しかし親の兄弟としての序列がA→Bなので、B‘のほうが年下のA’を「お兄さん」と呼ぶことになります。これがただの友達であれば、やはり本人たちの年齢に沿った呼称が使われます。親の年齢というのは、後述する叔父さん、叔母さんの呼称にも関わってくる大事な要素です。

また、恋人同士、夫婦同士が相手を呼び合う歳、男性→女性へは『妹』、女性→男性へは『兄』と呼称する習慣もあります。姉さん女房の場合はどうするのか…というと実際のところはわかりませんが、兄を表すマスは自分より年上でなくても、男性への敬称としても使うので、やはりマスと呼ぶのが普通なのだろうと思います。

3.弟、妹、子供

日本においては兄や姉には呼称がありますが、弟、妹、子供は個人名でそのまま呼ぶのが普通です。しかし、ここでは兄や姉同様、年下の兄弟、および年下の人に対する敬称も存在します。

  • アディッ(Adik)、アデッ(Adek):インドネシア語、ジャワ語の年下の兄弟姉妹。ジャワ語の場合の綴りはAdhik。および『お嬢ちゃん』『坊ちゃん』『ボク』などのような幼い子供への呼びかけ。男女の区別をしたい場合、インドネシア語では『アディッ・ラキラキ(弟)』、『アディッ・プルンプアン(妹)』、ジャワ語では『アディッ・ラナン(Adhik lanang: 弟)』、『アディッ・ワドン(Adhik wadon: 妹)』という。ただし敬称としてはアディッ、アデッのみで使う。

  • デデ(Dede)、デ(De):アデッが変化して。より口語的なニュアンス。

  • レ(Le):親が男の子へ親愛を込めて使う呼称トレ(Tole)から。

  • ンドッ(Ndok)、ンドゥッ(Nduk):親が女の子へ親愛を込めて呼ぶ呼称グンドゥッ(Genduk)から。姑が嫁を呼ぶ、年上の友人が年下の友人を呼ぶなど、子供に限らず使われている。

妻から夫への呼びかけにマス(お兄さん)を使うと上記で説明しましたが、夫から妻への呼びかけはこれらアディッ、アデッ、デ、ンドッ、などが使われます。

一般的に大人であれば子供を呼び捨てにしても構いません。が、フォーマルな場や初対面の相手など、やはりこうした言葉を名前に冠してあげると、『◯◯ちゃん』『◯◯くん』などのように柔らかい印象となります。また、大人が子供を呼ぶ場合でも、相手がある程度大きいだとか、他に幼い弟や妹がいることがわかっている場合には『お兄さん』『お姉さん』の呼び方をします。

4.おじいさん、おばあさん

  • カケッ(Kakek):インドネシア語のおじいさん。および老年男性への敬称。ここではほとんど使われない。

  • ネネッ(Nenek):インドネシア語のおばあさん。および老年女性への敬称。ここではほとんど使われない。

  • ンバー(Mbah):ジャワ語で祖父祖母。および老年の人に対する敬称。男女を区別する場合には、『ンバー・カクン(Mbah kakung 男性。おじいさん)』『ンバー・プトゥリ(Mbah putri 女性。おばあさん)』と呼ぶ。老年に至っていなくても孫がいるような人はこう呼ばれるので、特に女性は40代50代でもンバーとなることもしばしば。

  • ンバー・ブユッ(Mbah buyut):曽祖父/曽祖母。ブユッだけで呼ぶこともある。

家族は社会的地位を左右する要素の一つであり、「孫がいる」というのはこれまでの家族づくりがうまくできていた証左であるとみなされます。家族に関する儀礼、特に結婚や出産に関わる儀礼において、とある作業を担当するのは孫がいる人が望ましいとされるものがいくつかあります。子育てが終わり、子供を結婚させ一人前として社会に送り出し、孫を得るところまでいったという経歴が神聖視されるのです。家族が多くなればなるほど、地域に貢献できる人員が増えます。年を重ね様々なことを知り、これまで築いてきたものの重みを感じる敬称です。

5.おじさん、おばさん

日本語では親の兄弟姉妹は発音の上では区別せず『おじさん』『おばさん』と呼びます。漢字にしたときに伯父さん、叔父さんといった違いがあり、自分の親の兄であれば伯父さん、弟であれば叔父さんといった意味付けがされますが、発音が同じなので会話の中でそれらを区別することはできません。

ジャワでは、この伯父さん、叔父さんの区別と似たような呼び分けをします。

  • オム(Om):インドネシア語の『おじさん』。親の兄弟を指すほか、壮年や中年の男性に対する敬称としても使う。

  • タントゥ(Tante):インドネシア語の『おばさん』。親の姉妹を示すほか、壮年や中年の女性に対する敬称としても使う。

  • パッデ(Pakdhe):親より年上の『おじさん』、およびそれに相当する年代の男性に対する呼称。『パッ グデ(Pak gedhe: 大きい父)』の略から。

  • ブデ(Budhe):親より年上の『おばさん』、およびそれに相当する年代の女性に対する呼称。『ブ グデ(Bu gedhe: 大きい母)』の略から。

  • パリッ(Pak lik)/ レッ(Lek):親より年下の『おじさん』、およびそれに相当する年代の男性に対する呼称。『パッ チリッ(Pak cilik: 小さい父)』の略から。

  • ブリッ(Bu lik)/ レッ(Lek):親より年下の『おばさん』、およびそれに相当する年代の女性に対する呼称。『ブ チリッ(Bu cilik: 小さい母)』の略から。

インドネシア語には、ほかにもおじさんを示すパマン(Paman)、おばさんを示すビビ(Bibi)という言葉がありますが、ここでは使うことはまずありません。オム、タントゥは非ジャワ人やセレブ感のある人に対して使われることが多く、村のジャワ人同士ではパッデ、ブデなどのほうが一般的です。

パッデ、ブデは、誰を核として話しているかで変わります。例えば自分の親より年上の親族の女性に対してはブデを使う一方で、近所の幼児に対して、その子の親より自分のほうが大体年上であればその子に対してブデを自称し、「ブデのとこにおいで~」などと声かけします。また違う子と遊ぶとき、その子の親より自分が年下であれば、レッになるのです。

見た目の年齢でおおよそ固定されている呼称と違い、相手、相手の親、もしくはこちらの親との関係性でその都度変化するので、相手のことがある程度わかっている間柄で使われます。正確な互いの年齢など知らないことも多いので、大体でOKですが、よく知らない相手であれば、オムやタントゥになることもあります。

両親それぞれの兄弟姉妹に対して、あくまで両親の年齢を基準に使うので、父親の妹ブリッ(年下のおばさん)が50歳で、母親の兄パッデ(年上のおじさん)が40歳、ということも普通に起こり得ます。いちいち頭で考えるとパンクするので、慣れるしかありません。

6.華人のお兄さん、お姉さん

華人系の住民同士、あるいは華人だと思われる相手に対しては、中国語由来の呼称が使われます。

  • ココ(Kokoh)、略称のコ:お兄さん、および男性に対する敬称。

  • チチ/チェチェ、略称のチ/チェ(Cici / Cece):お姉さん、および女性に対する敬称。

おそらく華人コミュニティのなかではもっと多様な親族呼称があるのでしょうが、公共の場で耳にするのはこの2つくらいです。現在社会の中核をなす30代40代は、中国語を話すことはかなり稀で、特にここでは彼らの母語はジャワ語となっています。名前もインドネシア風の名前、あるいは洋風の名前が多く、そうした特徴から華人かどうかを判断するのは困難です。

こうしたなかで、唯一、このココ、チチは私が知ることのできる「華人の特徴」となっています。ココ、チチの敬称で多くの人から呼ばれていれば、あの人は華人なのだろう、と考えることができるということです。

私自身、いかにも東アジアらしい顔つきをしているため、知らない人からは華人だと思われてチチと呼ばれることもあります。しかし付き合いが長く、私の出身、現在の家族構成を知る人たちは、誰一人として私をチチとは呼びません。そのため、この敬称は外見で判断してなんとなく使うのではなく、その人のアイデンティティに中国に由来するものがある場合に使用されるのだろうと感じています。

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