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地方政府業績評価~どの地方政府が優秀だったのか~(松井和久)

〜『よりどりインドネシア』第182号(2025年1月23日発行)所収〜


はじめに

インドネシアといえば、すぐに思い浮かぶのはバリ島と首都ジャカルタ、加えて古都ジョグジャカルタでしょうか。日本人の多くにとって、インドネシアの地方都市はほとんど知られていないものと思われます。インドネシアの在留邦人もまた、地方都市を訪れることは少ないことでしょう。いわんや、地方都市以外の地方の村々など全く未知の世界かもしれません。

そんな皆さんに少しでも様々なインドネシアを味わってもらおうと2017年に立ち上げたのが、この『よりどりインドネシア』です。なかでも、横山裕一さんの連載「いんどねしあ風土記」は、横山さんが実際にインドネシア各地を訪れ、その土地その土地の様々な特徴と、そこに生きる人々との触れあいが描かれていて、まるで一緒にインドネシアの地方を旅するような気分になります。

インドネシアの地方政府は、上位から州(provinsi)、県(kabupaten)・市(kota)、郡(kecamatan)、村(desa)・区(kelurahan)の大きく4段階に分かれます。県・市は同格ですが、都市部を形成するものを市としています。これらのうち、地方自治の機能を持つのが州、県・市、村で、郡は県・市の出先、区は市の出先となります。地方自治の機能を持つ場合にのみ、首長選挙が行われ、郡長は県知事・市長の任命、区長は市長の任命となります。

2024年2月時点での地方政府数は、38州、416県・98市、7,277郡、村と区を合わせると8万3,763件あります。2024年11月27日に投票が行われた統一地方首長選挙では、ジョグジャカルタ特別州を除く37州知事、416県知事と98市長が改選されました(ジョグジャカルタ特別州はスルタンであるハメンクブォノ10世が改選なしで州知事を務めます)。選挙自体には色々な問題がありましたが、死者が出るような騒ぎもなく、これだけの数の地方首長選挙が行われたのでした。

地方首長選挙の投票が終了した後の2024年12月4日、週刊誌『テンポ』(TEMPO)を発行するテンポ・メディア・グループと内務省は、2024年度地方政府業績評価(Apresiasi Kinerja Pemerintahan Daerah 2024)の結果を発表しました。どの地方政府の行政パフォーマンスが優れているかという評価プログラムは、1998年5月のスハルト中央集権体制が崩壊し、2001年から地方分権化が実施されるなかで、何度も行われてきました。それから20年以上が経ち、マンネリ傾向が目立ち始めると、初期の頃の活気に満ちた状況は遠のいてしまった印象があります。正直言って、筆者は「まだやっていたのか」と軽い驚きさえ感じました。

今回は、内務省と『テンポ』による地方政府業績評価について、その結果と評価プロセスについて見ていきます。

地方政府業績評価の結果発表後の集合写真
(出所)https://www.beritadaerah.co.id/index.php/2024/12/13/jawa-tengah-raih-penghargaan-apresiasi-kinerja-pemerintah-daerah-2024/

地方政府業績評価の選考プロセス

地方政府業績評価の選考プロセスは、次の3つの段階を経て行われました。

第1段階では、2023年の定量データに基づくスクリーニングが行われました。この段階では、内務省、行政改革省、オンブズマン、国家研究イノベーション庁(BRIN)、汚職撲滅委員会(KPK)など、様々な機関からのデータが収集され、分析されました。具体的には、内務省自治総局の持つ地方自治体業績データや業績指数データ、汚職撲滅委員会(KPK)の誠実性評価調査(SPI)、国家研究イノベーション庁(BRIN)の地域競争力指数などが用いられました。

次に、地方政府を州政府、県政府・市政府に分け、その各々の財政力に応じて高位、中位、低位に分けました。そして、全体評価、住民福祉、公共サービス、地域競争力の4部門で評価しました。さらに、地理的に西部、中部、東部に分け、各地方が最周辺(terluar)、最後進(tertinggal)、最遠隔(terpencil)かどうかも特定しました。

結局、2023年の定量データに基づいた34州(注:2023年時点では34州のみ)、415県、93市のなかから、第1段階で選ばれたのは81の地方政府でした(州、県・市別の数字は不明)。

第2段階では、第1段階での定量データ分析で選考に残った81地方政府を対象に現地調査を行い、地方政府の業績に対する住民の認識を把握しようとしました。現地調査は、対象の地方政府に知られることなく実施され、5,560人と面談し、質的データを収集・分析しました。その結果、この第2段階で次の最終選考へ向けて残ったのは、18州、28県、27市の計73の地方政府となりました。

第3段階は最終選考で、2024年12月2~4日、第2段階までに残った73の地方政府の首長が2023年の業績に関するプレゼンテーション(各7分)を行ない、審査員との質疑応答が行われました。審査員には、国家研究イノベーション庁(BRIN)主任研究員、内務省実績評価・能力向上部長、内務省監査総局事務長、オンブズマン副長官、『テンポ』データ分析センター長、そしてテンポ・メディア・グループ社長などが含まれています。

以上の3つの選考段階を終えて、審査員チームは、地方政府業績評価で優秀とされた57の地方政府を決定し、以下の通り、発表しました。

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