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[2024/12/23] 原子力発電所建設計画の復活 ~原子力エネルギー利用の夢は実現するか~ (松井和久)

~『よりどりインドネシア』第180号(2024年12月23日発行)所収~


はじめに

2024年10月に発足したプラボウォ新政権は、国家エネルギー協議会(Dewan Energi Nasional: DEN)を通じて、原子力発電所建設を推進することを明確に表明しました。

原子力発電所建設については、これまでも継続的に検討されてきましたが、政令2014年第79号で定められた国家エネルギー政策(Kebijakan Energi Nasional: KEN)では、原子力利用は最終手段と認識されてきました。政府はすでにこの政令の改訂版を用意し、原子力を他の再生エネルギー(水力、風力、太陽光など)と同格に位置づける新たな国家エネルギー政策を正式に表明する準備を整え、大統領署名を待機中です。

国家エネルギー協議会(DEN)などの発表によると、2032年に出力250メガワットの初の原子力発電所を商業稼働させる予定です。そして、2060年までに総出力能力54ギガワットを達成するための原子力発電所を建設していく、相当に野心的な計画を示しています。

プラボウォ政権が原子力発電所の建設を進める背景には、エネルギーの化石燃料依存を減らし、将来のエネルギー需給を支える目的があります。

政府予測では、黄金のインドネシアを目指す2045年の電力供給能力は1,590テラワット時ですが、電力需要は1,700テラワット時とされ、110テラワット時分が不足する計算です。このため、出力18ギガワットで150テラワット時を供給する新エネルギーが必要とされ、原子力発電でそれを賄う計画ということです。

インドネシアは2060年までにネット・ゼロ・エミッションを達成するロードマップを策定していますが、石炭に代わる新エネルギー・代替エネルギーへの投資が思うように進まず、早くも達成に悲観的な見方が強まっています。このため、新エネルギーの中心となる原子力発電が重要視されているのです。

国家電力基本計画案(エネルギー・鉱産資源大臣が未署名のため本稿執筆時点では案)によると、原子力発電による電力供給能力は2040年に7ギガワット、2045年に15ギガワット、2050年に22ギガワット、2055年に27ギガワット、2060年に35ギガワットと計画されています。

ロジックは不明ですが、原子力発電所建設は、インドネシアが年率8%を超える経済成長率を達成しながら2045年までにいわゆる「中進国の罠」を克服し、先進国入りするという目標を達成するために、不可避であると説明されています。

他方、原子力発電所建設の費用については、国家予算ではなく、基本的に、海外の民間企業等からの投資によって賄うことを計画しています。実際、すでにアメリカ、ロシア、フランス、中国、韓国、日本などの企業から原子力発電所建設への投資意向が示されています。昨今の世界情勢を反映し、各国の思惑が反映していると思われますが、プラボウォ政権はそれを逆手にとって、たとえば米・中のような、対立関係にある複数国から投資を受け入れて、中立性を保とうとするものと見られます。実際、現時点ではアメリカ企業が先行していますが、同時に、ロシアや中国からの投資誘致も積極的に働きかけています。

いよいよ本格化するとみられる原子力発電所建設ですが、インドネシアは独立間もない冷戦時代から、原子力エネルギーの利用に大きな関心をもっており、原子力発電所建設も想定していました。本稿では、そうしたインドネシアのこれまでの原子力発電所建設や原子力エネルギー利用に関する歴史的経緯を振り返りながら、今回のプラボウォ政権下での原子力発電所建設に関わる課題について検討したいと思います。

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