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さらば、ジョコウィ大統領~プラボウォ次期政権での影響力維持は困難~(松井和久)

〜『よりどりインドネシア』第175号(2024年10月9日発行)所収〜

10月20日のジョコ・ウィドド(通称:ジョコウィ)大統領退任、プラボウォ新大統領就任を前に、インドネシアの政局は早くも新政権へ向けての動きへ加速しています。ジョコウィ大統領は、プラボウォ新政権になっても自身の影響力を維持しようと動いてきましたが、現実にはかなり難しい状況になってきました。

その理由は大きく二つあります。第1に、ジョコウィ大統領の息子2人の問題です。次期副大統領となる長男のギブラン氏は、以前、SNSでプラボウォ氏やその家族を中傷していた疑いが発覚しました。また、次男のカエサン氏は、妻とともにプライベートジェット機に乗って無料でアメリカへ飛行したことが明らかになり、汚職疑惑が出ています。

第2に、ジョコウィ大統領の思惑がプラボウォ次期大統領と一致しない局面が多々現れていることです。その最大のものは、大統領選挙で敗北したものの、国会議員選挙で第一党の座を堅持した闘争民主党(PDIP)の次期政権入りの可能性が濃厚になったことです。ジョコウィ大統領は闘争民主党の次期政権入りを阻止したい一方で、プラボウォ次期大統領は政権安定化のために歓迎しているのです。

新国会議員任命式に向かうジョコウィ大統領(左)とプラボウォ次期大統領(右)
(出所)https://rm.id/baca-berita/nasional/237566/presiden-jokowi-dan-prabowo-semobil-hadiri-pelantikan-anggota-dpr

最近はむしろ、ジョコウィ大統領がプラボウォ次期大統領へ擦り寄るような場面すら見え始めました。たとえば、9月24日の国民協議会で、スカルノ、スハルト、アブドゥルラフマン・ワヒドの3人の元大統領の名前の入った過去のMPR決定を破棄することを決定し、3人の名誉回復が行われました。これはもともとのMPRでの議題に入っておらず、ジョコウィ大統領の意向が反映されたということです。ゴルカル党はスハルト元大統領を国家英雄にする方向です。

8月20日憲法裁判所決定で次男カエサン氏の州知事選挙立候補が不可となり、それを無視した国会での地方首長選挙法改正の動きもデモの広がりで封じられ、ジョコウィ大統領の目下の関心事項はいかにギブラン次期副大統領を守るかに絞られています。そのギブラン氏は前述のSNS問題で矢面に立たされ、次期政権構想の話し合いにも呼ばれない状況にあります。

ジョコウィ大統領が唯一主導権をとれたのは、汚職撲滅委員会(KPK)の委員人事で、10人の候補者のほとんどを自分の息のかかった人物とし、新政権発足前に決めたい意向です。しかし、当然のことながら、プラボウォ次期大統領はこの人事を新政権発足後に行いたいと考えます。汚職撲滅委員会を特定政治家への攻撃や圧力として使ってきたジョコウィ政権の手法は、プラボウォ次期政権へも引き継がれるはずです。

本稿では、これらの事象を踏まえて、当初の予想以上に、政局がジョコウィからプラボウォへ急速に重心を移している現状をみていきます。


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