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ロンボクだより(113):今日のドラマ - イネさんとママが歩いた道(岡本みどり)

~『よりどりインドネシア』第173号(2024年9月8日発行)所収~

皆さん、こんにちは。ロンボク島は風が強くなってきました。この風が雨季を連れてくるのですが、強風が吹くと危険なので、大きな木がバサバサ切られています。

今回の記事は、近所で起こった出来事を私の娘の視点で綴っています。

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私は小学校5年生。ママと毎日「今日のドラマ」を話すのが好きです。今日のドラマとは、今日起こった出来事のうち、特に面白かったことやビックリしたこと、うれしかったことです。

最近(ママが「『最近』なんていう日本語が使えるんだね」と喜んでいました)、ママから聞いた「今日のドラマ」は、イネさんの話です。

イネさんは親戚のおばあさんです。私たちの家から4軒東の家に住んでいます。

隣の家のマスルンさんと同じ病気 ― 脳の血管が詰まる病気だとママが言っていた ― で倒れてから、足があまり動かなくなっていました。言葉も、アーとかウーとかは言えるけど、話せないみたいです。毎朝、杖をつきながらすり足で小さい道を歩くの。リハビリなんだって。

でもね、イネさんは時々、「あーんあーん」と大きな声で泣きながら道を歩きます。それはいつも早朝で、すぐにイネさんの孫たちが追いかけてきて、家に連れ戻されています。お姉さんに会いたくて泣いているんだと聞きました。

その日もイネさんは、朝の6時ごろに泣きながら歩いていました。だけど、後ろから孫たちが追いかけてきませんでした。

「ママは、イネさんのこと、見てくるわ。時間になったら自分で学校へ行ける?」

「うん。ママ、あとでドラマ教えてね」

「わかった」

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私は毎日、6時30分に家を出発して学校へ行きます。この日もその時間に家を出ました。

家の前の小さい道を歩いて、大きい道とぶつかったら左に曲がります。この曲がり角には、夜はバッソ(肉団子)を売っているカキリマがあります。でも、朝は何もありません。まだ車も少なくて静かです。どこかから、ザーザーという音がします。ママがいつもお米を買うお店のおばさんが、ホウキで店の前を掃いているのが見えました。

お米の店から大きな道を渡ったところに、クラスの男子たちが髪の毛を切ってもらう理容店と、バイクの修理をしてくれる店があります。

そのバイク修理の店の前に、ママとイネさんとイネさんの夫のウディンさんと、もう一人男の人がいました。みんなで何かを話しているみたい。

「ママー」と呼んだら、ママが「いってらっしゃーい」と手を振ってくれました。

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学校で勉強をしたあと、家に帰って、ママにイネさんの話の続きを聞きました。

家を出たママがイネさんに追いついたのは、夜にバッソ屋のあるところ。少し段差があるからイネさんは前へ進めなくなっていました。やはりイネさんは、お姉さんに会いに行きたかったそうです。

イネさんの気持ちはよくわかったけど、イネさんのお姉さんは、今のイネさんの足だと1時間くらいかかるところに住んでいます。困ったな。

ママはイネさんが途中で歩けなくなるのを心配して、しばらくイネさんを説得しました。だけど、イネさんは目に涙をため、ぎゅっと杖を握ったまま、家に帰ろうとしません。

「これはちゃんとお姉さんと会ったほうがいいな」

とうとうママもイネさんの気持ちに負けて、イネさんのお姉さんの家まで付き添いをすることにしました。

「えー!ママはイネさんのお姉さんのところまで行ったの?」

「まだ続きがあるんだって」

ママに笑われました。

イネさんとママが歩いた道

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