【旅行記】中東の風に吹かれにオマーンに行ってみた(その3)
日本人になじみの薄い中東・アラブ世界の中でも特にどマイナーな国、オマーンに行ってみた旅の記録です。アラブを代表する伝統的な乳香交易を今に伝える世界遺産を訪ねた。
■ 3日目:乳香の土地へ
3日目は国内便を使って、日帰りで首都マスカットから1,000㎞以上離れた南部ドファール地方の中心都市、サラーラを観光しました。
サラーラは現スルタン、カーブース・ビン・サイードの出身地でもあり、アラビア湾に面する港町という側面のほかに、近年観光地としての整備が進んでいます。
目玉となる観光資源は、オマーンに4つ現存する世界遺産の1つ、「乳香の土地」(Land of Frankincense)と呼ばれる遺跡群です。「乳香」はアラビア半島を中心に自生する樹木から採取される樹液を固めて作った香料で、甘いお香のような香りがします。エジプトの墳墓でも使用跡が見つかっているほど、歴史のある品物です。
乳香の樹は栽培が困難と言われており、乳香の樹が数多く自生するオマーンでは、乳香が古来から主要な貿易品目として大事にされてきました。現在でも、お土産物として販売されていたり、店先で焚かれていたりと、バリバリ現役で使われています。
特にサラーラ周辺は紀元前から乳香の産地及び積み出し港として栄えており、アラブ世界における乳香交易の最重要拠点でした。乳香の樹が自生する自然公園を含む4地点が「乳香の土地」として2000年に世界遺産登録を受けていますが、今回は時間の都合でそのうちの2か所、サムフラムの城砦跡とアル・バリードの都市跡を訪ねることにしました。
■ ホテルお引越し~サラーラへ
日帰りの強行日程のため、朝5時ごろにホテルをチェックアウトし、沿岸部のホテル「マリーナ・ホテル」に移動して、そこに荷物を預けました。初日から2晩宿泊したマトラ・ホテルは雰囲気こそ申し分なかったのですが、如何せん中心部や繁華街へのアクセスが悪かったため、沿岸部に移ることにしました。
沿岸部から、内陸の空港方面に取って返し、朝7時過ぎに同国の公営航空オマーン・エアでサラーラ行きの便に乗り込みました。フラッグキャリアということもあり、全体的にサービスは良好でした。特に発着の遅れやトラブルも無く10時前にサラーラに到着。
サラーラにはマスカットにあるような路線バスがないため、主要な交通手段としてタクシーの貸切や、乗合タクシー(近い目的地に行く人たちでシェアするミニバン型のタクシー)、レンタカーが挙げられます。今回は時間も限られるため、最初にサムフラムの遺跡により、次いで近くの港町であるタカにタクシーで移動してもらうことにしました。
空港のカウンターで車を確保し、いざ出発。南部地方はマスカットと違い、6~9月頃が雨季となっているため、10月時点でも周辺に緑が残っていた。また山がちなマスカット周辺と異なり、地形も比較的平坦で見晴らしがよいのが特徴です。快速で飛ばすおじいちゃん運転手と喋りながら遠くに見える山脈を眺めているうちに30分ほどでサムフラムの遺跡に到着しました。
■ アラビア湾を望む古代都市、サムフラム
サムフラムはホール・ルーリとも呼ばれ、アラビア海に面した城砦都市です。紀元前から乳香の交易の重要拠点として栄えており、遺跡内部には、旧約聖書に登場するシバの女王の宮殿跡とされる建物も残されています。遺跡は目下修復中で、炎天下の中多くの作業員が働いていました。
サムフラムの遺跡
一人で遺跡をウロウロしていると、一人の作業員が近づいてきて、これは用水施設だ、あそこが正門だと声をかけてきます。大抵こういうところで話しかけてくる地元民はガイドを自称して金をせびってくるため警戒していたのですが、彼は本当にただの暇な作業員だったようで、片言の英語でペラペラ喋るとどこかに行ってしまいました。警戒して悪いことしたな。
遺跡自体はさほど大きくなく、さらに修復中のため見どころは少ないものの、とにかく周囲の景観が素晴らしい。背後の山並みからはワディを通じて水がアラビア海に流れ込んでおり、遠くには木造船も眺められます。
アラビア海を望む
遺跡に付設の資料館で乳香やアラビア海交易に関する背景知識を勉強し(ついでにエアコンで涼を取った)、タクシーで港町タカへ向かってもらいました。
■ 現代に残る城塞、タカ・フォート
タカに向かいたかったのは、町中に残されている砦(フォート)を見学したかったのもありますが、タクシーを一日借切るには予算が足りなかったため、タカで安い乗合タクシーでも拾って、サラーラの中心部へ向かおうと考えていました。
おじいちゃん運転手は日本から来たみすぼらしい身なりの旅行者が余程心配だったのか、タカに着いて私がタクシーを降りるときも、「あそこのホテルに行けば情報が手に入る」「困ったら俺に電話しろ」など非常に気を遣ってくれました。ありがたい。
タカ・フォートは(たしか)19世紀ごろまで現役で使用されていた地方領主の砦で、現在は博物館になっています。規模は小ぢんまりしているものの、内部の構造は意外と複雑で、生活様式の展示も見応えがあります。
スルタンの写真が飾ってある部屋だけ、なぜかガンガンに冷房が効いていました。時刻は昼に差し掛かり気温も高くなってきたので、スルタンに感謝しつつ、部屋に2,3回入って体力を回復した。
タカ・フォート内部
■ サラーラへ向かおう
城内を一通り回った後、フォートの受付でサラーラ行きタクシー乗り場を聞いてみるも、どうも要領を得ない。仕方ないので街に出てジュース屋の兄ちゃんに聞いてみたりしましたが、そもそも言葉がうまく通じずよくわかりませんでした。ちなみにジュース屋のミントとレモンのジュースが異常に美味しかったです(しかもメニュー表の価格より安かった)。
フォートで教えられたタクシー乗り場らしきところまで辿り着くも、タクシーらしき車両は一台もなし。そこで通りがかりの兄ちゃんに「サラーラ行きの車を探してるんだけど」と尋ねると、兄ちゃんは「ちょっと待ってろ」とどこかに電話を掛け出したではありませんか。
タクシーってそういうもんじゃないだろと思いつつも歩くのすら面倒なほどの猛暑なのでその場で待っていると、一台のオンボロ車がやってきて、なんとサラーラまで行くと言います。
よもや人気のない場所に連れて行って強盗かと思いつつ祈るような気分で助手席に座っていたのですが、意外にも2OR(≒600円)でサラーラのメインストリートまで連れて行ってくれた。
ここまで来て実感したのですが、オマーンは善人(ちゃんとした人or善意で近づいてくる人)がとても多かったです。人間関係で不愉快な思いをしたのは碌に仕事をしないバス会社のオッサンどもと、隙あらばぼったくってこようとするタクシーの運転手くらいのもので、市井の人たちは大体親切でした(ベクトルが間違っていることも多いですが)。
■ オマーンの築地
時刻は12時半過ぎ、思わぬ形でサラーラに到着しました。(金がないので)サラーラからは徒歩でアル・バリードまで向かおうと思っていたため、昼食を摂りつつ、少し気温が収まるまで待とうと、中心部の公営市場へ向かいました。サラーラには港町らしく広大な魚市場があり、昼過ぎにも関わらず多くの業者が品物を扱っています。
マグロ、ご期待ください
市場内には飲食店が何軒もあり、そのうちの一軒で昼食にした。メニューは鶏のビリヤニ。ビリヤニはアジアから中東にかけてよく食べられるピラフみたいな食べ物で、南アジア以西では作り置きされてファストフード的になっていることも多い。すぐ運ばれてきた皿には豪快に鶏一羽分丸々とすごい量の米。これで300円程度というのだから驚き。
ビリヤニ
各テーブルには予めビニールシートが敷いてあり、下げるときにはビニールシートで器をまとめて包んで厨房へ下げていく効率的なシステムが採られていました。忙しく働く市場関係者のための安食堂という雰囲気で、オマーンの築地と呼ぶに相応しい活気に溢れた場所でした。人々も気さくで話やすく、異国から来た観光客に抵抗がない様子で話しかけてくれました。
市場内部
■ 紀元前の交易都市へ:アル・バリード
腹ごなしの散歩がてら近くのコーヒーショップまで歩き、(暑かったので)3時過ぎまでダラダラした後、本日の目玉であるアル・バリード遺跡まで歩くことにしました。歩いて片道45分程度ということでなめてかかっていたのですが、ピークを過ぎても思った以上に暑く、木陰や建物の影を選んで歩かないとすぐに汗だくになります。途中から、全身汗だくで、タオルをずっと頭に被っている軽めの変質者ができあがっていました。
海岸沿いの道を行く
それでもアラビア海を眺められる沿岸の道は気持ちがよく、途中現地の子供や車に乗ったおじさんに話しかけられつつも、なんとか目的地に到着(地図を見ると入口が敷地の別の場所にあるように見えて戦々恐々としていたのですが、無事に入れました。助かった)。
アル・バリードは広大な港町の跡で、現在でもアラビア海に面した砂浜が間近に見えています。というか、アル・バリードからも砂浜に入れるようになっています。内部は公園として綺麗に整備されており、(おそらく人工の)川が流れ、緑も豊かなエリアと殺風景な遺跡エリアに分かれていました。
アル・バリードの遺跡
遺跡パートはだだっ広い土地になんとなく建物跡が残っている程度で、それほど見どころが多いわけでもないのですが、案内板もないような広大な遺跡を勝手気ままに歩けるので、それはそれで楽しかったです。
遺跡に飽きたらそのまま海岸へ。広大な砂浜が広がり、開放感満載でした。
海がとても綺麗
遺跡を出たところの路上で捕まえたタクシーで空港へ向かい、夜11時ごろマスカットに着きました。深夜になっても比較的治安がいいのがオマーンのよいところ。
今日はここまで。お読みくださりありがとうございました!