【温泉】最古のキリスト教国アルメニアでかけ流し個室温泉に入った話【海外】
仕事を辞めて久々に長い休み(有給消化期間)ができたので、20日間余りの海外旅行に出ることにしました。アイスランド→ブルガリアを経て、黒海に面したコーカサス地方のアルメニアで、かけ流しの天然温泉に一人個室で堪能してきました。
アイスランドの記事はこちら(2件)
ブルガリアの記事はこちら(1件)
アルメニアってどんな国?
東欧のブルガリアを離れ、LCCで地中海の島国キプロスを経て、黒海とカスピ海に挟まれた南コーカサス地方のアルメニアという国に来た。
アルメニアは、南北をそれぞれトルコとロシアに囲まれた、いわゆるコーカサスと呼ばれる地域のうち、隣国のジョージアとアゼルバイジャンとあわせて南コーカサス地方に属している。
2023年の外国人入国者数は2,316,666人(出所:CEIC)。多くの旅行者は周辺のジョージア、イラン、ロシアから来ており、(時点が不明瞭だが)日本からの旅行者数は13,000人程度(出所:外務省資料)と、ブルガリアに負けず劣らずマイナーな国と言ってよい。
アルメニアを語るうえで外せないのが、国を離れて世界に離散した「ディアスポラ」と呼ばれるアルメニア系移民の存在だ。11世紀に当時のアルメニア王国が東ローマ帝国に滅ぼされたことを契機に、旧領に移住するアルメニア人が現れ始めた。アルメニアは301年という早くにキリスト教(アルメニア使徒教会)を国教化したことで、キリスト教世界へのコネクションが深く、貿易や通商の面で制限が少ないことから地中海やバルカン半島で活躍した。
さらに近世から20世紀に至るまで、アルメニアはオスマン帝国支配下にあったが、そこで発生したアルメニア人に対する虐殺を契機に、いっそう多くのアルメニア人が国外に移住した。なおトルコ政府は虐殺について公式に否定し続けており、アゼルバイジャンとの領土問題も手伝って、両国は現在に至るまで約30年の断交状態にある。
このようにアルメニア人はユダヤ人に次ぐ巨大なディアスポラコミュニティを形成しており、言語(アルメニア語)も、事実上の公用語である東アルメニア語とトルコ系の西アルメニア語との間で文法や語彙面が相当に異なるものになってしまっているそうだ。
こうした状況下でも、男子プロテニスプレイヤーのアンドレ・アガシや、フランスの歌手シャルル・アズナヴールなど、世界的に活躍するアルメニア系移民も数多い。
アルメニアで温泉を探す
アルメニアの最有力な観光資源と言えば、上述の通り世界最古のキリスト教文化に根差した建造物である。「アルメニア様式」と呼ばれる重厚な石造りの修道院や教会が各地に残り、世界遺産に登録されている建造物も少なくない。
そんなアルメニアに温泉はないものかと思って旅行記を調べていたところ、首都エレバンから車で1時間ちょっとの「ハンカヴァン」(Hankavan)という村に天然温泉があるという記事を見つけたため、せっかくなので行ってみることにした。
ハンカヴァンへ
定番の世界遺産などであれば、首都のエレバンから出発する英語ガイドつきの現地ツアーもあるのだが、ハンカヴァンの場合はそれすらない。上の記事で日本人の方が実際に試されているように「マルシュルートカ」という乗り合いバスやライドシェアを乗り継いで行く方法もあるが、朝早く起きないといけないのと、夏時期にクーラーなどないすし詰めバスに乗るのが嫌だったので、タクシーをチャーターして向かうことにした。
現地でよく用いられている「Yandex Go」という配車アプリでハンカヴァンを目的地に指定できたため、タクシーを捕まえる。ちなみに片道で12,000ドラム(約4,800円。1ドラム=0.4円)。
やってきた運転手のおじさんは全く英語を話さない人だったため、片言のアルメニア語と翻訳アプリの力で、目的地で数時間待機してもらうこと+エレバンまでの戻りの足を確保した。
交通渋滞の激しい首都エレバンから30分も走ると、緑の山々が広がる牧歌的な風景が広がってくる。気温も心持ち下がり、クーラーこそないが窓を全開にすると風も涼しく爽快だ。
山々を見上げる道をひた走ること数十分、首都からちょうど1時間でハンカヴァンという村に着いた。ハンカヴァンはアルメニアの中にあってギリシャ系の住民が多いとかで、アルメニア語のアルファベットでなく角ばったギリシャ文字の墓碑が残っているなど、マイノリティの文化を今に残しているそうだ。
馬、羊、牛などの牧畜が盛んな土地柄で、牧羊犬で羊を追う人がいたり、ロバがつながれていたり、そこらじゅうで多くの動物が飼われていた。
電波が弱く心もとない地図アプリの表示を頼りに田舎道を進んでいくと、少し開けた場所に温泉の窓口があった。隣には簡易的な食堂ないしカフェもあり、数人地元の人たちが集まっている。窓口でダルそうにしているやはり英語の通じないおじさんに声をかけると、芋づる式に別のおじさんやおばさんがやってきて、風呂に入りたい旨を説明した。
身振り手振りで1時間で5,000ドラム(約2,000円)との説明を受け、支払が済むと窓口隣の建物に案内された。ごく普通の建物っぽいが、ドアを開けるとそこはすぐ浴室になっている。
黄金色の個室温泉
中のつくりは非常にシンプルで、3-4m四方の浴槽に、ベンチが2台あるだけというもの。ただ、浴槽のパイプからはかなりの勢いでやや濁った黄金色のお湯が流れ出し、かけ流し状態になっている。
ちなみにシャワーとかカランなんてものはない。私の拙い語学力では地元の人がどうしているのか確認できず、またシャンプーとか外に流すのもどうかと思ったので、髪を濡らさず浸かることにした。
体感の湯温は40℃あるかないかで、夏だと数分で体が熱くなってくるくらい。この近くにはスキーリゾート地のある山がそびえていて、冬場の方が温泉もハイシーズンになるそう。
浴槽はけっこう深めで、120~30センチくらいはある。下に黄色の丸っこい玉砂利が敷いてあり、足にちょうどよい刺激。温泉の効能は不明だが、浸かっていると代謝が上がって、肌がツルツルしてくる感覚がある。なお、こっそり飲んでみたもののしょっぱくエグみがあり、飲泉は難しそう。
誰もいないため、体が温まったら浴槽の縁で寝っ転がるという、都内の銭湯では絶対に許されない行為ができるのもよいところ。天井がガッツリ切り取られた、なんちゃって露天とは違うリアルな露天風呂が素晴らしく、青空と、流れていく雲を眺めながら温泉に浸かるという日本的なリラクゼーションが可能だ。
森林浴でチルアウト
1時間の温泉を楽しんだあと、周りをぶらついたあと幹線道路に出ると、近くの街にいると思っていた運転手のおじさんがタクシーを路肩に停め、脇の森の中に毛布を敷いてゴロゴロしていた。
私も毛布に入れてもらい、しばし寝っ転がって鳥のさえずりと葉擦れの音で森林浴を楽しんだ。温泉で火照った体に、木々を抜ける風が気持ちよく、そのまま夜まで眠ってしまいそうなくらい気持ちよかった。これが今流行りのチルアウトなのかもしれない。
ここまでお読みくださりありがとうございました!