独身男性が東京の銭湯を勝手に評価する(その8:定番の銭湯)
SFならアイザック・アシモフ、真珠ならMIKIMOTO。どんなものにも定番が存在する。今回は、まだ行ってないの?と、その道の人に鼻で笑われそうな定番の銭湯を紹介します。
※新型コロナウイルス感染症の影響で、営業日や営業時間を一時的に変更している銭湯が多くなっています。本稿では最新の情報の発信を心掛けておりますが、実際の営業についての確認は各銭湯にお願いします。
■ 大黒湯(足立区)・・・偉容の「キングオブ銭湯」【90点】
次に紹介するタカラ湯とともに、都内の銭湯シーンを代表する定番中の定番がこの大黒湯だ。1929(昭和4)年創業という、もうすぐ100歳を迎える老舗銭湯は、今日も地元の人々でにぎわう。
建物は東京銭湯のスタンダードの宮造り。頭上には屋号の由来か小さな木彫りの大黒様。銭湯芸術家ウエハラヨシハル氏作の「わ」と書かれた板(わ、いたで、湯が沸いたと意味する地口)が営業中を示す。
宮造りの風格ある外観
「わ」板で「(湯が)沸いた」ことを示す。逆は「ぬ」板
23区の銭湯としては浴室スペースはかなり広め。カランは目算で40ほどあるんじゃないだろうか。北千住の飲み屋で聞いたところ、やはり大黒湯は近隣の銭湯では最大級らしい。
浴室正面のペンキ絵は堂々とした富士山。ここは富士山でなければならない。ちなみに女湯は赤富士だそう。
この手の銭湯にはアルプスでも上高地でもなく、富士山が描かれていなくてはならない。王道を外さない様には安心感すら覚える。
浴槽は座風呂や寝風呂の付いた白湯、露天風呂、そしてサウナに水風呂。露天風呂は坪庭とつながっていて、椅子で外気浴ができる。白湯も広々としていて、家風呂とは違う入浴経験の有難みを改めて思い出させてくれる。
休憩スペースには小上がりやマッサージチェアも完備され、風呂上がりのケアも抜かりない。
北千住駅から少し距離がある(徒歩10分超)ぐらいしか欠点が思いつかない。銭湯が好きならとやかく言わずに一度は入っておくべき、王道中の王道。誰が言ったか「キングオブ銭湯」。その名は伊達ではないと思い知る。
大黒湯
住所:〒120-0033 東京都足立区千住寿町32−6
営業時間:15:00~23:30
定休日:月曜日
※6月24日現在、サウナに利用制限あり
■ タカラ湯 (足立区)・・・「キングオブ縁側」は浴室も王者級【95点】
北千住駅から徒歩15分程度、日光街道から細い商店街を抜け、さらに路地に入ると現れる和風の建物がタカラ湯だ。
タカラ湯といえば少し前、東京メトロのCMに登場したことでも有名だろう。石原さとみが縁側で寛ぐシーンを覚えている方も多いのではないか。もちろん私もその一人だ。
タカラ湯も大黒湯と同様、破風造りの和風建築で、入口には屋号の由来となった木彫りの宝船が鎮座する。
高い煙突が目印
木彫りの宝船
浴室はそこそこの広さで、カランが30程度設置されているがカラン同士の間隔がゆったり空いていて、図らずもソーシャルディスタンスが成立している。
浴槽は入口正面のメインエリアと、奥まったサブエリアに分かれている。メインエリアには電気風呂、ジャグジー、座風呂のジェットバスがある。湯温は体感で45度、そこそこ熱い。壁には銭湯絵師の中島盛夫氏が描いた富士山が見事だ。
サブエリアはぬるめ(40度程度)の薬湯とゲルマニウム鉱泉の水風呂。薬湯の壁には水木しげるが描いたような地獄の絵があり、閻魔大王とか鬼が亡者を拷問している。なんで?
さて、特筆すべきは水風呂だ。多くの水風呂は水温10度台後半から20度程度に設定されているので、あつ湯やサウナで温まった体にもキューっと効くようになっている。
しかしタカラ湯の水風呂は34度と、かなり高めだ(水温計の表示を信じるならば)。人肌とほぼ同じ温度で、夏場のプールくらいの清涼感が持続してずっと入っていられる。湧き出し口にゲルマニウム鉱石を置いているので、血液循環を正常化する効果も期待できるそうだ。
タカラ湯はメインエリアの湯温が高めなので、そこでぐわっと温まってから、水風呂にじっくり浸かってリラックスする。水風呂の正面には座れるスペースもあるので、そこで座って心を落ち着けると、ふっと「ととのった」状態に入れる(正面眺めると目に入るのは地獄で責め苦を受ける亡者の絵なので、目をつぶったほうが吉)。
サウナーはついつい「シングル」(水温10度未満の水風呂を示す俗語)だのなんだのと、冷温のギャップでもって「ととのい」に入ろうとするが、タカラ湯の「ととのい」システムはそれと真逆の哲学で作られている。
かつて墨田区の御谷湯の「不感温温泉」を紹介したが、それと同様、じっくりゆっくり癒やされる効果があるようだ。
※御谷湯の紹介記事はこちら↓
ちなみに、水風呂は銭湯においてサウナの付属物として取り扱われることが多い。つまり、サウナがあるのに水風呂がない、という銭湯はほとんどないが、サウナがないのに水風呂がある、というのはあまりないケースなのだ。よくぞこれほどのものを作ってくださった、と感謝したくなる。
風呂あがりはお楽しみの縁側に向かおう。縁側は年季の入った木造りで、かなりスペースがある。
緑でいっぱいの庭には大きな池があり、鯉がゆうゆうと泳ぐ。風鈴の音を聴きながらビールを開けることだってできる。
派手ではないが、入る者を全て癒やしてやろうという気概に満ちた千住のオアシス。駅から遠いことを加味してベースは90点だが、石原さとみに敬意を表して5点加点させていただきたい。
タカラ湯
住所:〒120-0041 東京都足立区千住元町27−1
営業時間:15:00-23:30
定休日:金曜日
■ 蒲田温泉(大田区)・・・圧倒的コスパの温泉銭湯【88点】
大田区といえば、都内でも有数の温泉湧出地である。植物質が溶け込み、独特の色と匂い、少しぬるぬるとした質感が特徴の「黒湯」に恵まれ、多くの温泉銭湯や、ホテル付設の日帰り温泉が今なお軒を連ねる。
このシリーズでも蒲田の「ゆ〜シティ」を紹介したが、今回は大田区蒲田の温泉銭湯の本丸、その名も「蒲田温泉」に行った。
※「ゆ~シティ蒲田」の紹介記事はこちら↓
JR蒲田駅東口から徒歩15分、住宅と「☓☓製作所」のような小工場が並ぶエリアに、突如「蒲田温泉」というアーケードが現れる。
ライオンさんだぜ
昭和の温泉地のようなノスタルジックな見た目の建物には多くの地元民が吸い込まれていく。券売機が大盛りで知られる某ラーメン屋みたいなのはご愛嬌。というかこっちの方が圧倒的に歴史が古いから、ラーメン〇郎がこっちに寄せてきてるのか。
浴槽は温度の異なる黒湯温泉2種類と、ゲルマニウム鉱泉の電気風呂とジャグジーバスの計4つ、それにドライサウナと水風呂がある。
黒湯はかなり色が濃く、いかにも体に良さげだ。浴室内の案内表示によると、「美容の湯」と呼ばれるほどお肌にもいいらしい。
ただし熱い方は45度を超えていて、なかなか体ごと浸かれないレベルだ。私の知る限り都内で最も熱い、台東区の「六龍鉱泉」とタメを張るほどに熱い。
※六龍鉱泉の紹介記事はこちら↓
私が見ていた時も、少し触って退散していく若い人が多い中、足取りの覚束ない爺さまが平然と肩まで浸かっていた。さすが…
サウナはキャパシティ5人程度と小さいが、新しい感じで清潔。私は暑がりなので参考程度にとどめていただきたいが、けっこう暑かった。隣に水風呂があり、こちらは20度台で比較的ぬる目。
素晴らしいことに、蒲田温泉は入浴料金にサウナ代が含まれている。しかも一度入場すれば、途中休憩所や上階の大広間を挟んで風呂入り放題。
銭湯料金(470円)であたかもスーパー銭湯のような過ごし方ができてしまうのだ。正直経営が心配になるレベルの大盤振る舞いには驚かされる。
しかも営業時間も長いのもうれしい。たいがい昼15時ごろに営業開始する銭湯が多い中、朝10時からと朝風呂が楽しめる。しかも年中無休。
1937年創業という年季ゆえちょっと設備や内装が古いなーと思うところがあったが、圧倒的なホスピタリティと風情を感じる温泉銭湯だ。
蒲田温泉
住所:〒144-0053 東京都大田区蒲田本町2-23−2
営業時間:10:00-25:00
定休日:なし(水曜日は大広間の利用不可)
■ 天然温泉 久松湯(練馬区)・・・住宅街のスタイリッシュな温泉銭湯【95点】
西武池袋線桜台駅から徒歩7~8分、住宅街に溶け込む白を基調としたスタイリッシュな建物が久松湯だ。
エントランス
ロゴも妙にお洒落だ
なんでも、もともとは普通の銭湯だったそうだが、2014年にリニューアルオープンした際、温泉を掘り当ててしまったという。そんな現代に蘇った花咲か爺さんのごとき逸話を持つ久松湯は、どこをとっても怪物級である。
目玉は店名にも掲げられている天然温泉だ。しかもそれを露天風呂で提供するという贅沢っぷり。
都内の銭湯には露天といいつつ、ろくに外を見られないところが少なくないが、ここはしっかりと開放的な露天風呂だ。休憩スペースも兼ねており、ぼんやり空を眺めながら外気浴を楽しむことができる。
地下1500mから汲み上げている温泉は黄土色で、舐めるとしょっぱい。都内だと清水湯(武蔵小山)の「黄金の湯」に近い色合いだ。
なお個人的には、温泉は色がついていると嬉しい。なんとなく効き目が高そうだから(頭の悪い意見)。
※清水湯の紹介記事はこちら↓
室内も電気風呂やジャグジーを備えた白湯、高濃度炭酸泉、サウナに水風呂と設備が充実。
露天風呂とは別に、ちょっと外に出られる小スペースも用意されていて、サウナ→水風呂→外気浴の黄金のリフレッシュサイクルがしごく容易に実現する。
内装も凝りに凝っており、町なか銭湯の域を超えたこだわりが光る。休憩スペースを兼ねたエントランスは美術館やオフィスビルのロビーを彷彿とさせる。
木を基調とした更衣室、白いタイル張りの浴槽、黒をベースカラーとした洗い場はいずれも清潔で、ビビッドすぎず互いを引き立て合う。
個人的な注目ポイントは浴槽の天井の窓の切り方。細長い平行四辺形に切り出されていて、ディテールまでデザインが洗練されている。
練馬桜台の商店街からもほどほどに近く、帰りに一杯やって帰るにはうってつけだ。
正直シャンプーとボディソープが有料な点ぐらいしか、不満が思いつかない規格外の銭湯。ここ目当てに桜台に住もうかと、一瞬真剣に考えてしまったほどだ。
天然温泉 久松湯
住所:〒176-0002 東京都練馬区桜台4丁目32−15
営業時間:11:00-23:00
定休日:火曜日
■ (番外)天然ラジウム温泉 スパ&サウナ 鷲の湯(神奈川県横浜市)・・・横浜の温泉クオリティを体現する温泉銭湯【93点】
JR横浜線大口駅または京浜急行子安駅から徒歩10分、街道沿いのネオンサインが目標の建物が、横浜の温泉銭湯「鷲の湯」だ。
見た目は正直古めかしいというか、ビル型の銭湯っぽいのだが、普通の銭湯と比較すると、浴室空間の広さが驚異的だ。
男女日替わりの「野天乃湯」、「森林乃湯」というコンセプトの異なる2つの浴室があり、どちらも浴槽が5〜6個あり(露天風呂含む)、サウナに水風呂もついている。
やはり目玉は露天の天然温泉。少し黒っぽい色味はやはり黒湯の系列か。岩で囲んだ本格派で、しっかり外が見える正調の露天風呂だ。比較的湯温が高めで、火照った体をクールダウンさせる外気浴用スペースも完備。
また、秋田県玉川温泉産の「北投石」というラドンを放出する鉱石を用いた風呂もある。かなり広めのサウナもあり、隣の水風呂も温泉というこだわりが光る。
それ以外にもアロマバス、打たせ湯、ボディーマッサージ、ジェットバス、寝風呂、電気風呂と、下手なスーパー銭湯を超える種類の浴槽が楽しめる。
さらに食堂併設の休憩所も完備されており、風呂上がりに食事やお酒も飲める。
横浜出身の筆者の色眼鏡かもしれないが、これほどの質と量の入浴設備を銭湯料金で使えるというのは、全国的にも多くないだろう。
綱島温泉に代表される横浜の温泉クオリティを体現する広大な入浴パラダイス。あんまりにも広いので、一人で行くより友達や家族でワイワイ楽しむのがおすすめだ。
天然ラジウム温泉 スパ&サウナ 鷲の湯
住所:〒221-0061 神奈川県横浜市神奈川区七島町151
営業時間:平日11:00−24:00、土日祝10:00-24:00
定休日:不定休
ここまでお読みくださりありがとうございました!