【雑記】或る作家の死
急にどうかしちゃったタイトルで申し訳ない。
ほんとうにたまたま知ったことだが、今日11月23日は、昨年亡くなった作家の小林泰三(こばやし やすみ)氏の1周忌にあたる。
氏はホラーでデビューし、その後ミステリー、SFなど多彩なジャンルで活躍した。大阪大の大学院の工学系修了、メーカーで開発者として勤務するなど、理系の深い知識に裏打ちされた「リアリティのある突拍子のなさ」が魅力だった。
筆者は中学のころからホラー小説大好き人間で、特に中学・高校の頃は今よりずっとたくさんのホラーを読んで過ごしていた嫌なガキだったのだが、最初のころに読んだのが、小林氏が角川ホラー文庫から出した短編集「玩具修理者」「家に棲むもの」だったのを覚えている。
前者の表題作「玩具修理者」は映像化もされ、氏のホラー畑の作品ではおそらく最も有名な作品だ。ある日誤って弟を死なせてしまった姉が、町外れに住む「玩具修理者」のもとに弟を持ち込み修理してもらおうとするという話。「テセウスの船」を彷彿とさせるような、人の同一性にまつわる議論の行方と、綿密に張られた伏線を活かしきった結末のインパクトは出色なので、読んだことのない方はぜひお読みいただきたい。
グロテスクなくせに妙に説得力のある発想と展開が、男の子の中二心をいかにくすぐるものか、そういう道を通った人は苦い記憶とともにわかっていただけると信じてやまない。
後者「家に棲むもの」も、血生臭さに満ちた悪夢のような短編集。夏休みの部活の合宿に持っていったところ、私から面白がって本を取り上げて読んでいたOBの先輩が、深夜に変な声を上げながら飛び起きるという事件を起こした。個人的に曰くつきの本である。
幸か不幸か大学に進学して筆者のホラー熱も36度5分くらいにおさまり、同時にライトノベル色が強くなった角川ホラー文庫にもあまり触らなくなり、小林氏の作品も、何年も手に取らなくなっていた。ただ本屋に立ち寄るたびに、氏の本が平積みされているのを見て、相変わらず人気だなぁと思っていた。
そんじゃ氏の訃報をどうやって知ったかというと、たまたま地元の図書館で、氏の作品を所収した角川ホラー文庫のアンソロジーを借りたためである。もうすぐ30周年を迎える日本のホラー専門レーベルの傑作短編集で、氏のほかにも小松左京氏、坂東眞砂子氏、恒川光太郎氏など好きな顔ぶれが揃っていた。
小林氏の収録作品は「人獣細工」。短編集のタイトルにもなっている代表作の一つだ。先天性の障害から、延命のためにブタの臓器を移植された女性の一人語りで展開するストーリー。グロテスクで胸糞悪くなるような描写の影に、臓器移植と人のアイデンティティのよりどころを問う意欲作で、久々に読んでも面白かった。
同書のあとがきに、小林氏が闘病の末昨年亡くなったことが書かれていて、奇しくもこれを読んだ今日が、命日にあたる日だったというわけである。
最近作風の変化からあまり読まなくなっていたが、氏はとかくオンリーワンな作家だったと思う。言い方は悪いけれども、ご自分の悪趣味を、いやおうなく人を惹きつける味わいに転化できる唯一無二のテクニックを持った作家だった。ご冥福をお祈りするともに、(すでに十分な知名度があることは承知の上で)少しでも氏の作品に触れる人が増えれば、この上なく幸いだ。
ちなみに本稿のタイトルは、やはり胸糞の悪い(誉め言葉)作品を書くことで有名な平山夢明氏の短編「或るはぐれ者の死」のオマージュである。こちらも上のアンソロジー所収。
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以下、上で挙げた作品群の簡単な紹介。
↑小林氏の「人獣細工」を所収。ごく短い、インパクト重視の掌編から、そこそこ読ませる作品まで、長さも内容も多様な作品をバランスよく揃えた名アンソロジー。ホラーが苦手な人でも、一つくらい響くものがあると思う。
↑短編集。角川ホラー文庫ではこの時期の「マジカル・アイ」みたいな表紙がやはり印象的。表題作ほか、男の子が姉を吸血鬼から救おうとする「吸血鬼狩り」もいい意味で後味が悪い。
↑例の曰く付きの短編集。7作目の「お祖父ちゃんの絵」が本当に最悪(誉め言葉)。お祖母ちゃんが孫相手にお祖父ちゃんを描いた絵の話をしているようだけど……。
↑やはり小林泰三を語るうえで同作を抜きにすることはできない。表題作の他、「酔歩する男」は本格SFホラー。脳に外科処置を施すことで時間を戻そうとする男たちに待ち受ける運命をイヤーな感じで描くこちらも秀作。
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