【不動産鑑定士の未来像】ChatGPT等の先端技術を踏まえて
まえがき
smartRealtyplusの代表、不動産鑑定士の松田です。事業会社向けの不動産鑑定Chat pot「鑑定くん」を運用しています。
昨年から、ChatGPTをはじめとする生成AIの新製品が市場に次々と登場し、大きな話題となっています。ChatGPTの成功に続き、他の大規模言語モデル(LLM)、ドローン技術、そして衛星データサービスの利用が技術進化を加速させています。
ここ数年来、存在感を増している感があり、一定の影響を有する不動産テック系企業の動向も目を離せません。
需要面から考えると、不動産鑑定評価のニーズは多様化してきています。ここについては国土交通省のHPにあります下記の報告書
https://www.mlit.go.jp/common/001204065.pdf
同様にサプライサイドである不動産鑑定士側の先進技術への取り組みについての調査検討業務も行われております。下記の報告書になります。
https://www.mlit.go.jp/common/001285650.pdf
平成29年の報告書のため、現在までの数年の動向は、アップデートを考慮する必要があります。
これらは、下記のページからの引用になります。
説明が前後しますが、準拠する法律として不動産の鑑定評価に関する法律があり、そこを基に不動産鑑定評価基準なるものが規定されております。これらをベースに最近の潮流を重ね合わせて考察していきます。
鑑定ニーズやテクノロジーは凄まじいスピードで、進化、多様化、深化しておりますが、ベースにあるのはこの不動産鑑定評価基準であることには変わりません。(直近の改定は平成26年、今後も環境変化によって改定されると認識です)
あくまで、不動産鑑定士業界の動向の予測等もさせていただきますが、個人の意見であることを予めご了承ください。
第1章 不動産鑑定をとりまく環境
① 生成AIの登場
テクノロジー業界の話題はChatGPT一色になったのが2023年であり、それはGPT3.5からGPT4へとバージョンアップすると、若干処理速度が遅くなるものの(当時の話です。今はそんなことはありません)、それまでの欠点として挙げられていた前の会話を忘れたり、ハルシネーション(生成AI特有の誤作動、ありもしないことを書きだす)の発生確率が激減したものでした。
下記の記事において、宅建の問題を一問だけ、解答させています。
全50問やってみるのも面白いかと思います。
また、これは4択問題のなので、論文形式の問題にもトライしてみるののもいいかもしれませんね。
最終的には不動産鑑定評価書を作成させることを念頭に収益還元法の一つである直接還元法にトライしました。
この記事においては、ChatGPTに複数の人格、役割を与えてブレーンストーミングを行いました。
初投稿から数作はChatGPTのやってみたシリーズでした。
この後、LLMはChatGPTだけではとどまらず、GooglenoBardからGemini、AnthrobichsのClaud等次とリリースされました。
更には、これらテキスト生成系にとどまらず、Midjourny、Stable difusion等の画像生成AIが登場します。
テキスト、画像ときて音楽生成AIなるものの現れます。
拙記事にて、取り上げています。
歌詞と曲を生成して配信ディストリビューターからSpotifyなどに配信するまでを書いています。
他にもまだまだ、画期的な生成AIを利用したツールはあるのですが紹介しきれないので、カオスマップを掲載させて頂きます。
② 不動産テック業界の隆盛
一般社団法人不動産テック協会では、「不動産テックとは、不動産×テクノロジーの略であり、テクノロジーの力によって、不動産に関わる業界課題や従来の商習慣を変えようとする価値や仕組みのこと」と定義しています。
ファイナンス×テクノロジーでフィンテックと同じ言葉の用法です。
矢野経済研究所の最新の調査によれば、2026年度には2021年度比で250%以上の伸びを示すと予測され、約1兆5,000億円の市場規模に達する可能性があります。
不動産鑑定業界と密接な関係にある不動産業界におけるテックの応用を敷衍します。
これは全部で15のカテゴリーと定義されています。
下記URLより引用。
この中で、不動産鑑定業界と密接に関連するのは、10.価格可視化・査定のカテゴリーになります。
ここで価格査定と不動産鑑定の違いについて説明いたします。
不動産鑑定に関する法律により、「不動産鑑定」を行えるのは不動産鑑定士のみと定められております。
いわゆる不動産仲介業者が行っているのは「価格査定」です。これらは、売却による仲介業務を行う為の無料で行っているケースが多々見られます。
無料サイトの査定は、主にアルゴリズムや既存の市場データに基づいて自動的に行われます。
これに対し、専門の不動産鑑定士は、物件の現地調査を行い、個別の特性や状態、周辺環境の評価を含めたより詳細な情報を基に査定します。
これにより、より精度の高い価格評価が可能です。これに対し、無料サイトは自動化されたプロセスであり、個別の対応は難しいです。
さらにこの「13.生成AI」とあるのは、売却や賃貸物件の掲載サイトにおいて、より消費者の心理に刺さりやすい物件の説明文をテキスト生成するサービスになります。サイト全体ではなく、その構成要素の一部にとどまっているのが現状になります。
また、ドローンによる空中からの物件確認(直接視認することが困難な場所)を行うサービスもあります。
なお、衛星データからの画像とGIS情報重ね合わせて市街地の空地、未利用地を確定して土地の有効活用の提案目的のサービスも最近は見られます。
カオスマップの上側を占めているのは、業務支援系サービスが多く並んでいるのが、この不動産業界の特徴ではないでしょうか。
それだけ、今までの業務の進め方が非効率であったこととも言えそうです(^^;)
第2章 新たな発展
①情報公開の流れ
前章までのこれまでのテクノロジーの進化に伴い、書きました。
この流れにおいて、不動産鑑定士の業務はどうなるか考えてみましょう。
不動産の価格については、以前から取引事例価格の公開の流れは進んでおり、住所は特定できないものの(〇丁目どまり)一般のユーザーでもアクセスできる環境にはなっています。
また、前述のとおり、不動産テックの市場拡大に伴い、価格査定・可視化のカテゴリーは依然として需要は一定程度根強いものがあります。権利関係が明確になっており、物的確認もそう複雑化していない物件、エンドユーザーが保有するであろう戸建住宅、マンションの価格水準はほぼほぼ把握できようというものです。
②コンサルティングニーズ
また、上場企業によるアンケートを下記に示します。この報告書は前述のニーズに関する検討業務報告書からの引用になります。不動産鑑定業者に対するコンサルティングという業務も存在している。同グラフ中にある上から4番目の不動産仲介会社があり、アンケートの数値は2位になっていることから考えると売買若しくは賃貸借の意思決定が行われた案件については、仲介業者へ依頼し、そこに至る前の分析・判断の段階においては、不動産鑑定御者へ依頼しているものと思われる。
このような、コンサルティング業務を類型化し、生成AIによるチャットポットを開発運用することが考えらますね。
筆者の作成したGPTsを掲示します。不動産鑑定評価基準を初めとして、留意事項や不動産鑑定に関する法律等をknowledgeとして組み込んで参照するようにしています。
さらに、LLM特有の課題点として、cut-offday以降の最新情報の取得とハルシネーションの軽減の2点を上げられます。
当面はこの課題の解決が最優先といえます。
最近話題になっているノーコードLLMプラットフォーム『Dify』を、挙げておきます。
③不動産×宇宙
日本の証券市場でも宇宙ベンチャー企業の上場が相次いでいることもあり、不動産事業と宇宙事業との掛け合わせも最近見られます。
今後、不動産鑑定の分野においては衛星データを活用するスキルが必須となるでしょう。地球観測衛星が提供する精密な画像やデータは、土地の利用状況、開発の進行度、さらには環境変化のモニタリングに不可欠な情報を提供します。
このデータを効果的に解析し、不動産の価値評価や市場動向の予測に活かす能力は、業界で競争力を保つためにますます重要になるでしょう。
経済産業省がさくらインターネットに委託した日本初の衛星データプラットフォーム『Tellus』も一部無料にて開放されています。
こちらはGoogle Earth Engine。
衛星データの利用も可能になった現在、立入不可不可能な場所の確認はもちろんの事、いろいろ出来そうです。
・対象不動産周辺地域の過去画像から土地利用の遍歴が容易に把握
・周辺地域の建物利用の過去の変遷から将来の動向も予測
・同一需給圏内の類似地域等の把握を、定性的に捉える
④AutoML
現行の鑑定評価の方式では、統計処理をもって価格として算定する向きは特段言及されてはおりません。
現在、米国不動産鑑定評価基準においても、見当たりませんが、もはや避けては通れないのではないでしょうか。
とはいえ、機械学習モデルの構築には、データ前処理、特徴量エンジニアリング、モデル選択、ハイパーパラメータチューニングなど多くの手順が必要になりますので、学習コストが高いのがネックになります。
そこで、非エンジニアが利用するのであれば、AutoMLが妥当と考えられます。
AutoML(Automated Machine Learning)とは、機械学習モデルの構築プロセスを自動化するための技術やサービスになります。
PyCaretとは、PythonのオープンソースのAutoMLライブラリです。
初学者にも利用しやすく、機械学習の自動化、複数モデルの比較検証を行い、最適なモデルを選択できることにあります。
公式webサイトは↓こちらです。
⑤3D鑑定評価書
国土交通省が2020年から官民一体となって進めているプロジェクトでPLATEAUなるものがあります。
この開放されたデータによって3D都市モデルが誰でも無料で再現できます。
https://www.mlit.go.jp/plateau/about/
下記はPLATEAUをプラウザ上から操作してみました。ちなみにUnity等にデータを取り込むことができます。
建物情報も含んでいるところが、国土交通省所管なポイントですね。世界最大規模の地理的範囲になってます。全56都市データなので、まだ全国全都市ではないようです。
これから考えられる鑑定評価書の未来像を予想してみました。
(by ChatGPT4)
3Dビジュアル化とインタラクティブな体験:
実際の不動産の3Dモデルを使用して、物件周辺地域をあらゆる角度から詳細に確認できるようになります。バーチャルリアリティ(VR)や拡張現実(AR)技術を活用して、対象不動産周辺地域を歩いてみたり、価格のシミュレーションを見たりすることが可能になります。
リアルタイムデータ統合:
地価、地域の発展計画、交通アクセスの変更などのリアルタイムの市場データや地理情報システム(GIS)データを統合して、より精確で現状に即した評価を提供します。これにより、鑑定評価の正確性が向上します。
AIによる価格推定とリスク分析:
人工知能を利用して、類似の取引事例や市場動向を分析し、物件の価値を自動で推定します。さらに、AIが地域の自然災害リスクや将来の開発計画に基づいたリスク分析も提供し、投資判断のサポートを行います。
サステナビリティ評価の統合:
物件のエネルギー効率や環境への影響を評価するためのサステナビリティ指標が組み込まれます。これにより、エコフレンドリーな物件の価値がさらに明確になり、持続可能な投資選択が促進されます。
シームレスな共有とコラボレーション機能:
評価書はデジタル形式で作成され、関係者間で簡単に共有できます。さらに、オンラインでのコメントやフィードバックが可能になり、より迅速かつ効率的なコミュニケーションが実現します。
あとがき
不動産鑑定の領域において革命的な変化をもたらす可能性がある技術(AI、衛星技術、VR)に焦点を当ててきました。これらの技術が組み合わさることで、不動産鑑定はより透明で説明力をupすることとなり、全ての利害関係者にとっての価値を最大化することができるでしょう。
AIは、膨大なデータの分析を自動化し、市場の傾向や価値評価を迅速かつ正確に提供します。衛星技術により、広範囲の地域を時系列で変化をとらえる事や従来ではアクセスが困難だった場所の土地利用や開発の状況をリアルタイムで把握することが可能になります。さらに、VRは不動産を「訪れる」新たな方法を提供し、テキストベースの評価書の表現力を超えたプロパティの展示が行えるようになります。
私たちは、技術がもたらす変化を恐れるのではなく、その可能性を最大限に活用する方法を学び、適応する必要があるのではないでしょうか。
本記事が、その過程での一助となれば幸いです。