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「色彩を知らない私は森田研究室に出会った」 第29話 私から見た12期生

 私の時と同じように3年生は森田先生のゼミを受けることから始まった。その進め方というか予定がまるで私たちと同じだったこともあって、見ていると何か不思議な感覚になったのではあるが今回は立場が違う。
 
 実験の内容はもちろんの事、森田塾の内容も引継ぎを行わなければならず、意識して予定表などを見るようになった。
 
「3年生の時は全く予定なんか気にしなかったのにね」
 
 私の場所に居た同期が予定表を見ながらそう言ってきた。
 
「まあ、何にもわかんなかったからね」
 
 この時はまだ面接の時に会ったくらいでその後は全く関りが無い。この後に開催される新森田塾でほぼ初めて会話をすることになる。
 
 そうしているといつの間にか新森田塾の日がやってきた。塾の後に行われるバーベキューももちろんセットである。
 
 最初の塾に参加したのは院生と同期5人くらいだった気がする。12期生の出席率はほぼ全員だった。そして同じようにスケッチブック、クレヨンが配られ、作った教科書とテキストが配られる。
 
 テキストには「今日やること」みたいなのが有ってそこにクレヨンで自分の名前を書いたり、自分史を書いたりしていく感じにしてあり、最終的にそれが「ノート」みたいな役割を果たし同時にまとめにもなるというもの。
 
 そして塾が始まった。
 
 塾はやることをただ単に進めていくだけなのでそこまで何かをしなければいけないことも無く進んで行くのだけれど、私たちがやらなければならないのが塾の最中に12期生の顔の写真を撮ったり、どのような姿勢で臨んでいるのかをきちんと記録する事である。
 
楽しそうなのか、面倒なのか。そういうこと。
 でそれを4年生・院生側でまとめていく。いわば塾を行う側の記録でもあり、同時に12期生の記録にもなる。
 
 そして塾が終わるとバーベキューの準備が始まった。
 
 もう何回目か覚えていないほどにやったバーベキュー。炭を持ってきたり、網を持ってきたり。買い出しに行ったり。
 
 着火剤に火を付けてうちわであおいでいると院生の一人が話しかけてきた。
 
「塾はどうだった?」
 
「上手く行きましたよ」
 
 上手く行ったかどうかは知らない。けれどやる予定だったことはやった。これはそういう意味でもある。そう思いながら12期生の方を見た。
 
 私が感じた12期生。印象はどうなのだろうか。
 
 正直な話、まだ何とも言えないというのが実際のところで、みんな同じに見える。けれど院生やイガさん、先生はきっとそうは見えていないのだろう。なぜならやっぱりこの時点で私たちと同じように総務は既に決まっていたからである。
 
 そんなこんなで乾杯が始まって肉を焼き始め、そして食べ終わる頃にやっぱりおなじみの「フレーフレー」が先生から始まって12期生にバトンが渡った。
 
 そして私が今でも覚えている出来事が起きる。
 
 それは片付けの時、先生は3年生の何人かと話をしている。するといつものように院生の人が外に出してあった屋外用の照明の電気を切り、中に引き込もうとしたとき、イガさんはそれを止めた。
 
「電気、付けてあげて」
 
 それを聞いた院生は消した照明を元に戻す。
 
 この時私は「まあ先生が話をしているんだから照明消しちゃだめだよね」ということを思ったのだけけれど、照明を消してしまった院生とイガさんがその後話しているのを偶然聞いてしまい別の理由があったことを知った。
 
「なんで僕が電気を付けてって言ったか分かる?」
 
「え、暗いからですよね?」
 
「それもあるんだけど、先生は話をするときに相手の表情を見て話をしてる。だから暗くなるとそれが出来なくなるでしょ」
 
「なるほど、そういうことか」
 
 イガさんは基本的には大きな声を出さないのだけれど、この時の出来事を覚えているのが多分それが印象的だったから。バーベキューの時は大抵の場合自分で肉を焼かずに人の皿から奪って食べ、100%果汁のオレンジジュースのみを要求し、そしてどっかに行くような人だったから。
 
 塾とバーベキューが終わった後、12期生の顔を撮った写真をプレゼン資料にまとめる。・・・のを私は後ろから眺めていた。というのも写真というカテゴリーに関して言えばなんか得意な同期がいて、全て任せていたからである。そしてまとまったものを見ると、やっぱり塾の始めと終わりでは表情が違うのが明確にわかった。
 
 初めての新森田塾が終わって少しだけ「よかった」と思ったのもつかの間。次に現れたものに私はまた考え続ける日々がやってくるのである。

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