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【小説】クリぼっちじゃなくても
木本夏輝16歳。
クリスマスまであと9日。
「今年もクリぼっち会を開催しまーす!もちろん参加資格は、彼女がいない人です!リア充反対!」
夏輝は教室の真ん中でこう叫んだ。
数人の男子が「いぇーい」と盛り上がり、周りで女子が笑いを見せている。
「今年も爆食いするぜ!」
「俺コーラ持って行くよ!でかいやつ」
そう言ってきた友人の声に夏輝は「ナイスー!」と返す。
夏輝は中等部の時から非リア充を掲げ、彼女がいない男子を集めてクリぼっち会を行ってきていた。
中高一貫の夏輝の学校は、大半のメンバーが高等部になっても変わらないため、仲は良い。
夏輝は隣の拓馬の肩を掴んだ。
「今年も楽しみだな!」
しかし、拓馬は苦い顔をして、無言で席を立ち教室を出ていった。
夏輝は、今まで見たことのない拓馬のその態度に驚き、クリぼっち会開催決定で盛り上がるところを離れ、拓馬を追った。
「おい、拓馬どうしたんだよ」
廊下で拓馬に追いつき、声をかける。
「おれ、彼女できた」
「えっ」
拓馬はくるりと振り返り、夏輝と目を合わせた。
「彼女ができたんだよ。リア充だ。今日どっかでお前に言わなきゃなって思ってたんだ」
夏輝はそれを受け止めるのに時間がかかった。
「お、おう、そうかい。よかったじゃないか。あれか、隣のクラスの気になってたっていう女子か」
「そうだよ、すごくいい子なんだ。でもさ」
「じゃあ、あれだな。これからは彼女を優先してやらなきゃだな。クリスマスも2人で楽しく過ごせよな」
夏輝は拓馬の声を遮って言い、そのまま背を向けて教室に向かって歩き出した。そろそろ休憩時間が終わる頃だろう。
夏輝は常に友達に囲まれていた。夏輝自身も友達と過ごす時間が大好きだった。
だからこそ、彼女たちに嫉妬するわけではないが、友情よりも優先される恋愛というものが嫌いだった。
いつも一緒だった友達が、彼女ができたら一緒に遊べなくなる。彼らは、いつもふざけ合っていたこちらの世界から遠ざかり、違う世界に行ってしまう。
それが本当に腹立たしく、友達を奪う『リア充』というものへの恨みが増していた。
だから、『クリぼっち会』はせめてもの『リア充』への反抗だった。
その日の昼休み。
夏輝は、お昼を食べる前にトイレに行こうと廊下に出た。
そこを「木本くん」と呼びかけられた。
振り返ると、そこにいたのはロングヘアの女子だった。
夏輝は戸惑った。話したことのない女子に、しかも友人の彼女に話しかけられたことに。
その子は、まっすぐこちらに向かってきて言った。
「たっくんがお世話になってます。私のことわかる?」
「えっと…」
「佐藤です。よろしくお願いします。ねえ、木本くんにお願いがあるんだけど、聞いてくれる?」
「お願い?」
夏輝は話が見えず、さらに眉を顰めた。
「たっくんを、クリスマスパーティーに参加させて欲しい」
夏輝は目を瞬いた。
クリスマスパーティーって、俺らのクリぼっち会のことか。
「彼女もちは参加できないらしいけど、たっくんはクリスマスパーティーを毎年楽しみにしてるんだって。だから、参加させてほしい。リア充じゃなくて、たっくんの話を聞いてあげて欲しい。私よりずっと付き合いが長いんでしょ」
「でも、そしたら、君が」
「しょうがないけど、私は前日にデートしてもらう。友達が大好きなたっくんを好きになっちゃったんだもん。しょうがないよね」
彼女は、ふふふと笑いながら、でもはっきりと言った。
夏輝は、彼女が眩しく見えた。
「好き」と言っていながらも、彼氏が友達を優先するのを許している。
彼女自身が、この場に来てお願いをしている。
そんな恋愛があるのか。
友情はいつも恋愛に負けるもんだと思っていたのに。共存できるのか。
拓馬が羨ましいと思った。自分もそんな恋愛をしてみたい。
「わかった」
彼女は笑って、「ありがとう」と言い、去っていった。
恋人がいようがいまいが、クリスマスを一緒に過ごしたいって言ってくれる人たちがいるだけで、嬉しいことだ。
パーティーの名前を改めなきゃな。
夏輝は陽射しが入り込む廊下を歩き出した。
クリスマスまで毎日投稿できたらと思ってましたが、昨日はモノカキングダム参加作品を公開したため、1日分抜けました。
よろしくお願いします。