■要約≪ユーザビリティエンジニアリング≫
今回は「ユーザビリティエンジニアリング」を要約していきます。UXを構成するユーザビリティ(使い勝手)の設計・調査・評価を通じてUXデザインの実務を行う為の手法や具体的な手順を体系的にまとめた本です。モノで溢れる時代において、UXデザインはプロダクト開発における根幹をなす概念です。そのUXデザインの構成要素の大半はUIデザインとユーザビリティで構成されるのですが、その後者に特化した内容です。
「ユーザビリティエンジニアリング」
■ジャンル:IT・UXデザイン・マーケティング
■読破難易度:低~中(前知識不要で読むことが出来、非常に具体的な業務手順や心構えに関する記述が多いので読みやすいです。)
■対象者:・プロダクト開発・UXデザインに関わる方全般
・マーケティング・企画業務に隣接する知見を得たい方
・仮説検証・調査・分析などの一連の業務手順を心得たい方
≪参考文献≫
■リーン顧客開発(見込顧客選定~インタビュー実施を通じた仮説検証サイクル)
■要約≪リーン顧客開発≫ - 雑感 (hatenablog.com)
■UXデザインの教科書
■要約≪UXデザインの教科書 前編≫ - 雑感 (hatenablog.com)
■要約≪UXデザインの教科書 後編≫ - 雑感 (hatenablog.com)
■UXデザインの法則
■要約≪UXデザインの法則≫ - 雑感 (hatenablog.com)
【要約】
■ユーザビリティについて
・ISOによると、ユーザビリティとは製品が特定の目標を達成する際に用いられる際の効果・効率・ユーザーの満足度合いを指すとされます。「ユーザーが使う文脈に即しているか」・「最短ルートで快適・効率的に目的を果たす導線になっているかどうか」がユーザビリティエンジニアリングにおいて作りこむべきポイントとされます。
・全てのユーザーを満たすような製品設計は不可能で、必ず特定の属性のユーザーの行動や心理の傾向・価値観に即した、ユーザーに刺さるような細部の作りこみが欠かせなません。だからこそ、ユーザーインタビューやアンケート・ジャーニーマップを用いたプロダクト開発チームでの特定セグメントに関する情報・仮説の可視化を通じた共通認識形成をすることが求められます。ユーザーが接点を持つ分脈(タッチポイント)というものを事実からしっかり見立てて、プロダクト開発チームでコンセンサスをとるというステップを経ないと、立場の強いプロダクト開発メンバーの意向に機能開発が集約するという悲劇が起きてしまいます。それでは効果検証は適切にできないですし、プロダクトがマーケットに効果的に浸透して役割を果たしているのかもわかりません。UXデザインを検討する上においてはプロダクトを雇用するユーザー属性や場面、その背景に潜むペインや制約条件をしっかり理解し、ストーリーとして変遷を理解することが大事です。
■UXデザインと人間中心設計について
・スターバックス・ディズニーランド・iPhoneなどは圧倒的な体験を生み出すUXデザインを事業の根幹に据えているプロダクトの典型例です。エクスペリエンスは競合優位を圧倒的につけてかつユーザーを継続利用させる一種の宗教のようなものであり、一貫したストーリーや細部の作りこみを丁寧に行って初めて実現できる世界です。製品やサービスなどの機能的な要素だけでは差別化が出来ずレッドオーシャンに陥ります。ブランドや体験により競合優位を形成することこそがプロダクトライフサイクルやLTVを拡大させるポイントであり、これを狙って行うことがUXデザインやプロダクトマネジメントのスコープです。UXは表層-骨格-構造-要件-戦略の5階層で構成されます。
・UXデザインを実現していく上では人間中心設計を遵守することが欠かせません。人間中心設計は調査-分析-設計-評価-改善-反復の6プロセスを経て行われます。この仮説検証・反復プロセスを遂行していく為にはITプロダクトの場合、必然的にアジャイル開発の形式で遂行する必要があり、プロダクトマネジメントの開発手法は必然的にUXデザインおよびアジャイル開発と共同関係にあるのです。UXデザインのスコープには利用前・利用中・利用後の3つ存在しており、「そこに付随する行動や心理の変遷を狙って設計すること」が具体的な狙いとなります。具体的には「利用状況の理解」・「ユーザー要求の明示」・「解決策の作成」・「設計の評価」という4つの行動を反復的に行うことになります。
■ユーザビリティエンジニアリングを行う為の調査・分析・設計手法
・想定顧客に該当するユーザーへのインタビュー(フォーカスインタビュー・グループインタビュー)や行動観察(コンテクスチュアㇽ・インクワイアリー)は代表的なユーザビリティエンジニアリングを行う為に活用する手法です。ポイントはユーザーの声をそのまま受け入れるのではなく、その背景にある心理や行動・制約条件を紐解くことが重要な点です。なぜならユーザーの声とは自分自身の体験を自分で分析したに過ぎないからです。ユーザー対峙する上での基本スタンスはユーザーは教えるのが下手であり、「要約して話をする」・「話が不完全」・「例外を除外する」などまるで気難しい師匠のような形式をとるのが一般的ということを心得ておくことです。
・仮説検証にふさわしいユーザーを抽出してインタビューした後は適切な考察・分析をする為に、「バックログから要点を抽出し時系列や業務フローの塊毎に再整理すること」が必要になります。その際には文化人類学のフィールドワーク手法として発達したKJ法が有効とされており、KJ法のミソは「図示化・可視化してグルーピングするステップそのものにある」と著者は断定します。文章の塊を何度も読み、「重要な個所を短い文書に抽出してカード化していく」のが第一ステップです。第二ステップは「似たようなカードをまとめて見出しをつけてグルーピングする」というもので、第三ステップは「グループ間の因果関係や前後関係などを図示化して構造を整理する」というものです。こうしてストーリーを編み直していく中で検証しないといけない問いや論点を炙り出していくこともKJ法を行う妙とされており、UXデザインに大きな示唆を与えるプロセスです。
・大前提として、プロダクトは顧客の問題を解決して収支に合うような形で運営していくことが必須条件です。その為、想定ソリューションや機能開発は「ビジネスとして成立するか?(収支に合うか・マーケットポテンシャルが一定あるか・お金を払ってでも解決したいペインか・魅力的なゲインか)」という観点の問いを立てて検証することは怠ってはいけません。なので、ビジネスモデルキャンパスやリーンキャンバスなどの事業開発分野のフレームやペルソナ・ジャーニーマップなどのマーケティング分野のフレームを駆使して情報を整理しプロダクト開発チームで共通認識を整理し続けることが大切とされます。
【所感】
・要約記載箇所以外にプロトタイプ作成・ヒューリスティック評価・ユーザーテストの設計~実施~分析なども本書には記載がなされていますが、膨大になるので割愛しました。興味を持たれた方はぜひ直接手に取り読んでいただけると良いかと。
・本書内容はUXデザインやプロダクトマネジメントの書籍にて言及されてきた概念のおさらいであると共に、具体的な実務に落とし込むと何をするのか・何を気をつけないといけないのかが大変わかりやすく記述してあり当該分野の定番書と名高いだけあるなと感じました。マーケティングやイノベーションを狙って行う為に、出来るだけ確率を高める手法としてUXデザインやプロダクトマネジメント分野の理論やフレームがあるのだなと再認識した次第です。「守・破・離」の概念のようにまずは理論に忠実に思考し、活用して経験や知見を得ながら場面や文脈に応じて自分なりのアレンジを加えていきながらスキルセットしていくのが望ましい分野なのだろうと納得しました。ビジネスモデルキャンバス・リーンキャンバスに関してはまとまって勉強したり、実際に手を動かして記述したことがあまりなかったのでこの際取り組んでみようと思った次第です。
・意外だったのはユーザーインタビュー・行動観察・調査分析などのステップにおける要点は自分自身が長年やってきた営業職や組織マネジメントにおける知見と通じる所があり、意外な応用分野があるものだと感じました。それだけ顧客接点をとり、顧客起点で物を考えたり情報編集をする営業職が基本でありながらポータブルなスキルなのだということもわかりました。
以上となります!
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