■要約≪職業としての学問≫
今回はマックス・ウェーバーの「職業としての学問」を要約していきます。
タイトル通り、職業人として学問をするにあたり持つべき価値観を説いた内容です。マックス・ウェーバーがミュンヘンで行った講演内容を抜粋したもので、第一次世界大戦後の混沌としたドイツという時代背景を感じずにはいられない内容です。
「職業としての学問」
■ジャンル:社会学
■読破難易度:中(講演の内容をまとめたものなので、80頁の短い本ですが非常に濃い内容で咀嚼するには時間がかかると思います。)
■対象者:・職業人として学問に従事する方全般
・学問が世の中に果たす役割について関心のある方
・教師のあり方について関心のある方
【要約】
アメリカとドイツの大学教授に関する思想・組織体制の違いから本来あるべき「職業人として学問に取り組む態度」を説くのが本書のテーマです。
■組織化したアメリカ社会の講師
・マックス・ウェーバーのいるドイツでは私講師として無給で何かを教える所からキャリアをスタートし、一定の自由が許容される中で自分の専門領域の研究を深めながら、事実を教示していくのが一般的です。一方のアメリカでは助手として大学組織に所属し、大学の学部のカリキュラムに即して部分に特化して早期から教鞭に立つことがミッションとして課せられており(有給であり、組織人格が優先されるため)、これは生産手段としての労働者という極めて資本主義的な考え方がアカデミックの世界にも侵食しているということを指摘します。
■学問を自分の天職とするに値する資質
・学者としての資質・教師としての資質この両方を満遍なく兼ね備えていないといけないということが事態を難しくさせるとウェーバーは指摘します。特にアメリカのような官僚型組織が発達したアカデミックの世界は両方の資質が高度に求められます。しかし、この2つの資質は本来的に異なるものであり、両方を均等に備えることは極めて難しいともウェーバーは指摘します。
・大学が専門化・分化を極める中で、学問に従事する人として「自分の精神世界(思案)に理想を見出し、寝食を忘れて没頭でき、それに喜びを感じられる人」でないと職業としての学問に適性はないともウェーバーは指摘します。
※ある体系だった理論に基づき、特定分野を論証し続けることが学問の役割であるため、そうした論証を追求していく上では必須の素養と言えるでしょう。
■学問が世の中に果たしてきた役割の変遷
・学問の基礎をつくったのはソクラテス・アリストテレス・プラトンなどを始めとする哲学・数学・論理学を構成した人たちです。ソクラテスを始めとした古代ギリシャ人は「学問はどのように生きるべきかを教えてくれるもの」と解釈をしたとされます。
・上記概念がルネサンスにおいて発達し、実証実験を生み、生活を向上させ真理を追究する営みを促進したといえます。実験はガリレオガリレイにより学問の世界に持ち込まれて、ベーコンによってその理論の裏付けがなされたと言います。
・ルネサンスの時代は自然科学が大きく発達した時代で、その当時は「学問こそが真理にたどり着く究極的なもの」としてもてはやされました。
※宗教は生活の根幹を支える信条形成という点においては引き続き寄与していましたが、古来の圧倒的な絶対的地位とは異なる状態であったと言えます。
・物理や化学・天文学などの自然科学は「世界がどのように形成されているかを解明する学問」、それは近代ヨーロッパでは「神の営みを解明する行為」と見なされて来ました。
■現代において学問が持つ意義(20世紀前半)
・上記、学問や宗教・哲学が日常の課題を解決するものではないという事実に一般大衆派辟易し、形而上学的な理想を追い求める「浪漫主義」が横行しました。これはその後の社会主義が浸透していく土壌をつくったとも言えます。
※この時代において青年たちは事実の代わりに世界観を、認識の代わりに体験を求めて学問の世界に入ってきており、それは教師の代わりに指導者を欲していたのです。
・そんな価値観が蔓延する中でウェーバーは学問が持つ意義を物事の考え方とそのための用具と訓練を与えるものと定義しました。即ち、ある対象物に対して特定の論理法則にしたがい、体系だった論理構成のもと事実を示すということが役割だという立場に立ちます。
※現代ではアカデミックの世界で論証された事実を基に民間企業が具現化し、商業化することで社会の役に立てていくという役割分担がなされ、学問と実学が共存するに至りました。
【所感】
・哲学⇒宗教⇒学問と「世の中の普遍的な真理を教えてくれる」と信じられてきたものがその期待に応えられなかったことに失望する一般大衆に対して「それは筋違いだ!」と厳しく自分の意見を論証するウェーバーの姿勢は非常に感銘を受けました。
・プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神にもみられる姿勢ですが、社会全体を俯瞰して捉え、対象物を比較検討して独自の考察をもたらすというウェーバーの凄みが感じられる本です。歴史的な変遷や当時の西洋社会の価値観が所々に垣間見えて、歴史好きの自分にとってはとても面白い本でした。