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■要約≪大学教育について≫

今回はJ.S.ミルの「大学教育について」を要約します。「功利主義」や「自由論」で有名なミルが19世紀半ばにセント・アンドルーズ大学名誉学長就任講演で大学教育と学問各分野の意義について語った内容を収録しております。


「大学教育について」

■ジャンル:教育

■読破難易度:低(平易な言葉で記述されており、かつ背景知識も不要なので読みやすいです。)

■対象者:・大学教育の意義について興味関心のある方

     ・文学・自然科学・社会科学・道徳教育・宗教・芸術など

      一般教養科目の意義について興味関心のある方


【要約】

■大学教育の意義

・大学は教会や修道院の付属教育機関から派生する形で12世紀に誕生した組織形態です。教育には人格形成は勿論、社会や自然現象に関する問題解決の方法論をまとめたものまで多岐に渡ります。ミルは「大学は職業教育の場ではなく、その土台となる教養を育む為にある」という立場を明確に取ります。専門技能・職業教育の知識・方法論いずれにおいてもどのような精神の土台の基に活用するかで出力は大きく変わると問題提起をし、だからこそ時間をかけて醸成しないといけない一般教養を体系立てて学ぶシステムを提供するのが大学の役割だと定義します。


■文学教育

ヴィクトリア女王治世のこの時代は「一般教育は人文教育と科学教育どちらが望ましいか?」という論争が行われていました。ミルとしては両方必要であろうという姿勢を採用します。人間社会に意味をもたらす人文科学・社会科学人間社会の道具たる知識や理論を付与する自然科学は両輪の関係にあるからだと理由づけをします。

・ヨーロッパ社会においてギリシアラテン語は言語や文学の根幹を成す重要な言語領域とされます。あらゆる文明・国の起源であるギリシア・ラテンといった古典言語を学ばずして文明の精神を理解することは難しいとその学習意義を解きます。

※社会を深く理解するにはその社会で活用される言語を習熟し、その言語で理解を試みるようにしないといけないと主張します。

・文法を学ぶことは倫理学の理解に繋がるとされ、修辞学的に美しいのは古代ギリシア語とラテン語であるとされます。古代言語を学ぶことは文明理解は勿論、哲学的な思想や修辞学的感覚種等に最適であり、「古代言語で記述された哲学や政治思想を学ぶプロセスを経ること」が有意義な学習とされました。古代ギリシアの思想家(アリストテレスプラトンなど)は真理を探究する異常なまでの好奇心・執着心をもっており、その思想に触れることは豊かな精神を発露させる意味で重要だとミルは説きました。


■科学教育

・科学教育は人間の叡智を持って問題解決のツールや知恵を付与するものであり、人文教育や道徳教育以上に重要視の風潮があります。科学教育は自然界の法則を解明し、仕事や職業にレバレッジを効かせます。その一方、人文教育は精神想像力を豊かにするとされました。観察推論を通じて真理を探求するものであり、体系だった教育や歴史知識は疑似経験のような示唆をもたらすとされました。

数学実験科学を早期に集中して学ぶことは「何かを論証、説明するスキル」を育み汎用性・応用性が高いとされます。自然科学は「論理的なものの見方や証明方法・演繹法的な思考プロセスや功績」を学ぶ目的に有効とされます。推理や論証といった知的創造に不可欠な思考プロセスやスキルを体得するために、幼少期からの連続した自然科学教育があります。(習熟に多くの時間を有するから)


■道徳科学教育

倫理政治道徳に関する体系的な知識や思考法を付与して分別ある人間の育成に寄与するとされます。法の原理、法が社会に果たす役割や体系化された法の構成などを学ぶことは社会市民として生きる上で有用な知識になるとされます。ローマ法は非常に完成度の高い法体系とされ、価値観や原則を学ぶことは社会の法則を理解する上で重要な学習対象でした。ミルはローマ法と並んで国際法の学問的意義を重視しており、「誠実な価値基準や国の相互作用、力関係についての知識や思考法を授ける学問」として万人に開かれるべき領域と主張しました。


■美学・芸術教育

・詩や絵画・彫刻といった美学・芸術分野の教育・体験を通じて、美的感覚・精神的な豊かさを醸成することは文学・科学教育などと並んで重要とミルは主張しました。美学・芸術教育は人間社会・文明を形成する諸因子・道徳的価値観の土台をなす感性を発露させるものとされ、人生の意味や思いやりの感情を想起させる作用がある点で人格形成期の青年期に学ぶ意義があるとされました。

※イギリスでは金儲けや清教主義により、曖昧で明確な意味をすぐに持たない行為を軽視する価値観が発達し、(その結果、逆説的に高度に資本主義経済が発達した)芸術の地位やインフラ発達は遅れざるをえなかったとされます。


【所感】

・「商売や職業上の問題を解決するための短期的な知識や経験習熟に拘泥するのではなく、長期的な時間軸・視座視界にたち人間性をより交渉にする為の器を形成する知識や豊かな精神を刺激する教育を体系的に学ぶ場として大学を活用してくれ」という熱いミルの一貫したメッセージが印象的でした。

・人生は経験だけで学ぶにはあまりにも短く、だからこそ歴史的な先代の偉人のベストプラクティスを体系立てて学ぶことで普遍的な法則や考え方・精神的な豊かさを刺激し、アップデートし続けることが大事であると主張しているように感じられ、豊かな創造力や問題解決能力の発露・形成こそが本来的な多くの人が要望する実学・実利にも作用する学習なのだと言わんとしているのだろうと読み解きました。

言語学習や古典・自然科学についてこれほどまでに明確な意味づけ・定義をするミルの思考の深さには感服するあまりでした。自分自身も良き社会市民としての役割を担えるように生涯学習し続けることが大事と再認識させられました。


以上となります!

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