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「他の土用の食べ物」はいつから言われるようになったのか

本日から二十四節気は穀雨(こくう)。その話をしようと思っていたのですが、どうにも昨日からの「土用」の話が気になってしまって、今日は引き続き土用の話です!


昨日は「土用」は年に4回あり、その期間は約18日で、それは土用の決め方が1太陽年(約365日)から来ている、というお話をしました。

そして、よく聞く夏の「土用の丑の日」にうなぎを食べる、という風習のように、他の土用にもどうやら食べ物があるらしい…??という疑問を今回は掘っていきたいと思います。
ちなみに、最初にお伝えするのですが解決しておりません。


暦関係の本における「土用」

昭和中期〜後期に発行された暦や年中行事の本を出してきまして、まずはここから見ていきたいと思います。

  • 年中行事辞典/東京堂出版(昭和33年)

  • 歴史読本 臨時増刊「特集 万有こよみ百科」(昭和48年)

  • 歴史読本 臨時増刊「特集 日本の行事百科」(昭和50年)

それぞれ、土用についての記載をあたってみました。「年に4回あるが、土用といえば今は夏の土用を指す。うなぎや、うの付く食べ物を食べる風習がある(由来は諸説ある)」とするものばかりで、他の季節の土用の話は出てきませんでした。

ところが、インターネット上では冒頭でお話ししたように「春の土用はこれ、秋の土用はこれ」のように書かれているのを目にします。
「土用の丑のうなぎ」のように昔からの風習に違いないと思ったのですが、上記の本にはありませんでした。

由来に関しては、そもそも「土用の丑のうなぎ」自体もよく知られるように出典は不明瞭、諸説ありといったところです。
文献に細かく当たっていく有職故実の研究をされている八條忠基先生の書籍『年中行事百科/平凡社(2022年)』では、土用、特に土用の丑のうなぎについては根拠は不明瞭としながらも、夏の養生として鰻が食べられていたことは「万葉集」や「日次紀事」に記述があるとのこと。

土用の丑のうなぎは最も有名な風習だけに、丑の日云々は別にしても「夏にうなぎで養生」というのはあり得た話だといえそうです。

そうなると、他の土用の食べ物は…?

いつから言われだした?「他の土用の食べ物」


「土用 食べ物」で検索するといろんなサイトで出てくる「春の土用は、秋や冬はこれがいいですよ」という記述。
これはいつから言われるようになったのでしょうか。

グーグルで日付を遡って検索してみると、2000年頃はそういったものがヒットしませんでした。どうやら、2015年頃から記事が出回るようになっていたようです。以下がその一部です。

春の土用について(冷えとり温ちゃん 公開日:2015年4月18日)
https://www.tekuteku.net/blog2/2039/

○のつく食べ物、という記載はないが、各土用に気をつけた方がよい、という視点の記事です。

春の土用の丑の日 実は土用は年に4回(クリンスイ 四季ごよみ 2015年4月号)
https://www.cleansui.com/club/web/cleansui_column/201504/index.html

現在よく見られる、春は「い」のつくもの・白いもの、とする視点の記事です。

どちらの記事も出典に関しては記載がなかったのですが、ざっとみた感じだとこのような結果でした。あとはおそらく孫引きになっていくのかな…
それだとなんとも寂しいので、もし「もっと前に言及しているサイトを知っている」「この文献に記載があった」などご存じの方がいらしたらぜひご一報ください…!

調べる中で、さらに驚異深いものがありました。

丑の日、夏以外の土用でも?

2006年のセブンイレブンで、「古来、(どの土用にも)丑の日に「う」のつく食べ物を口にする風習があり」として、うなぎ弁当や生うどんのキャンペーンを行なっていたようです。春は戌の日、というわけではない。これは私は初めて見た風習です。

「春の土用の丑の日」ヘの取り組み(セブンイレブン プレスリリース 2006年4月3日)
https://www.sej.co.jp/library/common/pdf/2006/040302.pdf
2022/4/19閲覧

また、食育大辞典というサイトで2010年につくられたページでも「今では夏の土用だけが注目されてますが、土用は各季節の中でも、暑さや寒さの厳しい時期だったり、丑の日は災難が多いと言われ、丑の”ウ”のつく食べ物や、丑の方角(北)を守護する玄武の色にちなみ、黒いものを食べると良いとされるんだとか。」としています。

土用の丑の日はなぜウナギ?(食育大辞典)
(Creation Date: 2010-08-18)
https://shokuiku-daijiten.com/mame/mame-1615/
2022/4/19閲覧

昔は、丑の日はどの土用でも危険な日という認識だったのでしょうか。そのために、夏に限らず「丑の日にうのつくもの」と考えられていたということなのでしょうか?

この流れかどうかわかりませんが、つい最近の2021年にも「秋の土用の丑の日にうなぎを」というキャンペーンを松屋が行っていました。

10月20日・11月1日は土用の丑の日!!
「"一本うなぎ"のうな重」新登場 ~ 秋のうなぎ祭り 開催 ~
(松屋 2021年)
https://www.matsuyafoods.co.jp/matsuya/news_lp/211012.html
2022年4月19日閲覧

さらには、各土用の丑の日にの付く食べ物ではなく、丑の日だけど「春は」「秋は」「冬は」の付く食べ物とするものも。

四季と日本の食歳時(公益財団法人 ダイヤ高齢社会研究財団 2017年7月25日発行)
https://dia.or.jp/disperse/dianews/pdf/dianews_no90_07.pdf
2022年4月19日閲覧

こうしてみると、土用の食べ物に関してけっこうバリエーションがあることに驚きます。


上記の検索から、

「夏以外の土用に「干支」がついたり「五色」がついた食べ物を食べていた、という出典は現段階で不明瞭ではあるものの、「各季節の五行に逆らう形でよい気を取り入れようする」というのは現代人にも大変納得しやすいものであり、提唱され続けている」

「また、それぞれの「丑の日」に気をつけようという動きも2000年代から確かに存在し、その流れを汲んだ食の提唱は現代も行われている」

ということが言えるのではないでしょうか?


出典や、風習の始まりはとても知りたいことですし、今後も調べていきたいものです。それはそれとして、「この時期にこれを食べるといいらしいよ」という提唱はすごく魅力的で楽しいものだと感じます。日本の年中行事とともにある行事食もそういうものですし!
なので春土用の戌の日や丑の日には、ちょっと意識してみたいななんて思いました。

日干支メモ:春土用(日付は2022年のものです)
戌の日 4月27日(水)
丑の日 4月18日(月)・4月30日(土)


ではまた明日に!

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松浦はこ|暦好き漫画家
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