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やってやれないことはない28話 『獣医学部学生48歳 酪農実習と子牛たちと事件』
2年目を迎えた夏休みに必要な単位取得のため、帯広市にある観光牧場ともいえる乳牛酪農家に宿泊しながら、酪農実習です。
朝4時起床、ツナギに着替えて搾乳所に直行です。
中々目が覚めません!
そのうち慣れます。人間の身体はよくできています。
目覚ましなしで、ピッタリ4時に目覚めます。
とはいっても、7時の朝食まで3時間キッチリとやる事満載です。
搾乳所では牛の乳頭に搾乳機を取り付けますが、油断すると牛に蹴られます。当たり所が悪いと骨折となることもあります。
寝床のワラ敷き交換を行うと、鼻の中が真っ黒に汚れます。 ワラの臭いとカビの臭い。 感染症に気をつけなきゃと思いつつほこりだらけの中での作業です。
狭い牛舎の中にある糞便は、オーナーがシャベルカーで運び出します。
牛の糞便の量はすごいです。アンモニア臭で咽びながら目に刺激を感じます。 この糞便は、大きな穴を掘った糞尿池に入れて発酵させます。この池に落ちた人がいたそうですが、想像するだけでゾッとします。発酵させたものは対比として牛たちの餌を育てるための堆肥として畑に撒きます。
運動場に牛たちを出すときは、要注意です。
牛同士の間に挟まれたらけがをします。
何しろ400キロ以上体重があるのですから・・
糞便に満ちた運動場に、時々臓器が落ちています。
よく見ると、出産後の後産で排出される胎盤です。
子牛を集めた牛舎はにぎやかです。
牛乳をバケツにゴムの乳首を付けて授乳します。
搾乳して授乳するなら、最初から母牛と授乳時間に一緒にしてあげればいいのに・・アニマルウェルフェアの視点
母牛の愛情を受けさせない子牛の成長に問題が起きているような気がします。
日本は、牛も豚も鶏も産業動物としてのくくりで利用しているため、受胎から妊娠そして出産、育成、食肉までの流れはすべて人の手により制御されています。この環境の中で人が失ってきた、命をいただくという行為。 『いただきます』の意味を忘れている子供たちが多くなってきていると思います。
子牛の群れにいると一頭一頭の性格や興味に引きずり込まれてほっとします。
子牛たちの目を見ているだけで、なぜか心のざわつきがなくなります。無心に興味を示して近づいてくる子牛たちの世話は、ひと時の安堵感です。私の気の置ける場所がここにあるかもしれません。
こんな日々を送っていた時のある日、長く後悔することになる出来事がありました。
搾乳前に乳首に消毒剤を吹き付け、糞尿をふき取ります。
完全には無菌にできないため、搾乳場所は、けっこう細菌が多くいます。
よって、搾乳した牛乳をためておく貯蔵タンクは、細菌の増殖場所にもなります。
細菌数によっては、廃棄せざるを得なくなる場合もあるのです。
公衆衛生の観点からみると、雪印乳業が起こした黄色ブドウ球菌による市中感染の怖さの原点が、この搾乳現場にもあること実務的に理解できました。
朝の搾乳が終わると、使用した器具や布類を殺菌消毒洗浄します。
塩素系洗剤を入れるためゴム手袋をはめて洗浄を行います。
ある時、手袋に穴が開きその日はそのまま作業を終えました。
翌日、手首と指が赤く硬直してお茶碗さえ持てません。
2日か経っても治らないため、病院皮膚科に受診しました。
医師に説明し、塩素系洗剤の炎症ということで塗り薬を出してもらいました。
手の赤味は消えましたが、硬直は治りません。
これは、お湯の中で使用した高濃度の塩素洗剤が、皮膚の神経にも作用した結果、神経に障害が発生し動きが緩慢になってしまったようです。
お茶碗をしっかり持てず、きれいに字が書けなくなり、後の大学生活で大変な不便を強いられることになってしまいました。
30日間の酪農実習もようやく終わり、襟裳岬経由で帰途につきました。
この障害よる悩みは、以後3年間続くことになりました。
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