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【読んだ本】Iの悲劇/米澤穂信

この作品は、無人になってしまった限界集落に人を呼び戻すIターンプロジェクトを担当することになった通称『甦り課』の公務員が、地方自治体のリアルと移住者たちの引き起こす謎に翻弄される連作短編集だ。

本作は連作短編なので一章ごとに謎、もといトラブルが出てくる。
それは大まかには章の中で解決するが、ほんの少し、気づくか気づかないか程度の違和感が残る。
その違和感の撒かれ方が絶妙で、読み進めるうちにだんだん「あれ……?」と思うようになり、ちょうど最終章付近で明確になって、花開き、回収される。
それは構成だけ見れば爽快なはずなのに、どうしようもなくやりきれず、虚しい。
この作品に限らず穂信先生作品の特徴ではあるが、文章がかなりドライで削ぎ落とされていて感情描写が最低限なので淡々とした印象を受けるのに、しっかり人間味があり、いつの間にか感情移入をしてしまう。
(これはわたしが単純に穂信先生のファンなのですっかりそのやり口にやられてしまっていてより一層そう感じるのかもしれない。)

この作品はハッピーエンドとはとても言い難く、とはいえ、それならどうすればよかったのか?そもそも世の中に絶対的な正解なんてあるのか?と考え込んでしまう、苦しい結末だった。
その苦しい結末である最終章に『Iの喜劇』という題がついているのがあまりにも皮肉。
遠くから俯瞰して事実だけを抽出したら、たしかに『喜劇』と言えてしまうかもしれない。残酷だが、滑稽な話だった。
その滑稽さが悲しくてやるせなくて涙が出そうになった。

文章も構成も巧みでとてもおもしろかったが、なにしろ読後感はいいとは言えないので薦めにくい。
でも同作者の『ボトルネック』が好きなら胸を張っておすすめと言える。

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