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良い目標、悪い目標:モチベーションのはなし

ブラジリンアン柔術は楽しい、毎日やりたい。そう思うひとが多い一方、やめてしまう人もこれまた多い。始めた人の90%はやめてしまうという逸話もあります(データは見たことありません)。

さて、たくさん練習する人、長く競技を続けてきた人は、一体どんなことを考えているのでしょうか?

やる気と目標

モチベーション、いわゆる「やる気」を出すためには、何らかの目標が大切です。どっからともなくやる気だけが湧くことは、あまりありません。目標には2つの側面があると言われています(Elliot, Murayama, & Pekrun, 2011 )。ひとつが目標をどのように定義づけるか、もうひとつがその方向性です(注1)。目標の定義づけは、課題(例、課題をクリアする)、自己(例、前回の自分の成績を上回る)、他者(例、他者よりから良い評価を得る)の3つに分かれます。そして、それぞれに接近と回避という方向性があります。接近とは積極的な方向性で、何かを獲得したり、成功したりすることを指します。つまり、上手くいくことですね。一方、回避とは消極的な方向性で、何かを失わなかったり、失敗を避けたりすることを指します。言うなれば、下手を打たないことです。

柔術を例にとり、これらの組み合わせから目標を考えてみましょう。課題に対する接近目標なら「ベリンボロを身につけるといった感じになります。これが回避目標ですと「ベリンボロで手順を間違えない」という感じです。自己に対する接近目標なら「昨日よりたくさんのスパーリングをする」といった感じ、他者に対する接近目標なら「**さんに勝つ」、他者に対する回避目標なら「**さんに負けない」となるでしょうか。

積極的な目標が良い

一般的に接近目標は成績向上につながります。一方、仕事や勉強ですと回避目標は成績を下げます。ただし、スポーツでは良くも悪くもないことがわかっています(Van Yperen, Blaga, & Postmes, 2014)。スポーツの場合、負けないようにすることも必要だからです。とはいえ、接近目標を持つことが良いのはスポーツでも、仕事、勉強と同様大切なので、積極的、挑戦的な目標を立てるのがよいでしょう。

なお、他者に定義づけられた目標は回避的なときパフォーマンスをひどく低下させます。「あの人だけには負けない」とか「みんなに失敗しているところを見せない」みたいな目標は良くありません。精神的健康にも悪いです。

柔術での目標設定

課題や自己から定義づけられた目標を習熟目標と言います。柔術の継続にはこれが大切です

Øvretveitたちは、42人の柔術家に、上の3×2の組みあわせの目標のどれを重視しているかを尋ねました(Øvretveit, Sæther, & Mehus, 2018)。2年以上練習を継続している人たちが対象で、白帯から黒帯まで、平均年齢は31歳でした。日本よりちょっと若いですが、平均的な柔術家が対象です。

例えば、課題接近目標なら「わたしの効果的なパフォーマンスを目指している」という質問に、1(全く当てはまらない)から7(とてもよく当てはまる)までの段階から選び回答しました(4がどちらでもない)。このような質問が3×2=6種の目標について、それぞれ3つ用意され、平均点が計算されました。

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課題や自分を基準にした目標が大切

上の図に平均値を示しました。課題や自己に定義づけられた目標が重視され、他者との比較がそうでもないことがわかります。そのうちの接近目標が回避目標より重視されていることがわかります。上にも書いたように習熟目標を(課題と自己で定義づけられた目標を)、積極的な方向に設定することが良いようです。

ちなみに、たくさん練習をする人ほど、課題接近目標を重視していることもわかりました。1週間における稽古時間が長い人ほど、課題接近目標を重視する度合いが高く、両者に正の相関がありました(r = +.37, p < .05)。

他人と比べず、習熟を目指して積極的な目標を立てるのが柔術を長く続ける秘訣のようです。

じつはここまでは前振り。つづきます。

引用文献

・Elliot, A. J., Murayama, K., & Pekrun, R. (2011). A 3× 2 achievement goal model. Journal of educational psychology, 103(3), 632–648.
・Øvretveit, K., Sæther, S. A., & Mehus, I. (2018). Achievement goal profiles, and perceptions of motivational climate and physical ability in male Brazilian jiu-jitsu practitioners. Archives of Budo, 14, 311–318.
・Van Yperen, N. W., Blaga, M., & Postmes, T. (2014). A meta-analysis of self-reported achievement goals and nonself-report performance across three achievement domains (work, sports, and education). PloS one, 9(4), e93594.

注1:Elliot たちは定義(definition)と価(valence)と呼んでいますが、わかりにくいのでここでは価ではなく方向性にしました。

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