白帯あるある「教わった技が掛かりません」
「教わった通りに技を掛けたのに、全く掛からない」初心者の方がスパーリングをしたときに抱く正直な感想だと思います。実際、掛かりません。
なぜ、技が掛からないのでしょうか?同じ技を上級者は簡単に使いこなします。ですから、技そのものに問題があるわけではありません。
技を掛けるためには?
技を掛けるには、正しい手順と適切なタイミングが不可欠です。もちろん初心者の方も、これをよく知っているでしょう。ただ、タイミングを計るにあたり、初心者にとって難しいポイントが3つあるのです。
(1)タイミングを知らない
まず初心者の方は、技が掛かる適切なタイミングを知らないことがほとんどです。クラスでの技の説明では手順に重点が置かれます。タイミングに関する説明は少しでしょう(注1)。さらに、クラス内での練習で相手は無抵抗です。これでは実際に使うタイミングはわかりません。
基本の技の一つであるクローズドガードからのフラワースイープを例にとり、技のタイミングについて考えてみましょう。インストラクション動画がこちらです。多くの方が、技の名前や基本的な手順はご存知でしょう。
フラワースイープには、わかりやすい技を掛けるタイミングがあります。例えば、相手の状態が少しどちらかに傾いていたら面白いように掛かります。下の図ですと相手が矢印の方向に傾いています。その方向、つまり、向かって左に倒れるように技をかけます。そうすると、気持ち良いくらいに相手は倒れます。ですから、相手が少し傾いたら、そのタイミングを逃さず、技を掛けると見事にハマります。多少、手順が不正確でも、パタンと倒れてくれます。
一方、下の図のように、相手の上体がまっすぐ立ち、バランスが良いとき、フラワースイープはなかなか掛かりません。技をかけようと、必死に力を入れてもたいてい無理です。
どの技にもこのような掛けるべきタイミングがあります。相手がその状態になるか、自分でその状態に誘い込むかをしなければ、技はなかなか掛かりません。
(2)相手を見る余裕がない
フラワースイープを掛けるタイミングは相手を見るだけでわかります。なぜ、こんな簡単なことがわからないのでしょう?なぜなら、初心者の方には相手を見る余裕がないからです。初心者の方が技を使おうとすると、手順に気を取られ、周りを十分には見られません。気持ちもひどく焦っているでしょう。頭が真っ白になり、闇雲に動いているかもしれません。そんな状態では相手のことなどあまり目に入りません。加えて、相手を見る余裕とは、単に目で見るだけではありません。見たことから、何をすべきか判断する余裕も必要です。見て判断するだけの余裕があって、適切なタイミングを計ることができます。
(3)動きがゆっくりで、ギクシャクしている
ひとつずつ手順を踏みながら技を掛けると、動きがゆっくりで、どうしてもギクシャクしてしまいます。結果として、相手に反応する時間ができてしまい技が掛かりません。反応してくる相手に技を掛けるには、一連の動作をスムーズに行うことが必要です。習ったばかりの技を使うときは、なかなかスムーズにはいきません。考えたり思い出そうとしたりして、動きが止まってしまうこともしばしばでしょう。
解決策:反復練習で身体が勝手に動くようにする
余裕のなさも、ゆっくりした動きも、練習を積めば必ず解決できます。別のノートで書いた通り(読んでみてください)、テクニックやスキルは、認知、結びつけ、自動の3つの段階を経て身につき上達します(Fitts, 1964)。
自動段階とは、勝手に身体が動く段階です。この段階になると、技の細かい部分に意識を払う必要がなくなり、相手を見る余裕ができます。勝手に動くくらいですから、動きもスムーズです。ギクシャクしたところはありません。ですから、タイミングをきちんと計れば、面白いように技が掛かるようになります。
相手が知っていたら掛からない
もちろん相手が防ぎ方や返し技を知っていると技は掛かりません。例えば、フラワースイープの例ですと、相手が紫帯くらいなら上体を左右に傾けてはくれないでしょう。このように、相手が攻略法を知っていたら技は掛かりません。しかし、それも含めて、先の先を読み、どの技をどこで使うかのタイミングを上級者は計っています。技術が上がるほど、タイミングも複雑になるのです。
もちろんこれは上達したときの話です。そのころには、先の先を読み、いろいろ考えるのが楽しくて仕方なくなっていると思います。
引用文献
Fitts, P. M. (1964). Perceptual-motor skill learning. In Categories of human learning (pp. 243-285). Academic Press.
(注1)
技を掛けるタイミングについては、インストラクターに改めて尋ねると、大まかなことは教えてもらえます。その技を得意にしている人に聞くともっと詳しく教えてもらえるかもしれません。実際のタイミングを身につけるには、打ち込みで相手に少しディフェンスをしてもらったり、シチュエーション・スパーをしてみたりすると良いかもしれません。
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