青帯は苦労が多い:モチベーションのはなし(2)
前回のnoteで柔術が続けやすくなる目標の立て方について書きました。柔術を続けるには、課題の遂行や過去の自分との比較に焦点を絞って目標を立てることが効果的です。しかも、その目標は接近的なもの(積極的なもの)が望ましいことがわかっています(Van Yperen, Blaga, & Postmes, 2014)。
ただし、青帯の方にはそれが少しだけ難しいようです。
回避的(消極的)な目標は良くない
自己を対象とした接近的な目標、例えば「昨日よりスパーを数多くやろう」、「これまでより技の精度を上げていこう」という目標は、パフォーマンスを向上させますし、精神的な健康につながります(Van Yperen, Blaga, & Postmes, 2014)。
一方で、自己を対象とした回避的な(消極的な)目標は、あまり良くありません。スポーツ場面では、常に悪いわけではないのですが、他の場面、学業や仕事では悪影響をもたらします。例えば、「昨日のような失敗はしないようにしよう」、「昨日よりポイントを取られないようにしよう」といった、過去の自分と比べ、失敗や損失をしないようにする目標は良くありません(試合だと良い場合もあります)。
他者からの視点や他者との比較を基準にした回避的な目標だと最悪です。「あの人には負けないようにしよう」、「他のメンバーに笑われないようにしよう」。こういう目標ですと、どうしても消極的になります。しかも他者を基準にしているので達成しづらいです。結果としてパフォーマンスも落ちますし、精神的健康にも悪いです。
青帯は消極的(回避的)な目標を持ちがち
前回も紹介したØvretveitたちの研究で、青帯の人が回避的(消極的)な目標を持ちがちなことがわかっています。上で紹介した自己を対象とした回避的な目標(例、昨日のような失敗はしないようにしよう)について、帯別に比べてみました。
上の図は、得点が高いほど自己回避的な目標を重視しがちなことを示しています。この図の通り青帯は自己を対象とした回避的な目標を重視しがちです。白帯より重視しています。一方、茶帯、黒帯は、この目標を全く重視しません。回避的な目標設定には悪影響があることを考えるとあまり良くありません。
なぜ良くない目標をもってしまうのか?
青帯は上級者ではありません。柔術人口全体から見ると経験が浅い方です。しかし、初心者ではなく、それなりの強さや巧さが期待されています。この決して上級者ではないのに期待に応えようとするあまり、消極的になり、回避的な良くない目標を持ってしまうとこの研究を行なったØvretveitたちは解釈しています。
青帯は苦労が多いですね。中間管理職みたいです。私も実生活でそういうポジションなのでその難しさ、大変さがわかります。とは言え、一番色々学べるのも青帯の頃かもしれません。上からも下からも結構なプレッシャーがあるのでそれをうまく利用すると飛躍の機会になるかもしれません。目標の立て方としては、回避的な目標ではなく、接近的な(積極的な)目標を持つべく意識しすると良いと思いますし、楽しく柔術ができると思います。
引用文献
・Øvretveit, K., Sæther, S. A., & Mehus, I. (2018). Achievement goal profiles, and perceptions of motivational climate and physical ability in male Brazilian jiu-jitsu practitioners. Archives of Budo, 14, 311–318.
・Van Yperen, N. W., Blaga, M., & Postmes, T. (2014). A meta-analysis of self-reported achievement goals and nonself-report performance across three achievement domains (work, sports, and education). PloS one, 9(4), e93594.
関連記事
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?