柔術が楽しい生物学的理由(1):ゴロゴロするのはそもそも楽しい。
ブラジリアン柔術は、それ自体とても楽しい。友人ができる、運動不足の解消、痩せるなどなどメリットはたくさんあるのですが、そういうメリットを抜きにしても柔術そのものがとても楽しいのです。
「人とじゃれあってゴロゴロするのが楽しい」
大賀幹夫先生は、国内最大級の柔術アソシエーション、ねわざワールドの代表です。大賀先生は「ブラジリアン柔術をはじめてみませんか1」という記事で以下のように書きました。
柔術の楽しさが「人とじゃれあってゴロゴロすることにある」のは、柔術をやっている人ならきっと誰もが納得するでしょう。でも、やってない人には全く伝わらないんですよね。逆に柔術に尻込みする理由として「知らない人と密着するのは…」とか「おっさん同士がくっつくのには気が進まない」などが良くあります。じゃれあってゴロゴロすることは、楽しいどころか、むしろ、人によってはイヤなことのようです。
取っ組み合い遊びは大切でそもそも楽しい!
けれども、少なくとも子供の頃なら、多くの人にとってじゃれあってゴロゴロするのはとても楽しいことだったと思います。実際、ほぼ全ての文化圏で男女問わず、体を使って戯れ合う遊びを赤ちゃんから10歳くらいまでの間に経験し、子供たちはとても楽しそうにじゃれあいます。
レスリングのように組み合ったりして、身体全体を使ってじゃれあい、コミュニケーションをしながら行う遊びを「取っ組み合い遊び(rough and tumble play)」と呼びます。取っ組み合い遊びは、人間だけでなく鳥類、齧歯類、哺乳類など様々な種の動物にもある普遍的な行動です。どの生き物にも見られることは、生き物にとって根源的な何かが、取っ組み合い遊びにあることを示しているのかもしれません。
取っ組み合い遊びは、側から見ていると喧嘩しているように見えることがあります。場合によってはいじめや虐待に見えるかもしれません。ただし、取っ組み合い遊びと、暴力には根本的な違いがあります。いじめの研究者であるSmithは、取っ組み合い遊びの定義として、笑い声、笑顔などポジティブな感情を表していることを第1に挙げています(Smith, 2010)。他にも、役割の交換、身体的関わり、自己抑制など色々あるのですが、ポジティブな感情、つまり楽しそうにしていることが、取っ組み合い遊びの中心的な特徴なのです。
Panksepp とYovellは、取っ組み合い遊びの中で、追いかけあい、くすぐりあったりして、スキンシップを高め、声を上げて笑い、楽しく行うことが、喜びや幸福感を感じる心を育むと考えています(Panksepp & Yovell,2014)。実際、子供の頃に取っ組み合い遊びをした子供ほど、感情の安定性が高く、不安感が低いことが示されています。これは「人とじゃれあってゴロゴロするのがとにかく心地よくて気持ちいい」という大賀先生の主張とも良く一致します。取っ組み合い遊びで、心地よくて気持ちいい体験をすると、喜びや幸福感を感じる心が育ち、感情の安定性が高く、不安感が低くなるのでしょう。
おじさんがやっている柔術はまさに大人の取っ組み合い遊びです。Smithが示した特徴であるポジティブな感情を練習では、あちこちで目にすることができます。実際に楽しい。なお、取っ組み合い遊びをすると、脳内にも興味深い変化が出てきます。とはいえ、長くなってきたのでまた次回。
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引用文献
・Panksepp, J., & Yovell, Y. (2014). Preclinical modeling of primal emotional affects (SEEKING, PANIC and PLAY): gateways to the development of new treatments for depression. Psychopathology, 47(6), 383-393.
・Smith, P.K. (2010). Physical activity play: Exercise play and rough-and- tumble. In P.K. Smith (Ed.), Children and play: Understanding children’s worlds (pp. 99–123). Hoboken, NJ: Wiley-Blackwell.
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