なぜダブルガードは成立するか?早撃ちガンマン効果
ダブルガードとは、雑に説明すると、お互いに座った状態です。ブラジリアン柔術は、寝技中心の格闘技なので、スパーリングや試合では、自ら寝技に引き込む選手が多くみられます。お互いが引き込みをしたいときに、同時引き込み、いわゆるダブルガード・プルとなります。
ダブルガードのなぞ
ダブルガードの成立には、対戦相手が、お互いに同じタイミングで引き込むことが必要です。ただし、どちらかが明確に先に引き込んだ場合、ルール上、ダブルガードは極めて成立しにくくなります。しかも、ダンスではありませんから、お互いがタイミングを示しあわすことはありません。それにもかかわらず、ダブルガードはたいへん良くある展開です。どちらか一方が先に引き込みを仕掛けているはずなのに、なぜ、同時になってしまうのでしょうか?
ボーアの法則もしくは早撃ちガンマン効果
ニールス・ボーアは、量子力学の基礎を築いたノーベル物理学賞受賞者です。ユダヤ系であった彼は、迫害を逃れるため一時期アメリカで過ごしました。そのこともあり、西部劇が好きでした。ボーアは、西部劇を観てあることに気づきました。決闘シーンで、悪役は先に銃に手を掛けるにもかかわらず、勝負は必ずヒーローが勝つという法則です。これをボーアの法則あるいは早撃ちガンマン効果と呼びます。先に撃つ悪役は、いつ撃つか、どう撃つか、自分は卑怯ではないかなどいろいろ考えてから撃ちます。それに対し、後から撃つヒーローは、ただ相手を見て反応するだけです。ヒーローは余計なことを考えないですむため、早く撃てるとボーアは考えました。
ボーアの法則で、なぜダブルガードが成立するかを説明できます。この法則に従うなら、先に引き込みを仕掛けるより、後からの方が早いからです。実際、実験室でボタンを押す、手を動かすなどの反応を使ってこの現象を調べました。その結果、先に動くより、相手に合わせる方が動きが早いことがわかりました(Welchman et al., 2010)。リアクションの方が早いのです。
空手の突きもリアクションの方が速い
Martinez de QuelとBennettの研究から、格闘技の対戦でも、先に動くより、相手に合わせて動く方が早いことが示されています(Martinez de Quel & Bennett, 2014)。彼らは、空手の突きに注目し、自分から先に突くより(アクション)、相手の動きにあわせる方が(リアクション)、突きが正確で、スピードも速く、ピーク速度に達するまでの時間も短いことを示しました。
正確さ(目標からのズレ):アクション 5.25 mm vs. リアクション 10.12 mm
ピーク速度(m/s):アクション 4.20 m/s vs. リアクション 4.02 m/s
ピーク速度に達する時間(ミリ秒):アクション 238 ms vs. リアクション 286 ms
アクションとリアクションで、ピーク速度の差はおよそ0.2 m/s、1秒で20 cmほどです。空手の突きは、動作そのものに0.3秒しかかかりません。しかもお互いの距離も近い。ですから、この差は勝負を決定づけるものになります。
柔術におきかえて考える
空手の突きは、柔術で襟や袖を取る動作に似ています。ルール上、引き込むためには相手のどこかを取る(掴む)必要があります。ですから、柔術の引き込みでも、アクションとリアクションにほぼ同じ関係があると考えられます。
なんでも先手を取った方が早いように思うのですが、必ずしもそうではありません。アクションとリアクションの性質を良く知っておくと、競技的にも護身的にもいろいろプラスの部分があると思います。
引用文献
・Martinez de Quel, O., & Bennett, S. J. (2014). Kinematics of self-initiated and reactive karate punches. Research Quarterly for Exercise and Sport, 85(1), 117-123.
・Welchman, A. E., Stanley, J., Schomers, M. R., Miall, R. C., & Bulthoff, H. H. (2010). The quick and the dead: When reaction beats intention. Proceedings of The Royal Society B: Biological Sciences, 277(1688), 1667-1674.
アイキャッチ画像
https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Rustlers_Of_The_Badlands_(1945)_publicity_still.jpg
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?