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練習のあと目が冴えて眠れません

ブラジリアン柔術のクラスは夜に開かれることが多いです。そんなクラスが終わるのは夜の9時か10時。遅いところだと11時なんてこともあります。そのせいか「練習のあと目が冴えて寝られない」と良く耳にします。たいてい強度が高い練習であるスパーリングが最後に設定されます。その結果、心身ともに興奮が高まった状態で練習が終わり、眠れなくなるのでしょう。

寝る前の運動は睡眠の邪魔か?

興奮していると寝られません。ですから就寝直前の運動は良くありません。では、どのくらいまでが直前なのでしょうか?厚生労働省の指針には、

運動のタイミングに注意を払えば、さらによい睡眠が確保できるでしょう。効果的なのは夕方から夜(就寝の3時間くらい前)の運動だと言われています。https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/heart/k-01-004.html

と書いてあります。実際に多くの研究で、夜に激しい運動を行ったとしても、就寝より3時間以上前なら睡眠に悪影響がない(注1)ことが示されています(レヴューとして、Chennaoui et al., 2015)。運動習慣のないおじさんでも(Larsen et al., 2019)、週4日以上走るランナーでも(Thomas et al., 2020)、悪影響がありません。

直前のキツい運動はあまり良くない

別の言い方をすると、就寝直前だと眠りづらくなるようです。OdaとShirakawaは、就寝の1時間前に行う30分の運動が睡眠にあたえる影響を調べました(Oda & Shirakawa, 2014)。トレッドミルを使いジョギングなし、軽いジョギング(中強度)、キツいジョギング(高強度)の3条件を設定し、その後の睡眠の質、脳波、体温、心拍数などを比較しました。

実験の結果、キツいジョギングをすると、何もしなかった日に比べ平均して14分、寝入るまでに多くの時間がかかりました。また、14.6分ほど睡眠時間も短くなりました。なお、軽めのジョギングをした日は、しなかった日と違いはありませんでした。

なぜ直前の運動は良くないか?

運動は興奮を高めますから、直前ですと眠りの妨げになります。もう一つ見過ごされがちな要因として体温があります。

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上に深部体温(体の内部の体温)の24時間変化を示しました。体温は起床とともに上がり、午後に最大になり、就寝とともに下がます。なお、実際の就寝時の下降はこの図よりも、もっと急です。寝入る時に深部体温は急激に下がります。

良く手足が冷えて眠れないとか、寒くて眠れないとか聞きますよね。これは体の末端や表面が冷えている状態です。この状態ですと、身体は全身の温度を保とうと、深部の体温を上げる、少なくとも下げないようにします。そのため、深部体温が睡眠に適した状態にならず、うまく寝られなくなります

就寝直前の激しい運動は、深部体温を上げます。上がった体温が下がるまでには時間がかかります。下の図にOdaとShirakawaが測定したジョギング中とその後の深部体温の変化を示しました。キツい(高強度の)ジョギングを始めると深部体温は2°近く上がります。運動を終えて1時間経っても運動前の体温まで下がりません。この高い深部体温が眠りの妨げになってしまうのです。体温て0.5度上がっただけで結構な負担になりますしね。

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興奮もおさまり体温も下がり、いざ就寝準備完了となるまで、激しい運動のあと3時間はかかってしまうようです。この3時間が経たないと「練習のあとは目が冴えて眠れない」状態になってしまうかもしれません。

練習後に良く眠れない場合、入浴などで体温の調節をすると良いかもしれません。睡眠は体力の回復にも、柔術のテクニックを身につけるにも重要な役割がありますし、そもそも健康に欠かせません。どうぞ快適な睡眠ライフをお送りください。


引用文献

・Chennaoui, M., Arnal, P. J., Sauvet, F., & Léger, D. (2015). Sleep and exercise: a reciprocal issue?. Sleep medicine reviews, 20, 59-72.
・Larsen, P., Marino, F., Melehan, K., Guelfi, K. J., Duffield, R., & Skein, M. (2019). Evening high‐intensity interval exercise does not disrupt sleep or alter energy intake despite changes in acylated ghrelin in middle‐aged men. Experimental physiology, 104(6), 826-836.
・Oda, S., & Shirakawa, K. (2014). Sleep onset is disrupted following pre-sleep exercise that causes large physiological excitement at bedtime. European Journal of Applied Physiology, 114(9), 1789-1799.
・Thomas, C., Jones, H., Whitworth-Turner, C., & Louis, J. (2020). High-intensity exercise in the evening does not disrupt sleep in endurance runners. European Journal of Applied Physiology, 120(2), 359-368.

注1:ほんとうに激しい運動は例外です。また、睡眠への良い影響(深く眠れる、長く眠れるなど)は午前中の運動の方が効果的なようです。

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