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動きを覚えるときに忘れがちなこと


動きを覚える3段階について別の記事で書きました。

そこで書けなかったものの、覚えるときに忘れがちなことを付け加えたいと思います。

動きを覚える vs. ものを覚える

柔術の技術習得のために、受験勉強の例えを使うことが良くあります。わかりやすい例えなので役に立つこともあります。ただし、動きを覚えることと、ものを覚えることには、1つ重要な違いがあります。

動きを覚えるには、覚えるだけでなく、その動きをコントロールすることも含まれるのです。これを運動学習における学習と制御といいます。例えば、あるテクニックの手順を覚えても、適切なパワーとタイミングで体を動かさなければ、技は掛かりません。適切なパワーとタイミングも覚えないと動きを覚えたことにはならないのです。

一方、ものを(例えば、漢字を)覚えるならば、覚えたことを(その漢字を)思い出せば良いだけです。適切なパワーもタイミングも関係ありません。少なくとも動きを思い出すときのような複雑さは全くありません。

このコントロールを覚えることが動きを覚えるためにはとても大切です。そして、しばしば忘れられがちです。

Bernsteinの4段階:関節の動きから考える

Bernsteinは動きの質が、コントロールの側面から見て、4つの段階を進んで上達すると考えました(Bernstein, 1967, 1996)。彼は、自由度、つまり、どれくらい関節や筋肉を自由に動かすかという視点から動きについて考察しました。我々の身体の動きは、非常にフレキシブルです。関節や筋肉を自由に動かすとパターンはいくらでも増える、つまり、自由度が上がります。Bernsteinは、動きの上達と自由度が関連していると考えました。これは自由度のコントロールを学ぶ過程でもあります。

レベルA(高い緊張)これは動きを覚えはじめる段階です。身体の自由度をできるだけ低くし、必要な関節や筋肉だけを動かします。それ以外はむしろ動かないようにします。そうでないと、身体の動きがコントロールできず、動きが覚えづらくなりるのです。

初めて見るような動きを学ぶときは、どうしても身体の動きがギクシャクします。実はこれは当然のことです。自由度を下げているからギクシャクするのです。むしろそのおかげで動きを覚えやすい状態になっていると考えることができます。あえて動かないようにコントロールをしている段階です。

レベルB(筋—関節リンク)動きのパターンをおぼえたら、はじめは動かしていなかった関節や筋肉を動かして、徐々に連動性を高めていきます。自由度を少しずつ高めるます。練習をしていると、徐々に動きがスムーズになります。これは動かしていなかった関節や筋肉が連動して動くようになるためです。少しずつ適切にコントロールできる部分を増やしていく段階です、

レベルC(空間のレベル)自分の周囲の力も利用していく段階です。身体がある程度スムーズに動くようになると、自分の身体にかかる力も利用していくのです。自分の周囲にある空間の力を利用すると言い換えることもできます。例えば、重力や、動きの慣性、相手の反発、力を入れた時の反作用などを利用します。柔術の例を出すと、押さえ込みで相手に体重をうまく掛けていくこと、つまり、重力をうまく使うことを挙げることができるでしょう。

レベルD(動作のレベル)これは複数の動きが連鎖する段階です。競技レベルでは複数の動きをほとんどの場合連動させます。このレベルになってようやく使える動きとも言えます。実際、柔術のスパーリングでひとつの技のやりとりで決着がつくことはまずありません。相手の反応に合わせて、さまざまな技のコンビネーションを仕掛けていくことになります。これをスムーズにできるとレベルD、動作レベルの段階に到達となります。

どんな練習がよい?

動きを覚える。それは、単に覚えた動きを再現するだけではありません。初期の段階では、身体の動きを丁寧に調節しながら、スムーズな動きができることを目指します。身体の自由度を徐々に上げるというプロセスです。コントロールの仕方を覚えます。これを経て、周囲の力も利用できるようになります。周囲の空間やそこにある力もコントロールできるようになるのです。そして、これまでの運動経験を結びつけるレベルまで達し、競技で使える動きを覚えたということになります。

動きを覚える過程で、身体の高める自由度を高める練習をするためには、力の入れ加減をコントロールすることが効果的です。例えば、テクニックの打ち込みや限定スパーなどで、30%の力で、あるいは50%の力でやってみるなど、普段よりも力のコントロールを意識しながらテクニックを使ってみるのが良い練習になります。

フルパワーが必要なときもあるのですが、パワーを適切にコントロールする方が重要なことが柔術ではむしろ多いのではないでしょう。もっとも、どのような競技にも、おそらく日常生活でも、そうではないかと思います。動きそのものだけでなく、そのコントロールも意識すると良い結果が待っていると思います。


引用文献

・Bernstein’s, N. A. (1967). The co-ordination and regulation of movements. Oxford: Pergamon Press
・Bernstein, N. A. (1996). On dexterity and its development. In M. L Latash & M. T Turvey, Eds. Dexterity and its development. Mahwah, NJ: LEA.

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