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柔術をやると頭が良くなる

20年ほど前からいわゆる「脳トレ」ブームが続いています。最近、着目されているのは複雑な運動の効果です。子供だけでなく、大人にも効果があり、しかも、柔術のように複雑な運動が特に効果的です。

格闘技 vs 有酸素 vs 脳トレ

レスリングのフランス王者(2回)でもあるDavid Moreauは、運動によって頭が良くなるかを調べました(Moreau et al., 2015)。格闘技、脳トレ(例、計算課題)、有酸素運動(例、エアロバイク)の3つの訓練を大学生に行い、その効果を比較しました。どの訓練も週に3回、8週間、合計24セッションを行いました。

3つの訓練はどれも、1セッション1時間くらいでした。格闘技ドリルは、スイッチバックや飛行機投げのドリルをペアになって行いました。完全に柔術のペアドリルと同じです。

スイッチバックの動画がこちらです

飛行機投げの動画がこちらです。論文を読むとこれらの動画とほぼ同じ写真が載っています。

格闘技の訓練ではこのような運動を1時間行いました。脳トレでは計算のようなものを、そして、有酸素運動ではエアロバイクを同じく1時間行いました。

頭の良さ:ワーキングメモリで測定

頭の良さは、ワーキングメモリという、頭の回転の早さや、集中力に関わる能力を調べました。ワーキングメモリは心のメモ帳とも呼ばれます。言語能力や思考能力、空間把握能力の基礎となるもので、ワーキングメモリの成績が良いと、知能が高いことが確認されています。Moreauの実験では、図形の認知、数の記憶などの課題を、訓練前と訓練後に行い訓練の効果を調べました。

実験の結果

下の図にワーキングメモリに対する訓練の効果を示しました。格闘技と脳トレで8週間の訓練の結果、同程度の成績の向上が見られました。残念ながら、有酸素運動ではほとんど向上しませんでした。

スライド1

次の図は空間課題に対する訓練の効果を示しました。メンタルローテーションのような、複雑な図形の認識に関する課題です。こちらはでは格闘技の訓練でのみはっきりとした効果が見られました。

スライド2

これらの結果をまとめると、格闘技の訓練がもっとも頭の良さを高めたと結論できます。

なぜ格闘技で頭が良くなるのか?

知能には、空間的なものと言語的なものの2種類があると言われています。数学の図形問題が空間的な知能が必要となる典型的な課題です。一方、複雑な文章を読んだり、書いたりするのは言語的な知能が関わっています。

格闘技の動作には空間的要素を多分に含みます。例えば、上の動画にある飛行機投げについて考えてみましょう。技を見てそれを自分でやってみるには、空間を複雑に動く様子をきちんと理解し、自分の体に置き換えなくてはいけません。さらに、相手の動きを見ながらそれに合わせて動く必要もあります。とても頭を使います。

このような複雑な空間の処理を行うので、格闘技の訓練は空間認知能力を直接高めると考えられます。また、動きを覚える最初の段階では、言語化が重要になるので、言語的な能力にも少なからず影響するのでしょう。

良くなるのは頭だけじゃない

格闘技の訓練の効果は頭が良くなるだけではありません。当たり前かもしれませんが、Moreauの実験で格闘技の訓練を受けた参加者は、心肺機能が高まり、筋力が向上し、体重は減り、体脂肪率は下がり、筋肉量も増えました。血圧にも良い作用があり、身体の健康も増進したのです。身体面の健康について脳トレの効果はありませんでした。そして、有酸素運動と比べても、格闘技の訓練は高い効果が見られたのです。

格闘技は、頭にも身体にも良いですよという話でした。

引用文献

・Moreau, D., Morrison, A. B., & Conway, A. R. (2015). An ecological approach to cognitive enhancement: complex motor training. Acta Psychologica, 157, 44-55.

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