高校数学をプログラミングで解く(数学III編)「6-2 平均値の定理」
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はじめに
今回は、数学IIIで学ぶ「平均値の定理」について、平均値の定理の式を満たす$${c}$$の値を計算するプログラムを作成していきます。
平均値の定理
まず、平均値の定理について解説しておきます。
平均値の定理
関数$${f(x)}$$が閉区間$${ [a,b] }$$で連続で、開区間$${ (a,b) }$$で微分可能ならば、
$$
\frac{f(b)-f(a)}{b-a} = f'(c), \ \ \ \ a < c < b
$$
を満たす実数$${c}$$が存在する。
注意 平均値の定理は、次のロルの定理を一般化したもので、曲線$${y = f(x)}$$において、その上の2点$${ \mathrm{A} (a, f(a)), \ \mathrm{B}(b,f(b)) }$$を結ぶ線分に平行な接線が引けるような点$${\mathrm{C}}$$が、曲線上で、$${\mathrm{A}}$$と$${\mathrm{B}}$$の間にあることを意味している。
ロルの定理
(平均値の定理の特別な場合)
関数$${f(x)}$$が閉区間$${ [a,b] }$$で連続で、開区間$${ (a,b) }$$で微分可能で、$${f(a)=f(b)}$$ならば、
$$
f'(c)=0, \ \ \ \ a < c < b
$$
を満たす実数$${c}$$が存在する。
平均値の定理を用いた計算
今回は、平均値の定理の式を満たす$${c}$$の値を計算するプログラムを考えていきます。
問題
次の関数と、示された区間について、平均値の定理の式を満たす$${c}$$の値を求めよ。
$$
y = \sqrt{x} \ \ \ \ [1,9]
$$
アルゴリズム設計
関数$${f(x)}$$に対して、閉区間$${ [a,b] }$$で平均値の定理の式を満たす$${c}$$を求める手順としては以下が考えられます。
① 平均値の定理の左辺の値$${f_c}$$を計算します。
$$
f_c = \frac{f(b)-f(a)}{b-a}
$$
② $${f'(x)}$$を求めて方程式$${f'(x)=f_c}$$を解くと、その解が$${c}$$の候補となるので、$${a < c < b}$$を満たしているかを確かめて、満たしていれば$${c}$$の値とします。
以上の手順で$${c}$$を求めることができますが、今回はこの手順をコンピュータに行わせるので、手順②は以下のように行うことにします。
②’ $${x}$$を$${x=a}$$から$${x=b}$$まで動かして、$${f'(x)=f_c}$$を満たしていれば、そのときの$${x}$$の値を$${c}$$の値とします。
プログラム
それでは、平均値の定理の式を満たす$${c}$$の値を計算するプログラムを作成していきます。
// 平均値の定理の式を満たすcを求めるプログラム
void setup(){
float a = 1.0; // 区間の下限
float b = 9.0; // 区間の上限
// 平均値の定理を満たすcを求める
float c = calc_c(a,b);
println("c=", c);
}
// 曲線の関数
float f(
float x
){
return sqrt(x);
}
// 曲線の導関数
float f_prime(
float x
){
return 1.0/2.0/sqrt(x);
}
// 平均値の定理を満たすcを求める関数
float calc_c(
float a, // 区間の下限
float b // 区間の上限
){
float c = 1.0;
// 平均値の左辺の値を計算
float fc = (f(b)-f(a))/(b-a);
// 平均値の定理の式を満たすcを求める
float e = 0.0001;
float dx = 0.01;
int n = (int)((b-a)/dx);
float x;
for(int i=1; i<n; i++){
x = a+i*dx;
if( abs(f_prime(x)-fc) < e ){
c = x;
}
}
return c;
}
ソースコード1 平均値の定理の式を満たす$${c}$$の値を計算するプログラム
ソースコード1で、アルゴリズム設計のところで説明した ②’ について、まず「$${x}$$を$${x=a}$$から$${x=b}$$まで動かして」の部分を変数 dx = 0.01 を用意して、x を a から b まで dx ずつ増やしていくことで実現し、「$${f'(x)=f_c}$$を満たしていれば」の部分を変数 e = 0.0001 を用意して、
abs(f_prime(x)-fc) < e
という条件にして利用しています。
ソースコード1を、Processingの開発環境ウィンドウを開いて(スケッチ名を「calc_mean_value_theorem」としています)、テキストエディタ部分に書いて実行します。
図1のように、開発環境ウィンドウのコンソールに
c= 4.0
と出力されます。この問題では、
$$
f_c = \frac{\sqrt{9}-\sqrt{1}}{9-1}=\frac{1}{4}, \ \ f'(x) = \frac{1}{2 \sqrt{x}}
$$
となりますので、平均値の定理の式を満たす$${c}$$の値は解析的に
$$
c = 4
$$
となります。したがって、プログラムの結果は正しいことがわかります。
おまけ:平均値の定理を図示するプログラム
最後に、スケッチ「calc_mean_value_theorem」で計算した平均値の定理の式を満たす$${c}$$の値を利用して点$${(c,f(c))}$$での接線を描くプログラムを作成します。
今回は、ベースとなるプログラムとして、記事『高校数学をプログラミングで解く(数学II編)「5-2 接線」』で作成したスケッチ「drawTangentialLine」を再利用し、スケッチ「drawTangentialLine」内で記述したプログラムと平均値の定理の式を満たす$${c}$$の値を計算するプログラム(ソースコード1)とを合わせることで作成していきます。以下の zip ファイルをダウンロードして展開または解凍してください。
そして、スケッチの名前(フォルダ名)を「draw_mean_value_theorem」と変更し、またスケッチ「draw_mean_value_theorem」内の「drawTangentialLine.pde」ファイルの名前を「draw_mean_value_theorem.pde」に変更します。そして、pdeファイル「draw_mean_value_theorem.pde」をダブルクリックしてスケッチ「draw_mean_value_theorem」の開発環境ウィンドウを立ち上げます。開発環境ウィンドウのタブ欄で「draw_mean_value_theorem」タブを選択し、そのテキストエリアのソースコードを以下で書き換えます。
float x_range = 10.0; // x軸の表示範囲 -x_rangeからx_rangeまで
float y_range = 5.0; // y軸の表示範囲 -y_rangeからy_rangeまで
void setup(){
size(500,500);
noLoop();
setAxes(x_range, y_range); // 座標軸の準備
noFill();
float x_min = -x_range;
float x_max = x_range;
// 曲線を描く
stroke(0,0,0);
draw_curve_function(0.0, x_max);
float a = 1.0;
float b = 9.0;
// (a,f(a)),(b,f(b))をプロットする
stroke(255,255,0);
plot_contact_point(a,f(a));
plot_contact_point(b,f(b));
// (a,f(a))と(b,f(b))を結ぶ直線を描く
stroke(0,0,255);
draw_line_connect_two_points(a,b,x_min,x_max);
// 平均値の定理を満たすcを求める
float c = calc_c(a,b);
println("c=", c);
// (c,f(c))をプロットする
stroke(0,255,0);
plot_contact_point(c,f(c));
// cでの接線を描く
stroke(255,0,0);
draw_tangential_line(c,x_min,x_max);
}
// 曲線の関数
float f(
float x
){
return sqrt(x);
}
// 曲線の導関数
float f_prime(
float x
){
return 1.0/2.0/sqrt(x);
}
// 曲線を描く関数
void draw_curve_function(
float x_min, // グラフの定義域の下限
float x_max // グラフの定義域の上限
){
int plot_num = 2000; // グラフを描くための頂点の個数
// グラフを描画
float x, y; // 関数の座標
float X, Y; // キャンバス上の座標
beginShape();
for(int i=1; i<plot_num; i++){
x = x_min + (x_max - x_min) / plot_num * i; // 曲線上の点のx座標
y = f(x); // 曲線上の点のyの値
// キャンバス上の座標位置に換算
X = width / 2.0 / x_range * x;
Y = height / 2.0 / y_range * y;
vertex(X, Y);
}
endShape();
}
// 平均値の定理を満たすcを求める関数
float calc_c(
float a, // 区間の下限
float b // 区間の上限
){
float c = 1.0;
// 平均値の左辺の値を計算
float fc = (f(b)-f(a))/(b-a);
// 平均値の定理の式を満たすcを求める
float e = 0.0001;
float dx = 0.01;
int n = (int)((b-a)/dx);
float x;
for(int i=1; i<n; i++){
x = a+i*dx;
if( abs(f_prime(x)-fc) < e ){
c = x;
}
}
return c;
}
// 点cでの接線を描く関数
void draw_tangential_line(
float c, // 平均値の定理の式を満たすc
float x_min, // グラフの定義域の下限
float x_max // グラフの定義域の上限
){
int plot_num = 2000; // グラフを描くための頂点の個数
// グラフを描画
float x, y; // 関数の座標
float X, Y; // キャンバス上の座標
beginShape();
for(int i=1; i<plot_num; i++){
x = x_min + (x_max - x_min) / plot_num * i; // 接線上の点のx座標
y = f_prime(c) * (x-c) + f(c); // 接線上の点のyの値
// キャンバス上の座標位置に換算
X = width / 2.0 / x_range * x;
Y = height / 2.0 / y_range * y;
vertex(X, Y);
}
endShape();
}
// (a,f(a))と(b,f(b))を結ぶ直線を描く関数
void draw_line_connect_two_points(
float a,
float b,
float x_min, // グラフの定義域の下限
float x_max // グラフの定義域の上限
){
int plot_num = 2000; // グラフを描くための頂点の個数
// 直線の傾き
float fc = (f(b)-f(a))/(b-a);
// グラフを描画
float x, y; // 関数の座標
float X, Y; // キャンバス上の座標
beginShape();
for(int i=1; i<plot_num; i++){
x = x_min + (x_max - x_min) / plot_num * i; // 直線上の点のx座標
y = fc * (x-a) + f(a); // 直線上の点のyの値
// キャンバス上の座標位置に換算
X = width / 2.0 / x_range * x;
Y = height / 2.0 / y_range * y;
vertex(X, Y);
}
endShape();
}
// 点をプロットする関数
void plot_contact_point(
float ax, // 接点のx座標
float ay // 接点のy座標
){
float X, Y; // キャンバス上の座標
// キャンバス上の座標位置に換算
X = width / 2.0 / x_range * ax;
Y = height / 2.0 / y_range * ay;
strokeWeight(5);
point(X, Y);
strokeWeight(1);
}
ソースコード2 平均値の定理の式を満たす$${c}$$での接線を描くプログラム
ソースコード2を、スケッチ「draw_mean_value_theorem」の「draw_mean_value_theorem」タブのテキストエディタ部分に書いて実行すると、図2のように、実行ウィンドウのキャンバス上に、問題の曲線が黒色の線、閉区間の2つの端点$${\mathrm{A}(a,f(a))}$$と$${\mathrm{B}(b,f(b))}$$とを黄色の点、2つの端点を結ぶ直線が青色の線、接点が緑色の点、そして接線が赤色の線でそれぞれ描かれます。
平均値の定理からわかるように、端点を結ぶ直線(青色)と接線(赤色)はお互いに平行になっていることがわかります。
まとめ
今回は、数学IIIで学ぶ「平均値の定理」について、平均値の定理の式を満たす$${c}$$の値を計算するプログラムを作成しました。
平均値の定理の式を満たす$${c}$$の値は、変数$${x}$$を$${a}$$から$${b}$$まで少しずつ変化させながら、条件式
$$
\frac{f(b)-f(a)}{b-a} = f'(x)
$$
に代入していき、条件式が成り立てばそのときの$${x}$$の値を求めたい$${c}$$の値とするように計算しました。このような方法は、コンピュータで関数の最大値、最小値を求めるときなどにも利用してきましたので、比較的理解しやすかったのではないかと思います。
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参考文献
改訂版 教科書傍用 スタンダード・オリジナル 数学III(数研出版、ISBN9784410209567)
演習問題
次の関数と、示された区間について、平均値の定理の式を満たす$${c}$$の値を求め、点$${(c,f(c))}$$での接線を描くプログラムを作成してください。
$$
y = \cos{x} \ \ \ \ [0,\pi]
$$
ポイント
この演習問題のポイントは、平均値の定理の式を満たす$${c}$$の値が複数あることです。これを考慮して、スケッチ「draw_mean_value_theorem」(ソースコード2)を修正して考えてみてください。
演習問題の解答例
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