[書評]働くことについての本当に大切なこと

リクルートマネジメントソリューションズの組織行動研究所所長をされている古野庸一さんが書かれた、「働く」ことについて本当に大切なことという本を読みまして、その感想を書こうと思います。

「働く」ことについて書かれた本

冒頭にも書かれていますが、本書は「働く」ことについて書かれています。「お金が余っても人は働くのか?」「働くことと幸福になること」「自分に合う仕事を見つけるためには」など、テーマは多岐に渡っています。その中で、個人的に印象的だった一部分を書きたいと思います。

モチベーションの上がる仕事の特性5つ

ハックマンとオールダムは、仕事の特性によって、人のやる気が大きく異なることに注目しました。どういう仕事であれば人は楽しく、やる気になるのか、研究を続け、モチベーションが上がる仕事の特性を導き出しました。次の5項目がその特性です。
①技能多様性:多様な技術が使える
②仕事の完結性:仕事が分断されておらず、意味のある単位である
③仕事の有意義性:仕事そのものに意味があると感じられる
④自律性:自分の工夫が活かせる
⑤フィードバック:仕事の結果がよかったのか否かフィードバックがある
近世以前の主な仕事、狩猟採集や農業は、様々な技能を使い、仕事は分断されていない上に、仕事の意義はわかりやすく、工夫は活かせて、仕事の結果もわかりやすいという、やる気を高めると特性を5つも持っていると言えます。いや、むしろ逆で、私たちはそのような仕事を何十万年も行ってきたことで、そういう仕事にやる気が高まるような心の構造を持っていると言う方が正しいかもしれません。
現代の多くの仕事は、分断されていたり、工夫の余地がなかったりして、やる気が上がる5つの要素すべてが含まれているわけではありません。専門特化が進み、仕事全体のプロセスや目的が見えなくなって、仕事のやりがいが乏しくなっていることも事実です。

この5つの特性についてはとても納得感を得ました。過去の面白かった仕事、面白くなかった仕事を思い出すと、あれはフィードバックがなくて面白くなかったなとか、あの仕事は分断されず一括で任せてもらって面白かったななど。

仕事をふることの恐ろしさ

そして一方、これはとても恐ろしいことだなと思いました。この5つの特性を意識せずとも仕事なんていくらでも作れるし、意図せずとも人のモチベーションを殺すことが容易にできるのだなと。例えば、

・何の背景も説明せず、
・ただ数字を打ち込んでりゃいい、
・余計なことはするな
・そのあとのフィードバックは一切しない

こういったことはいろんな会社の至る所で発生していると思います。

そしてこれは資本主義の色が濃いほどそちらに寄っていく傾向にあるような気がしています。仕事をファンクションで分割した方が効率的であり生産性は上がるし、また管理もしやすいから安定性は確実に高い。またフィードバックしている時間も勿体無いという考えもあります。資本主義というより短期業績主義といった方が正確かもしれませんが、それは人のモチベーションを殺すことになり、中長期的にみたら会社の毀損となると思います。

本書で、意味がない仕事の引き合いとして、ギリシャ神話の「シーシュポスの神話」を紹介していました。神がシーシュポスに課した罰は、岩を転がして、山の頂上まで運び続けるというものです。山頂まで岩を運ぶと、岩はそれ自体の重さでいつも転がり落ちてしまいます。それをまたシーシュポスが運び上げるということを永遠に繰り返します。無益で希望のない仕事という意味合いで、罰です。これは日本で言うところの「賽の河原」と似ており、どちらも「地獄・罰」のたとえとして描かれています。無益で希望のない仕事は地獄であり、これはこの世にいくらでもあるし、人間が簡単に、意図せずとも作り出せるものだなと思いました。

生産性との折り合い

とはいえ現実問題、そうせざるを得ない状況もあると思っています。特に社会人1年目や、入社早々などは出来ることも少ないし、仕事を分割して渡さないと機能することが少ない。そして繰り返しになりますが、一般論としてファンクションで分割した方が生産性が高いのも事実です。

だから少なくとも、最初は分断された仕事になってしまうが、スキルを身につけて出来ることを増やしていくと、面白い仕事がどんどん増えていく体制・仕組みと、それを個人が自覚出来る状態が作れるだけでも、それはとても良い環境であるし、そういう場に身を置きたいなと思います。

いいなと思ったら応援しよう!