ある2次体のイデアルについて
先日高木貞治「代数的整数論」(第2版)をメルカリで購入したので、少しずつ読んでいます。その中から第2章問題3を取り上げたいと思います。(現代表記に変えてあります。)
[問題] 2次体 $${\mathbf{Q}(\sqrt{-5})}$$ において $${(3+\sqrt{-5},1-7\sqrt{-5})=[2,1+\sqrt{-5}]}$$ を示し,それは単項イデアルではないことを示せ.
注意
左辺は$${3+\sqrt{-5},1-7\sqrt{-5}}$$ で生成される $${\mathbf{Q}(\sqrt{-5})}$$ の整数環 $${\mathbf{Z}[\sqrt{-5}]}$$ のイデアル,右辺は $${\mathbf{Z}}$$ 上 $${2,1+\sqrt{-5}}$$ で生成されるイデアルです.(イデアルになることはあとで示します.)
(解答)
左辺,右辺をそれぞれ$${\mathfrak{a,b}}$$とおく.まず$${\mathfrak{b}}$$がイデアルになることを証明する.加法群になることは簡単なので,$${\mathbf{Z}[\sqrt{-5}]}$$の作用で閉じていることを示せばよい.
そこで$${a,b\in\mathbf{Z}}$$として,$${2(a+b\sqrt{-5}),(1+\sqrt{-5}) (a+b\sqrt{-5})\in\mathfrak{b}}$$
を示す.実際
$${2(a+b\sqrt{-5})=2b(1+\sqrt{-5})+2(a-b)\in\mathfrak{b}}$$
$${(1+\sqrt{-5}) (a+b\sqrt{-5})=(a+b) (1+\sqrt{-5}) +2(-3b)\in\mathfrak{b}}$$
である.
次に$${\mathfrak{a}\subset\mathfrak{b}}$$を示す.実際
$${3+\sqrt{-5}=2+(1+\sqrt{-5}),1-7\sqrt{-5}=2・4+(-7)(1+\sqrt{-5})\in\mathfrak{b}}$$
であることと,$${\mathfrak{b}}$$がイデアルであることから出る.
次に$${\mathfrak{b}\subset\mathfrak{a}}$$を示す.
$${\mathbf{N}}$$を$${\mathbf{Q}(\sqrt{-5})/\mathbf{Q}}$$のノルムとして
$${\mathbf{N}(3+\sqrt{-5})= (3+\sqrt{-5}) (3-\sqrt{-5})=14}$$
$${\mathbf{N}(1-7\sqrt{-5})= (1-7\sqrt{-5}) (1+7\sqrt{-5})=246}$$
であることに注意する.
1次不定方程式$${14x+246y=2}$$の解として$${x=-35,y=2}$$がとれるので
$${2=(3+\sqrt{-5})(-35(3-\sqrt{-5}))+(1-7\sqrt{-5})(2(1+7\sqrt{-5}))\in\mathfrak{a}}$$
また$${(3+\sqrt{-5})(2\sqrt{-5})+(1-7\sqrt{-5})=-9-\sqrt{-5}}$$より
$${1+\sqrt{-5}=(3+\sqrt{-5})(-2\sqrt{-5})-(1-7\sqrt{-5})-2・4\in\mathfrak{a}}$$
となって主張がしたがう.
最後にこのイデアルが単項イデアルでないことを示す.
$${\mathfrak{a}=(\alpha)}$$なる$${\alpha\in \mathbf{Z}[\sqrt{-5}]}$$が存在すると仮定すると,
$${3+\sqrt{-5}=\alpha\beta,1-7\sqrt{-5}=\alpha\gamma}$$となる$${\beta,\gamma\in \mathbf{Z}[\sqrt{-5}]}$$が存在する.
両辺のノルムをとり$${\mathbf{N}(\alpha)\mathbf{N}(\beta)=14,\mathbf{N}(\alpha)\mathbf{N}(\gamma)=246}$$
24,246の最大公約数は2だから$${\mathbf{N}(\alpha)=1,2}$$であるが,(虚2次体のノルムは非負整数であることに注意)
$${\alpha=a+b\sqrt{-5} (a,b\in\mathbf{Z})}$$とおくと$${\mathbf{N}(\alpha)=a^2+5b^2}$$より$${\mathbf{N}(\alpha)=1}$$となるので,
($${a^2+5b^2=2}$$なる$${a,b\in\mathbf{Z}}$$は明らかに存在しない)
$${\alpha}$$は単数で$${\mathfrak{a}= \mathbf{Z}[\sqrt{-5}]}$$となる.
ところが$${\mathbf{Z}[\sqrt{-5}]/\mathfrak{a}\cong\mathbf{Z}[X]/(X^2+5,3+X,1-7X)}$$であり
$${X^2+5=(X+3)(X-3)+14,1-7X=-7(X+3)+22}$$と$${(14,22)=2}$$
より右辺は$${\mathbf{Z}[X]/(2,X+3)\cong\mathbf{F}_2[X]/(X-1)\cong\mathbf{F}_2}$$と同型になるから
$${\mathfrak{a}}$$は極大イデアルとなり矛盾である.よって$${\mathfrak{a}}$$は単項イデアルではない.