Vol.3 常用対数表の活用を、その1
Vol.2 で出題した問題の、私の解答解説
問題その1
問題その1は、7、9、1024 について、それぞれ 2 の何乗となるかを「常用対数表を使って見積もる」のだった(問題その2については、後ほど熱く解説致したく思う)。
常用対数とは 10 を底とする対数であり、正の数 $${x}$$ の常用対数は、
$$
\log_{10}{x} \ \ \ \ \ \ \ (1)
$$
で表す。
老婆心ながら(1)式の値は $${x}$$ が 10 の何乗であるかを示す。簡単すぎる例だが、$${\log_{10}{1000}=3}$$ である。1000 は 10 の 3 乗だからである。
常用対数表とは、ある正の数 $${x}$$ に対して、この $${\log_{10}{x}}$$ の値を概数で示した数表である。
ところが「問題その1」は、7、9、1024 のそれぞれが 2 の何乗になるかを(常用対数表で)見積もる問題である。「 2 の何乗になるか」であるから、それは2を底とする対数の式を使ってそれぞれ、
$$
\begin{array}{lll}
&\log_{2}{7} \\ \\
&\log_{2}{9} \\ \\
&\log_{2}{1024}
\end{array}
$$
と表す事が出来るが、これら 3 つの対数の底は 2 なので、このままでは底が 10 の対数の値を示している常用対数表は使えない。なので、上記 3 つの対数の底を 10 に変換した後に常用対数表を参照しようと思ってくれると私は嬉しい。
対数の底を変換するには次に示す公式を利用すると良い。$${a,\ b,\ c > 0 }$$ かつ $${a,\ c \ne 1}$$ のとき、
$$
\log_{a}{b} = \dfrac{\log_{c}{b}}{\log_{c}{a}} \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ ( 公式 1 )
$$
公式 1 の右辺で $${c = 10}$$ として、
$$
\log_{a}{b} = \dfrac{\log_{10}{b}}{\log_{10}{a}} \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ ( 公式 2 )
$$
よって、上式左辺の底が 10 で無くても( 勿論、1で無い正の数の範囲であるが )、その値を常用対数表により概数で求める事が出来る。
$${ \log_{2}{7} }$$ について公式 2 を用いると、
$$
\log_{2}{7} = \dfrac{\log_{10}{7}}{\log_{10}{2}}
$$
私が常用対数表を参照すると $${\log_{10}{7} \approx 0.8451}$$ と $${\log_{10}{2} \approx 0.3010 }$$ であった。よって、
$$
\begin{array}{lll}
\log_{2}{7} &= \dfrac{\log_{10}{7}}{\log_{10}{2}} \\ \\
&\approx \dfrac{0.8451}{0.3010} \\ \\
&\approx 2.808
\end{array}
$$
結局 7 は 2 の「約 2.808 乗」と分かる。
$${ \log_{2}{9} }$$ についても公式 2 を同様に用いて、
$$
\log_{2}{9} = \dfrac{\log_{10}{9}}{\log_{10}{2}}
$$
私が常用対数表を参照すると $${\log_{10}{9} \approx 0.9542}$$ であった ($${\log_{10}{2} \approx 0.3010 }$$ であった)。よって、
$$
\begin{array}{lll}
\log_{2}{9} &= \ \dfrac{\log_{10}{9}}{\log_{10}{2}} \\ \\
& \approx \dfrac{0.9542}{0.3010} \\ \\
& \approx 3.170
\end{array}
$$
結局 9 は 2 の「約 3.170 乗」と分かる。
ところで、$${\log_{2}{8} = 3}$$ なのは了解頂けると思う。 8 は 2 の 3 乗だからである。ここ迄 $${\log_{2}{7} \approx 2.808}$$、$${\log_{2}{9} \approx 3.170}$$ と求めてきた。
$$
2.808 < 3 < 3.170
$$
なので、
$$
\log_{2}{7} < \log_{2}{8} < \log_{2}{9}
$$
という事が確かに確認できる(これで大小関係が異なっていたりすると「計算間違いか?」という事になろう)。
$${ \log_{2}{1024} }$$ についても、公式 2 を用いてここ迄と同様に、
$$
\log_{2}{1024} = \dfrac{\log_{10}{1024}}{\log_{10}{2}}
$$
常用対数表で $${\log_{10}{2} }$$ の値を参照できるのは良いのだが、$${ \log_{10}{1024} }$$ をどうするか? 10 を底とする 1024 の 対数値(1024の常用対数の値)は常用対数表には(多分)載って無い。
因みに私の持っている常用対数表には、1.000 から 9.999 迄の常用対数の値の掲載しか無い(もしかするとそうで無い常用対数表もあるかもしれないが、私は未だ見て無い)。
しかし $${ \log_{10}{1.000} }$$ から $${ \log_{10}{9.999} }$$ 迄の値なら載っている分けだから $${ 1024 = 1.024 \times 1000 }$$ である事を利用し、次に示す公式を使うと良い。
$$
\log_{a}{XY} = \log_{a}{X} + \log_{a}{Y} \ \ \ \ ( a,\ X,\ Y \gt 0,\ \ a \ne 1 ) \ \ \ (公式 3 )
$$
これを使うと $${ X = 1.024 ,\ Y= 1000 }$$ として(勿論、$${a = 10}$$ としよう)、
$$
\log_{10}{1024} = \log_{10}{1.024} + \log_{10}{1000}
$$
上式右辺の格好でなら常用対数を利用できる。私が常用対数表を参照すると $${\log_{10}{1.024} \approx 0.0103}$$ であった。念のために、$${\log_{10}{1000} = 3}$$ となる。これは常用対数表を利用するまでもない。$${ 1000 = 10^3 }$$ だからである(これは、本稿のどこかで書いたかもしれない。探してみよう)。よって、
$$
\begin{array}{lll}
\log_{10}{1024} =& \log_{10}{1.024} + \log_{10}{1000} \\ \\
&\approx 0.0103 + 3 \\ \\
&= 3.0103
\end{array}
$$
$$
\therefore \log_{10}{1024} \approx 3.0103
$$
よって、
$$
\begin{array}{lll}
\log_{2}{1024} &= \dfrac{\log_{10}{1024}}{\log_{10}{2}} \\ \\
&\approx \dfrac{3.0103}{0.3010} \\ \\
&\approx 10.00
\end{array}
$$
$$
\therefore \log_{2}{1024} \approx 10.00
$$
1024が2の10乗であることは、実は多くの人の既知の事実かもしれないし、こんなものは1024を素因数分解すれば $${1024 = 2^{10}}$$ と分かるので、わざわざが常用対数表など用いずとも良いと思う人は多いだろう(しかも概数でしか分からないでは無いか!)。
これについては、一つの問題を他の解法で求めても、どの様な解法を用いても(それが適切なものであれば)必ず答えが(近似値となるかもしれないが)唯一つに定まる事を示す例として良いと思う。
更に、別解を試みるのは数学の理解や練習にとても良いと思う。
問題その2
私の解答解説?
温室効果ガスとして炭酸ガスよりも悪影響を及ぼすメタンガスが、牛のゲップに沢山含まれているのがケシカランと言う意見を情報番組で最近見た。そのため、特にヨーロッパ諸国では牛を飼育する酪農に厳しい目が向けられているそうだ。
実は学生の時、ある教官から「欧米では牛のゲップが温室効果ガスとして悪影響だと言っている人たちがいるようだ」という旨の話を伺ったことがあり、当時「そんなバカな!!」と思った記憶がある。
前出の情報番組ではメタンガスの温室効果ガスとしての効き目や、世界中の牛の数、牛のゲップや大気中のメタンガス濃度等を示し、牛のゲップ中のメタンガスの温室効果ガスとしての影響は無視出来ないとしていた。
更に、実際に牛のゲップに含まれるメタンガスを減らすために飼料の成分を工夫する研究も進んでいて、実際にその飼料を使った酪農も始まっている事を伝えていた。
これは北海道をも含めた今年の記録的な夏の蒸し暑さも手伝って、視聴者に対して「これは是非対策が必要な喫緊の課題である」と思わせるような内容であったかもしれない。
また、後日のニュース番組に映る、暑さのために牛舎でグッタリと横たわり、搾乳量も落ち気味の乳牛達の姿が私には印象的であった。この蒸し暑さは多分牛さん自身は悪く無いのだろうが。
もしかしたら将来は山羊乳が、敗戦後の日本の食糧難を救った脱脂粉乳の原料である牛乳の代替食品になっていくかもしれない。北海道の酪農も、山羊の飼育になっていくかもしれない。そうなると牛肉も山羊の肉になっていくか?山羊のゲップは大丈夫だろうか?欧米諸国の人達は山羊の飼育について、どう考えているだろうか?(また余計な事を書いてしまった)
今日も(沢山?)牛乳を飲む私である。牛さんありがとう!
(ここに記載のものは、PDF版ではカットの予定です。了承頂けましたら幸いに思います。他の私のマガジンに転載する事は有るかもしれません)
今月の問題
問題その1
問1.本稿で用いた公式1と公式3を導出せよ。
問2.次に示す式の値を、常用対数表を使って概数で求めよ
(1) $${\log_{10}{11}}$$
(2) $${\log_{10}{0.9}}$$
(問 2 は実にせこい出題かもしれず、何だか申し訳ない)
問題その2
休憩しましょう。美味しい牛乳をどうぞ・・・
マガジン「高校数学1ミリメートル」の次回の更新は10月31日迄に致す予定です。次回も宜しくお願い致します。
初稿 2023年9月4日
高校数学1ミリメートル
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