Vol.9 こんな公式記憶する気になれん~~因数分解編~~その1
導出過程を示して因数分解せよ!
次の式を因数分解せよと云う出題を考えてみる。
$$
a^3 + b^3 + c^3 - 3abc \cdots(1)
$$
実はこの式の因数分解は、多くの高校数学の教科書や公式集が公式として掲載していると思うので、その公式を正確に記憶しているならば即座に正解することが出来る。
しかし、その因数分解の結果の存在について知ってはいるが記憶はしていないとか、その記憶が曖昧だとか、そもそも上式は初めて見る式という事になると自分で自力で導出しなくてはいけない。
( 余計な事を云う事になるのだろうが、公式集の当該箇所を見たとして、そこにある因数分解の式は正確なのだろうかと云う事もある。そんな事を言うと著者や出版社の反感を買いそうだが、例えば、数学のテキストに誤植を散見することは多い。出版後に出版社が Web 上で誤植の訂正を掲載するのを、よく見かける。私の経験で恐縮だが。書籍やWEBに掲載の事は、出来れば自ら確かめてみる事をお勧めする。私の記事を含めて )
しまった、また前置きが長くなってしまった
さて、( 1 ) 式のなかに $${ a^3+ b^3 }$$ があるので、それなら
$$
\alpha^3+\beta^3 = ( \alpha + \beta )^3 - 3\alpha\beta ( \alpha + \beta ) \cdots(2)
$$
と云う式を利用できるかもしれない。
因数分解なら
$$
\alpha^3 + \beta^3 = ( \alpha + \beta ) ( \alpha^2 - \alpha\beta + \beta^2 )
$$
が有るではないか! と思われるかもしれないが、( 2 ) 式の利用から始めてみることにする。
$$
\begin{array}{ll}
& a^3 + b^3 + c^3 - 3abc \\ \\
= & ( a + b )^3 - 3ab ( a + b ) + c^3 - 3abc \cdots(3)
\end{array}
$$
(3)式の右辺2項目と4項目を抜き出すと
$$
- 3ab ( a + b ) - 3abc = -3ab ( a + b + c ) \cdots(4)
$$
となる。ここで(3)式の右辺1項目と3項目を抜き出して(2)式を参考に、(4)との共通因数 $${ ( a + b + c ) }$$ を以下の様につくり出す事も出来る。
$$
\begin{array}{ll}
& ( a + b )^3 + c^3 \\ \\
=& ( a + b + c )^3 - 3( a + b ) c ( a + b + c ) \cdots(5)
\end{array}
$$
(3)式右辺は(4)と(5)の結果より、$${ ( a + b + c ) }$$ を共通因数として整理する事が出来る。これに気付く事が出来れば(1)式の因数分解を得る事が出来る。式変形を最初から書くと、
$$
\begin{array}{ll}
& a^3 + b^3 + c^3 - 3abc \\ \\
= & ( a + b )^3 - 3ab ( a + b ) + c^3 - 3abc \\ \\
= & ( a + b )^3 + c^3 -3ab ( a + b + c ) \\ \\
= & ( a + b + c )^3 - 3( a + b ) c ( a + b + c ) -3ab ( a + b + c ) \\ \\
= & ( a + b + c ) \{ ( a + b + c )^2 -3 ( a + b) c -3ab \} \\ \\
= &( a + b + c ) \{ a^2 + b^2 + c^2 + 2 ( ab + bc + ca ) - 3 ( ab + bc - ca ) \} \\\\
= &( a + b + c ) ( a^2 + b^2 + c^2 - ab - bc - ca )
\end{array}
$$
$$
\therefore a^3 + b^3 + c^3 - 3abc = ( a + b + c ) ( a^2 + b^2 + c^2 - ab - bc - ca )
$$
(2)式を繰り返し適用して共通因数 $${ ( a + b + c ) }$$ を炙り出し、それで因数分解できると記憶しておけば、何時でも因数分解を導き出す事が出来そうだ。
(実は、上記の事は何処でも見かける定石的手法に、私なりの解説を致したものである。この因数分解に触れる機会の一つとなれば幸いと思う。加えて、複雑と感じる公式の記憶には、その導出の練習が役に立つかもしれない)
高校一年生の教科書で見るこの因数分解は、中学卒業したての高校生にとっては、出来れば避けて通りたい程の長く面倒な式変形や公式に見えるかもしれない(私にとってもそうだった)。
拙記事を中高生が見てくれているなら「これ位の事、いくらでもやってやるぜ!」とジャンジャン取り組んでほしい、乗り越えてほしい、と、かつて不勉強で数学を苦手としていた不肖の先輩から申し上げたい。
閑話休題
こういった既知の公式等を導出する出題をみると、よく思い出すことが有る。
私が一番凄いと思う手品師がテレビ番組で「 手品師は、様々な手品の古典をトレーニングするなかでオリジナルの手品を考案するのだ 」と言うのを聞いて、これは多くの事を学んだり習得することに通じるものがあると思った事を。
数学の習熟や発見もまた、これに共通することが有るのでは無いか?と言うことを考える事がある。つまり既知の定理や公式を、改めて自分で導いたり証明することが数学力の向上に繋がると。
余談だが、その手品師の話こそが手品というもの、そのものの最大の種明かしかもしれない ( そうなると、やはり手品師は魔術師では無いようだ。その手品師によればの話だが )。
(このお話は(私が個人的に好きなので)PDF版にも掲載予定です)
今月の問題
問題 1-1
以下の式の ( 有理数係数の範囲での ) 因数分解の導出過程を記述せよ。
$$
\begin{array}{ll}
(1)& a^3 + b^3 \\ \\
(2)& a^3 + 3a^2b + 3ab^2 + b^3
\end{array}
$$
問題 1-2
次の式を複素数係数の範囲で因数分解せよ
$$
a^2+b^2
$$
問題 1-1(1)の因数分解は、本稿にチラッと結果のみ示している。「 出題の順序が逆じゃないか!同じ3次式でも、こっちは2項しかないぞ」と、聞こえてきそうだ。実は、本稿を書いているうちに、ふと、思い付いて出題した。こんな出題の仕方で恐縮である。
問題 2
休憩しましょう。
(解答解説は次回に掲載予定です。)
次回は7月31日迄に掲載予定です。宜しくお願い致します。
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(なかなか売れないので、近々10稿程まとめて格安販売を検討中。300円程が良いだろうかと思案中だが、欲が出てきて400円にするかもしれない。買って頂けると、すごく嬉しい)。
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(この部分はPDF版ではカットの予定です)
初稿 2022年 6月 15日
改訂 2024年 6月 9日
高校数学1ミリメートル
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