【別論1】私の新しい出版構想
※これは「哀しみのベラドンナ復元豪華画集」のクラウドファンディングを行うにあたって考えていたことをXと facebookに書いたものであるが、テーマが「21世紀の出版マニュフェスト」と直接関係するため、こちらのマガジンの記事として改めてまとめたものである。「ベラドンナ豪華本クラウドファンディング」については、こちらのマガジンを参照して下さい。
来年度刊行予定のベラドンナ豪華本だが、すべてオンデマンド印刷でやろうと決めた。オンデマンドは私なんかの世代だと「粗悪な簡易印刷」というイメージが強く、最初は抵抗があったが、今回テスト印刷を行なってみて、近年のオンデマンドの質的向上に目を見張った。
下に貼った図版は、今回のクラファンでも復元原画の例としてよく使うものだが、これが1枚からプリントできるオンデマンド印刷なのだ。実物を見てもオフセットと区別ができない。このクオリティなら豪華本制作に耐え得ると判断した。
オンデマンド印刷で出版する利点は、在庫リスクが無いということに尽きる。通常使われるオフセット印刷は、千部、二千部の大部数を印刷することで一部あたりの原価が大幅にコストダウンするが、もしこれが売れ残った場合、場合によれば数千部を越える在庫を倉庫に置かなければならない。しかも、税法上在庫は「資産」として計上されるので、在庫を保管するだけで税金が取られるのだ。
なので出版社は「もう売れないだろう」と判断した自社の出版物を断裁処分し、「断裁証明書」を業者から発行してもらうのである。断裁された本はベルトコンベアで薬液に通されてドロドロのパルプとなって最後はトイレットペーパーになる。
一度、埼玉にある断裁業社の工場を見学したことがあるが、コンテナに載せられた膨大な漫画雑誌の売れ残りが次々と裁断されてパルプになっていた。実に勿体ない、資源の無駄だと思った。
話を戻すと、オンデマンドで豪華本を作ることは一番地球に優しいと思った。極端に言うなら一部から制作できるので、在庫リスクが発生せず、余計な税金もかからない。薄利多売の正反対である「高利薄売」の出版を実現するには、オンデマンド印刷の近年の質的向上は救いの神に思える。
次に行うクラファンではリターンの目玉は「豪華画集」(3万から5万円)、「普及版画集」(1万円程度)、「ベラドンナ研究(解説書)」(6000〜8000円。価格は全て予定)の3冊になる。
高額な豪華画集と、研究書(150〜200ページ予定)はオンデマンド出版にする。研究書は活字主体の本だが、オンデマンドにする理由は英語版とフランス語版を同時に作るからだ。もし需要が有ればそのほかの言語版も作る。これをオフセットでやったら大変なことになるので、小部数印刷に適したオンデマンドしかない。日本語版から横書きの本にするので、言語を変更しても文字データの差し替えで済む。
普及版画集は、最低でも300部作るので、これは国際クラファンの様子を見て決める。もし400部以上作るなら、オフセットの方がコストが安くなるので。
以下書く内容はあくまで予定だが、私の構想する出版プロジェクトの概要は以下の通り。
(1)オンデマンド出版(オフで作る場合も一回300部まで。在庫リスクの大幅削減)
(2)高利薄売(数万円の豪華本(B4判)と、1万以下の普及版(B5判)の同時発売。詳細な作品研究書の別売り(高額本の付録とする可能性もある。別売りは検討中)。
(3)取次も書店も介さない、完全産地直送販売。基本はネットで注文を受けての受注販売。通常の出版では取次と書店の取り分を価格の3割と計算するので、著者印税の10%(通常)を20%にしても版元には利益が出る。深井国先生にはクラファンの謝礼は売り上げの10%だが、その後に作るECサイトからの販売印税は20%支払うと約束している。資本に余裕が生まれたら、著者に描き下ろしも依頼したい。その場合は5%〜10%を原稿料として前渡し金にする。
(4)新しい出版企画は必ずクラウドファンディングを実施し、製作費を調達するとともにマーケティングを兼ねる。
いずれ構築するECサイトでは、時期を見て高額本を10〜20%ディスカウントしたバーゲンセールも行いたい。Amazonプライムデーみたいな感じである。書籍のバーゲンセールは、出版業界では法的に独禁法の例外として認められている「再販価格維持制度」のためにタブーになっている。戦後、文化保護の名目でいくつかの商品項目に再販価格制度が導入され、これが指定する商品は定価販売が義務付けられることになった。これによって版元は書店などに値引き販売を禁止することが可能となり、版元は一定の利益が確保された。
90年代の終わりにAmazonが最初の日本進出を図った時は、日本出版界特有の再販価格維持制度によって瀬戸際で阻止できた。Amazonは書籍を大量購入してバーゲンセールをすることで売り上げを伸ばしてきたからだ。これが不可能と知り、始めは日本固有のシステムの前に苦戦を強いられたAmazonだったが、その圧倒的な品揃えと検索のし易さ、早ければ翌日には欲しい本が届く圧倒的な利便性でたちまちシェアを拡大し、日本出版界はとうとうAmazonに屈することになった。
ただし一度人手に渡った古書に関しては再販価格維持制度に拘束されないので、古書店が定価以下でも、定価より高くとも自由に値をつけて販売出来る。
私が販売する書籍は出版業界とは無縁の場所で立ち上げるので、新刊のバーゲンセールも可能である。
2018年以降、紙の書籍は電子書籍の前に敗退を続け、書店の数が激減し、崩壊寸前の貸本漫画のようになっている。しかし電子書籍と紙書籍は全く別の特徴を持った別の表現媒体なので、少なくなっても紙書籍の需要は絶対に消えない。
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