歩合給の導入はなぜ失敗したのか? 原因と解決策を探る
前回の続きです。
社員のモチベーションを上げるために歩合給制度を導入した、ある不動産会社。しかし、業績は下がってしまいました。
社長に求められる“発想の転換”
社員が「これ以上働けない」と青息吐息になっている時に、いくら目の前にニンジンをぶら下げても手応えは得られません。この会社の場合は、当然「人を増やす」という選択をして、社員のキャパシティを増やすのが賢明です。
歩合にまわすコストを増員に充てて、クロージングだけをするスタッフを入れるとか、逆に最初のアポに特化した人を増やすなど、チームを再編成してハイブリッド化するといった工夫が必要になります。
このケースは不動産会社の事例でしたが、不動産の契約は複雑で、スタッフにはアポをとる能力、物件のリサーチ能力、クロージング能力、契約締結や重要事項の説明能力…などが求められます。これら全てを兼ね備えている人材など、なかなかいるものではありません。
こうした状況に歩合給のストレスがかかると、なおさら力は発揮しづらくなります。この壁を無視して人を動かそうとしても無理があるのです。短期間ではうまくいっても、繰り返す中で限界に達してしまいます。その時に社長が「もっといい歩合のやり方があるはず」と自分の発想に固執すれば、会社は軋み始めます。結論として、ビジネスプロセスを変えていかないと歩合給はうまくいかないのです。
社員が動くようになるプロセスとは?
この問題の根底には、人の脳の構造が絡んでいます。つまり「気持ちの問題」です。
課題解決の専門家は、理論・理屈で考えます。社長も頭の回転が速い人が多いので、理屈で考えたものをピシッと作ります。しかし社員にそれが響くとは限りません。
社員は、まず自分の身を守るという考え(間脳視床下部)から入っていき、そして仲間として認められているかという承認欲求の段階(大脳辺縁系)を経て、その後にはじめて大脳皮質で理論・理屈を理解するようになります(マズローの「欲求5段階説」)。
給与やボーナスに関することは、自身の安全に繋がることなので、ネガティブ要因があると分かった途端に社員は心を閉ざしてしまうのです。
ここで特定の手法に固執していては、改善は進みません。会社の風土を知り、それを元に伝わりやすい方法や効果が出る方法を選択して、最後に理屈を持ってくる方が人は動きます。
類似の事例として、一昔前に「年俸制で業績が上がる」というイメージが広まった時期がありました。年俸制を普通の社員に導入すると、実質固定給になります。これは現実的ではありませんし、大企業で年功序列を廃したいというケースには有効だったかもしれませんが、中小企業には向いていないのです。
いずれにしても、忘れてはならないのが「万能薬はない」ということです。より詳しい解説は次回でお伝えします。