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【小説】タイム・トイレ・タイム

唐突だが、読者のみんな、トイレってどう思う?
みんなのいろいろな汚いものを流してくれる偉大なもの…
などとぬかしたら過ぎた言葉かもしれないが、いろいろトイレの立場になってもみたら、どうなん?って思うこといっぱいあると思うんだ。
今回はそんな思いになったことがあったのでここに書き残しておくことにする。


前述のトイレに対する考えの話をする前置きとして、賢明なる読者諸君はおじいちゃんおばあちゃんがいて田舎に家があるところではあったであろうボットン便所の存在は存じ上げているとは思う。

中にはネットやTVや本などでしか知らない人もいるかもしれないから、具体的な説明をしたいところであるが、この文章をスマホを見ながら食事されておられる方もいらっしゃると配慮して差し控えさせていただく。

前置きはこれくらいにして、そのボットン便所、おれも例にも漏れず、あの暗い・怖い・臭いの3点セットがそろったあの場所は夏休みなんかにおばあちゃんち行って夜になるとなおさら…それが寝てからオシッコに行きたくなって起きた時のあの恐怖と言ったら!

そんなある夜のことであった。おれが深夜に目が覚めて、みんなが寝静まっている頃だ。
便所に行き扉を開けたら、どこからともなく声が…。
「をーい!をーい!」


「…えっ…誰っ…?」
と、おれが言葉をかろうじて発すると
「あ!誰かいた!ここの時代って…?」
最初何言ってんのか分かんなかったが…。
「あ!昔の、子供の時の、おれじゃん!」
と暗いボットン便所の便器の穴の中から妙に明るい声がした。
「くっさー、こんな最新式の技術なのにどーしてこーもクサイ思いしないとダメなんだろうな…」
と、その声の主の男は便器の中から這い上がってきた。
「げーっ!」
「げーっ!だよなあ、まあ普通の反応だよな、すまんけど…井戸水あったろ?貸してくんない?」


「くっさー、まだ匂い落ちないけど悪ィなァ」
「えっ…アンタ…くっさー」
「そうだよな…疑問より匂いの方が気になるよなァ、まあおれのことだから察しが早いと思うけど、おれ、未来から来たおれ…ってかキミなんだ!」
「えーっ」
「って言うのは未来のおれ、ってかキミ、タイムマシンの開発してんだけど…動力エネルギーが人の大便・小便だったりする関係でトイレ型タイムマシンを考えて…そうすると合理的に動力エネルギーが補充できて、かつ未来にも過去にもトイレを通じてタイムリープしてきたんだけど…これはちょっと開発し直した方がいいかなあ…」
「うん…一応聞いているけど…クサイ方が先に入って頭に残らなそう…」
「それか逆に記憶に残りすぎるか、だな…まあ説明はそれぐらいにして、この時代じーさんって生きていたっけ?」
「えっ…もう何年も前に亡くなったよ…」
「そっかそっか…時代の設定間違えたな…じゃあ悪ィけどじーさんに会う…いや時間法に違反しそうだし、遠目で見るだけでもしたいんだよ!だから…一緒に見に行かない?」


と渋々その時のおれは未来のおれに逆らわず、便器の中の穴にあったタイムマシンに乗り込むことにした。
「くっさー!くさいよ、早く時間をさかのぼってー!」
「悪ィ、悪ィ…えーつと、ダイヤルをこうだっけ?」
次の瞬間物凄い勢いで糞尿をまき散らしてタイムマシンは消えた。


そして次の瞬間今度も物凄い震動でボットン便所にタイムリープして、その衝撃で、またしてもそこら中に糞尿をまき散らした。
「何だ?何だ?」
声が聞こえた。ヤバイ…!じーさんなんじゃ…。
「すみませーん、もうぶっちゃけ…本当にいろいろぶっちゃけましたけど。これ、受け取ってもらえます?」
未来のおれがじーさんに手紙らしきものを手渡した。
あやうく便器の中に落ちそうになったじーさんだったが、未来のおれはあまり気にも留めず
「すみませーん!ではではー!」
と再びタイムリープした。


ところ変わって今のおれ。
そんなことがあったなあと思い出したのは、おばあちゃんと部屋の整理をしていた時だった。
「あ…なんやろコレ?じーさんの字やないしなあ…」
古びた手紙だった。
中を開けてみようとしたが何だか茶色い。
あのまま、じーさんは中を見ずに亡くなったのかなあ…。


「おじいちゃんへ。
こんなこと書いても信じられないかもしれないけれど、未来の孫、まーくんです。
まーくんは小さい時におじいちゃんとあまり思い出がなかったので、こうして会いにきました。
でも多くは語りません、いや語れません。
でも、未来のまーくんは子どもたちと仲良くして…ぜいたくな話ですが
自分の孫の顔もみたいし、ならその前におじいちゃんと会いたいと思ったので、昔の自分も𠮟咤激励するつもりでこの文章を書いてます。
最後に、タイムマシン頑張って作れよな!」
最後、語っちゃってるじゃん…。
って言うか、クサイのはセリフだけでいいよ、もう。



完。


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