ちいちゃんのかげおくりを感じる④
では、悲しみを土台にして生まれた「読者に悲しい話だと思わせるのはどうしてだろう。」という問いをもち、改めて作品を読んでみるとどんなことが、読み取れるのでしょうか。
ちいちゃんのかげおくりを感じる①②で触れましたが、やはり「対比」の効果が大きいのではないでしょうか。というより、戦争というテーマ自体が平和との「対比」に既になっているのです。
あまんきみこさんはこの「対比」を巧みに活用して作品を描いています。例えば、
・大人の加害者と幼く可愛い子の被害者という構図
・家族全員との別れとたくさんの人の中で眠ること
・家がなくなることと、それでも家に帰ること
・帰らぬ人の帰りを待つこと
・与えられることしかなかった食事を自分で行うこと。それもごく僅かな量で。
・家族みんなでしたかげおくりを一人ですること
・命が絶えるときに、ふわっと軽くなりちいちゃんが少し楽しくなっていること
・そして、みんなと会えたとき、死んでしまったこと。
最後には、同時に起こる出来事で対比を活用し、最後のみは作者の思いがあふれ、少しでも寂しさや苦しみから開放してあげたいという祈りを込めていることが分かります。
戦争を描くために、家族の温かみと幼い命の愛おしさを最大限に表現したことで、見事なまでの「対比」が用いられていることが分かります。戦争を描くためだけであれば、様々な描き方が考えられます。
そこで敢えてこのように「対比」を用いて、いや必然的に用いて描いたあまんきみこさん。きっと、幼くして消えていった幼子たちが、あまんきみこさんの書く作品を通して、戦争がこの世で最も恐ろしいことだということを人々に強く強く訴えているのだと思います。