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君が思い出になる前に

若い頃の自分に
行く先を教えてあげられるほど
僕はまだ、大人になれていない。

フレッド・ダーストが50歳になっているなんてこと
20年前は想像していなかっただろう。

認めた手紙に、何を書いたのかは忘れた。
もしも、あの手紙のどれかが残っていたとしたら、
幼くて狡い僕は、同じことを書いていたはずだ。

抉れた胸の内を見せつけるように、ただ同情を求めていた。
それは今も同じ。

チューブトップなんて流石にもう着ていないだろ?
40前のおばさんが着るもんじゃない。
そんな年の取り方だけは勘弁してくれ。

「忘れないでね。二人重ねた日々はこの世に生きた意味を超えていたことを」

大袈裟だったんだよ。
そういう意味は掃き捨てる程あって、そんなモノは、未来を生きるには邪魔だって言っておく。

旅に出て3分で帰ってきた思い出ばかり。

99年の夏。00年の夏。それからも何回も夏を繰り返して、その度に、僕は老けてきた。

花火大会の場所を間違えて、見当違いの場所に2時間かけていったことも、夜の海を見に行った事も、ただ浜辺に座っていたことも、お化け屋敷で逃げ出したことも、部屋でオースティンパワーズを見た事も、初めて君に触れた瞬間も、

そんな事のどれもが、何の意味もなかった。

過去の意味なんて見出していたらキリがない。
意味なんてないんだ。
そうやって生きていくしかない。
大切な事も、どうでもいい事も、全部意味がないんだ。

ライブ映像に時間のずれがあるように、今だけど、今じゃないことのほうが圧倒的に多い。というか、すべての事は過去なのだと思う。

光の速さを超えても、今の僕の声はどこかにいる君には聞こえない。

時間が経って、僕は君の事を忘れていた。
些細な事があって、それこそフレッド・ダーストの名前を見て、なぜか君の事を思い出した。

結局そんなもの。

やっぱり意味なんてないだろ?

昔に戻るなんてごめんだ。
そんな事を言っても、後悔の方が多いのは認めよう。

もしもの話なんて、君は嫌いだろ?
もしも、君と僕が……なんて気持ち悪いだろ?

どうでもいいけれど、
なぜか、フルボリュームでスピッツの歌が頭の中で流れている。

「虹のように今日は逃げないで」

逃げたのはどっちだ?僕か?君か?

どっちでもいい。
20年会わなかったら、永遠に会わないだろうね。

男の事詳しいか?

こんなに長い時間が経っても、まだ思い出すんだ。それが、男って事にしといて欲しい。

とか言って、僕は男を語れるほどの人生歩んでいない。
君はどうだろうか?

夢は叶ったのか?
思い出したから、口を開けて空を見上げた。

飛行機は見えなかったけれど、その中で働いているのかな?って思った。

「水の色も、風のにおいも変わったね」

さぁ。忘れよう。
僕は僕の家庭を築いて、子供がいる。笑えるだろ?この僕がそんな奇跡に恵まれているんだ。

けれども、親父がセンチメンタルなのは、飯のタネにもならない。君との話なんて意味がないのだよ。

「優しいふりだっていいから、子供の目で僕を困らせて」

そんなモノだよ。それぐらいのモノだと、まだまだ背伸びして強がっているんだ。

やっぱり、手紙は捨てたよね?
そうであってほしいけれど、もし残っていたら、返して欲しい気もする。

あの頃の夢でなくても、そうであっても、どうか、意味のある未来を信じている君でありますように。

せめて、そう願いたい。

せめて、君の未来はいつでも意味があると思いたい。

そして、再び僕は忘れていくよ。

「イケてる青春」なんて、ダサいフレーズが似合う僕の記憶に、君が居てくれてよかった。

補正がかかっていても、そうでなくても、確かめられない過去だから、
愛している。

日常に紛れて、思い出す回数が減っているから、
意味のない過去を愛している。

それが老いという事でもいい。

届かない声は、ナルシストの塊だ。
それでも、君の幸せを祈るよ。

どうか、元気でいてください。

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