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●美術館の名作椅子#11●サントリー美術館
サントリー美術館
設計:隈 研吾
開館:2007年(東京ミッドタウン内)
・PK80
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デザイナー:ポール・ケアホルム
発表:1957年
メーカー:FRITZ HANSEN
価格:¥2,923,800(2024年現在)
東京国立博物館本館や東京都現代美術館、国立新美術館など、その他多くの美術館・博物館で採用されている名作中の名作。
ここサントリー美術館にも展示室内外に複数置かれている。
低い座面と固い座り心地が特徴。
輸入家具はどのメーカーも毎年ガンガン値上げしており、2年前に250万円だったこのベンチも(それでもなかなかだが)、公式HPによるといつの間にやら最廉価のレザーでもなんと約300万円!
この写真だけでも2脚600万円!!
恐ろしい。
しかしさらっと置いてあるベンチが1脚300万円なんて知ってて座ってる人は何人いるかね。
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・Foster 501 Armchair
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デザイナー:ノーマン・フォスター
発表:1999年
メーカー:WALTER KNOLL
価格:¥937,200(2024年現在)
ベルリンの国会議事堂再設計に合わせてデザインされた椅子。
ドイツの国会議事堂をイギリス人が設計するという世界観がなかなか21世紀な感じだが、その設計者であるノーマン・フォスター氏はプリツカー賞受賞者であり、アップル新社屋Apple Parkの設計もしたすごいお方だ。
本国イギリスでは男爵の称号も与えれられている。
このシリーズには背もたれクッション付きのFoster500もあるが、こちらのFoster501は500と比べてクッションの厚みが無い分ややスリムでコンパクトになっている。
座面とそれを支えている金属の脚部の間に1cmくらいの隙間があり、いかにも建築家がデザインした椅子といった雰囲気。
座面下部の内部にはコイルスプリングが仕込まれており、金属の脚部(無垢のステンレス)と相まってめちゃくちゃ重い。
座り心地はやや硬めでそれほど沈み込まないが私はそれが心地よく感じる。
堅牢で重厚な作りと相まっていかにもドイツ製のソファといった感じ。
ドイツ車のシートの硬めな座り心地にも似ており、その辺の感覚はお国柄なのだろうか。
ちなみに東京国立博物館本館にはFoster510 Benchが置かれている。
・LILY Chair
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デザイナー:アルネ・ヤコブセン
発表:1970年
メーカー:FRITZ HANSEN
レザー仕様:¥371,800(2024年現在)
パッと見、セブンチェアかと思いきやちょっと細身のリリーチェア。
元々はデンマーク国立銀行のためにデザインされた。
公共の施設で用いるには合成皮革の方がメンテナンス性が高く使い勝手が良いので質感は本革に劣るが合成皮革が用いられていることが多い。
だが、ここサントリー美術館はこだわりの本革仕様。
より良いものを提供するという企業スタンスの現れだろうか。
そういうこだわりは大好きだ。
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・CH88T Chair
・VICO DUO Chair
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・CH88T Chair
デザイナー:ハンス J. ウェグナー
発表:1955年
メーカー:Carl Hansen&Søn
価格:¥119,900(2024年現在)
元々は1955年にスウェーデンで開催されたヘルシンボリ国際博覧会に出展するためにデザインされたが製品化されることはなかったが、2014年にウェグナー生誕100年を記念して復刻生産を開始した。
座面が浅く省スペースで置けるこの椅子は、色や佇まいとも相まってこの場所にとてもよく合う。
シンプルな形と機能は日本の食卓などにも合うと思う。
この美術館はフリッツハンセン物が多い中、なぜかこれだけCarl Hansen&Søn。
デンマークつながりではあるのだが…。
・VICO DUO Chair
デザイナー:ヴィコ・マジストレッティ
発表:1999年
メーカー:FRITZ HANSEN
参考価格:¥66,880(2024年現在)
現行品はオーク材だが置かれているものは旧型で、素材もオーク材ではなくビーチ材か。
肘掛けの形も現行品とは違い簡素だ。
元々のデザインはパイプだけだったのだろう。
肘掛けクッションがあった方が使い勝手は良いのだろうがやはりデザインのシャープさが劣るように思う。
どこを落とし所にするか、メーカーも悩ましいところだ。
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・まとめ
サントリー美術館は隈研吾設計だけあって細部にまで隈感が溢れているが、置かれている椅子もそれに引けを取らない名作椅子が選定されている。
美しい空間の中で不必要な主張をせずに場に馴染み、しかし存在感は損なわない椅子たち。
壁や照明が椅子を引き立て、椅子もまた室内空間を引き立てる。
建物と椅子とが互いに尊重し合うような関係性が心地よい。
名作椅子の正しい用い方のお手本のような美術館だ。
素晴らしい。
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