Next Lounge~私の鼓動は、貴方だけの為に打っている~第14話 「決別」
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
主題歌:イメージソング『Perfect』by P!NK
https://www.youtube.com/watch?v=vj2Xwnnk6-A
『主な登場人物』
原澤 徹:グリフグループ会長。
北条 舞:ロンドン・ユナイテッド FC 総務部 エージェント課 チーフ テクニカルディレクター。
橋爪 奈々:ロンドン・ユナイテッド FC 総務部 契約課 チーフ。舞の同期であり親友。
イ・ユリ:ロンドン・ユナイテッド FC 総務部 エージェント課 課長。
エーリッヒ・ラルフマン:サッカーワールドカップ2014優勝ドイツチーム元コーチ。現ロンドン・ユナイテッドFC監督。
エリック・ランドルス:ロンドン・ユナイテッド FC 秘書部 秘書室長。
ゲイリー・チャップマン:ロンドン・ユナイテッド FC 広報部 広報部長。
ジェイク・スミス:ロンドン・ユナイテッド FC 総務部 エージェント課 事務。
ジェラルド・レジ:ロンドン・ユナイテッド FC 人事部 人事部長。ジェラルド・レジ人事部長
ジョン・F・ダニエル:ロンドン・ユナイテッド FC 総務部 エージェント課 エージェント。
トニー・ロイド:ロンドン・ユナイテッド FC 総務部 契約課 元課長。
トミー・リスリー:ロンドン・ユナイテッド FC 総務部 総務部長。
マービン・ドレイク:ロンドン・ユナイテッドFC専務取締役。
バーノン・ランスロット:ロンドン・ユナイテッド FC 総務部 エージェント課 エージェント。
ホルヘ・エステバン:ロンドン・ユナイテッド FC 総務部 エージェント課 エージェント。
ライアン・ストルツ:ロンドン・ユナイテッド FC 広報部 広報課 チーフ。舞の同期であり頼れる親友。
リサ・ヘイワーズ:ロンドン・ユナイテッド FC 総務部 エージェント課 事務。
アイアン・エルゲラ:ロンドン最大のギャング組織集団『グングニル』の元リーダー。ロンドン・ユナイテッドFC選手。GK登録。
イド・ドリーセン:ロンドン・ユナイテッドFC選手。 LWG登録。
ヴェリコ・ミハイロフ:ロンドン・ユナイテッドFC選手。CF登録。
エディ・キャニング:ロンドン・ユナイテッドFC選手。CMF登録。
クロード・レスリー:ヒーム・スヒペル選手代理人。
ジョシュア・ケネス:ナイル・フロイト、マラカイ・パリスター選手代理人。
ナイト・フロイト:ロンドン・ユナイテッドFC選手。現キャプテン。OMF登録。
ヒーム・スヒペル:ロンドン・ユナイテッドFC選手。RMF登録。
フランシスコ・ケネディ:イド・ドリーセン、ヴェリコ・ミハイロフ選手代理人。
ニック・マクダウェル(通称ニッキー):ロンドン・ユナイテッドFC選手。DMF登録。 レオナルド・エルバ(通称レオ):ロンドン・ユナイテッドFC選手。OMF登録。
☆ジャケット:ロンドン市街にて、イ・ユリ
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第14話「決別」
「あれ?ヒーム、お前も呼ばれたのか?」
ロンドン・ユナイテッドFC選手 エディ・キャニング(CMF登録)は、ここ、グリフグループ本社ビルにある、ロンドン・ユナイテッドFC専用の会議室に来ていた。
「えっ?エディもか?それに、代理人まで・・どういうことだ?」
ロンドン・ユナイテッドFC選手 ヒーム・スヒペル(RMF登録)も代理人、クロード・レスリーと共に本日、ここに呼ばれていた。
「明日、後半戦の初戦だろ?そのタイミングで呼ぶ意味が分からねぇーよ!」
「ああ、一体どういうことなのか・・。うちの代理人は、用事があるとか言ってケツ捲りやがったぜ。」
2人が世間話をしていると、会議室の扉が開きヴェリコ・ミハイロフ(CF登録)が代理人、フランシスコ・ケネディとイド・ドリーセン(LWG)を伴い入って来た。
「おい、お前達も呼ばれたのか?」
「あ、お疲れーす。そうなんすよ!ヴェリコもかい?」
ヒームは、手近にあるテーブルに座りジャケットのポケットに手を突っ込んで応えた。
「妙だな?代理人と共に呼ばれるなんざ・・フランシスコ、何かあるんじゃねぇーか?」
「何かって・・何です?」
ヴェリコの後から入ってきたイドが、心配そうに声を掛けて来た。
「さあな・・だがよぉ、少なくとも代理人を伴っての呼び出しは契約関連だな。」
「契約?まさか、活躍が認められて臨時ボーナスとか??」
「そりゃ、ねーわな(笑)。」
ヒームがおちゃらけた言い方をしたのに対して、ヴェリコが嗜めた。と、再び入り口の扉が開き、代理人のジョシュア・ケネスがキャプテンのナイト・フロイト(OMF登録)、マラカイ・パリスター(RWG登録)を伴い入って来た。
「皆さん、お疲れ様です。」
「ケネスさん、貴方達も呼ばれてたのですか?」
代理人のケネディは、入って来た同じ代理人ケネスに詰め寄った。
「私達もそう思ったのですが?」
「どういうことです?」
「ウチのキャプテン ナイトは、チームに不可欠な活躍をしてますからね、今回契約延長もあり期待していたんですよ。」
ケネスは嫌味な程に口元を歪ませ言い放った。
「それを言うなら、チーム得点数2位に居る、ウチのヴェリコもそうですよ!これは、期待出来るかもしれませんね。」
「グリフグループは、急成長を遂げてますからね。しかも、安定している。期待して良いのでは?」
「なるほど!」
2人は、顔を見合わせて笑いあった。と、ヴェリコの下にナイトが近寄って来た。
「ヴェリコ、アンタはどう思う?」
「新スタジアム完成、新監督就任、グリフグループの躍進等、原澤会長になってから目覚ましい変化があった。その中で、ロンドン ユナイテッドFCのエージェント課に動きがあるという情報を得てはいるんだがな。」
「情報?どういう事だ?」
その頃、会議室に向かう通路では、マービン・ドレイク専務取締役、ジェラルド・レジ人事部 部長、トミー・リスリー総務部 部長が歩いていた。
「ドレイク専務、先程、うちのパオロから連絡がありましてね、ロイド課長が遂にやらかしたそうですよ。」
「やらかした?何を?」
「橋爪チーフ宅に侵入し暴行したところを確保したそうです。」
「何!?」
ドレイク専務は、大声を上げてレジ部長を振り返り見た。
「どういうことです!?何故、ロイド課長が橋爪チーフを?」
耳を疑う事態にトミー部長が2人に詰め寄ったのだが、冷めた視線でドレイク専務を見ているレジ部長を見て、言葉を詰まらせた。
「アイツめ、何てことをしてくれたんだ!」
ドレイク専務は、レジ部長から視線を外し通路を進み始める。
「原澤会長は御怒りだそうですよ、ドレイク専務。」
「それは、当然だろ!」
レジ部長が再びドレイク専務の前に近付いた。
「人の尊厳を無視した行いには、必ず報いがある。貴方は、大丈夫ですよね?」
「さっきから、君は何を言っとるんだね?」
「ナイト達の問題は、モイード監督就任に起因してるんですよ。ユリ課長退職に対して、貴方はどうするおつもりですか?」
「何!?」
睨み合う2人に入るタイミングをいつくしたトミー部長が困惑しているときだった。
"ガチャ!"
非常階段の扉が開いた音に視線を移した3人が、思わず目を見開いた。
「か、会長!?何故・・。」
レジ部長が驚いて声を漏らしたのを聴いていないのか、原澤会長はドレイク専務の前に直接来た。
「ドレイク、橋爪チーフはゲイリーが何とか助けたぞ。」
「はい。先程、レジ部長から・・。」
「・・解っているだろうな?」
「あ・・はい。」
原澤会長が鋭い睨みを利かせ、ドレイク専務を見た後、レジ部長の前に来た。 「レジ、アイアンの件は、すまなかったね。ありがとう。」 「いえ、お役に立てて良かったです。しかし会長、彼等の様な犯罪歴がある者達を雇うことは、くれぐれも御慎重にお願いしますよ。」 「その為の君だろう、今後も頼むよ。」 レジ部長は、唇をへの字にすると両手を広げて嘆息した。原澤会長は、トミー部長の肩を"ポン!"と叩き、非常階段の扉へと向かった、
「会長、これからニッキー達と日本では?」
「ん?ああ、今から向かうよ。」
「あの・・先程の為だけにお立ち寄りに?」
驚く2人に振り返り答えた原澤会長だったが、最後にドレイク専務を睨むと、扉を開けて出て行った。
たった1分程度の出来事だっただろうか、しかし、そのインパクトたるや絶大であったと言えるだろう。ドレイク専務はスーツを整え深呼吸すると2人に言い放った。
「行こうか!」
「はい。」
やがて、会議室に辿り着くとドレイク専務が扉を開いた。
「お待たせしました。皆さん、集まっていますかね?」
一通り顔を見ながら、会議室の真ん前に並べてある椅子にドレイク専務を中央、左右にレジ部長、トミー部長の形で着席した。
「あ、あのう・・自分の代理人から所用で来れないと伝言を受けてますが・・。」
「通知には『欠席の場合、了承と判断する』と申し伝えたので、了承と解釈します。結構です。」
ドレイク専務が必要書類を並べながらエディを一瞥して言い放った。日頃見せるドレイク専務の温和なイメージからのギャップに選手達は顔を見合わせながら着席した。
「では、始めたいと思います。」
トミー部長が、着座を確認して口を開いた。
「本日、お越し頂きました件についてご説明致します。日頃より、当チーム、ロンドン・ユナイテッドFCの選手として皆様には、お世話になっておりましたが、重大な契約違反等を確認しましたので、本日を持ちまして皆様とは、契約解除をさせて頂きますことをご報告致します。」
「なっ!?何の冗談ですか!!」
「契約解除!?契約違反って・・?」
ナイトは、座ったままポケットに手を突っ込み聴いている。イド、マラカイの2人は、代理人を見たり、周りの仲間、ナイトに忙しく視線を送り激しく動揺している。ヴェリコ、エディ、ヒームの3人は、勢いよく立ち上がり、役員達に詰め寄ろうとした。
「今から、詳細を申し伝えます、レジ部長。」
トミー部長の一言を受け、レジ部長はレジメを各代理人、選手達の前のテーブルに置いた。皆が奪う様にして書類に目を通しているのに対し、ナイトだけがジャージに顎を引っ込みめて書類を見ている。
「イド・ドリーセン選手について、自宅では多くの家具が破壊されるなどしており、27歳の交際中の女性が殴打されていたとの聴取記録を入手した。訴状は女性から提出されていないものの、イド選手はその際、酒に酔っていたことで暴行に及んだと考えられている。よって、我々はこの度行われた公聴会において、裁判所から1万ユーロ(およそ130万円)の罰金が言い渡されたことを受けて契約違反があったと見做して解雇するものである。」
「なっ!?イド!どういうことだ!!」
「いや!違う、彼女が悪いんだ!浮気しやがって!だから、ヤツからの訴えは棄却されたろ!な、そうだろ!」
「裁判所から判決が出ている、民事裁判として立派に懲戒処分になる。本件を持ってイド・ドリーセン選手の契約解除、並びに損害賠償請求を行うものである。」
イドは、立ち上がりテーブルに手を付き口をパクパクと開いたままであった。
「イド!私は聴いてないぞ!どう責任をとるつもりだ!!」
代理人のケネディが、イドの横に来て話し掛けるが、彼は顔面蒼白のまま動けないでいる。
「次が、マラカイ・パリスター選手について。」
「お、俺!?」
レジ部長がレジメを読み挙げる。
「ロンドン市内の靴販売店から、スニーカーを盗み転売し窃盗の容疑で事情聴取されたとの情報を入手している。」
「なっ!何だって!?聴いてないぞ、マラカイ!」
代理人のケネスが、顔を真っ赤にしてマラカイに詰め寄る。
「お、俺じゃないんだ!あ、あれは・・そう!弟が、弟がやったんだ!!」
「君が転売した記録を入手している、諦めろ。」
「そ、そんなぁーー!?終わりだぁ〜〜!」
マラカイは、頭を抱えてテーブルに突っ伏した。
「この、馬鹿やろうが!?何故、俺に言わなかったんだよ!!」
ケネスの激昂は治らず、マラカイの服を握って引っ張った。
「次、エディ・キャニング、ヒーム・スヒペル。」
「お、俺達・・2人ですか!?」
「な、何もしてない・・何も・・。」
レジ部長は、一度も彼等を見ないままレジメを読み始めた。
「ロンドン市内にて飲酒後、同乗者が飲酒運転により逮捕。その際、ヒーム・スヒペルは、警察官に唾を吐き掛ける等の公務執行妨害を行い、エディ・キャニングは、車内でも運転手に酒を勧め飲ませていたとの記録を確認した。」
「ど、どうして、それを?俺は覚えが無いと言ったことまで・・。」
「い、いや!あれは、お巡りが悪いんだ!俺等を犯罪者扱いしやがってよぉ!」
「ば、馬鹿か、お前等!飲酒運転をしていなくても、飲酒運転を助長したと評価できるような場合には、処罰の対象とされるに決まってるだろ!!」
「し、知らねーし、そんなの!なぁ?」
「ああ、知らねー!」
「馬鹿だ、全く・・信じられん。」
トミー部長が腕を組んで落ち込む選手達、代理人を見ていたが、1人無反応であるナイルに目を止めたままでいた。
「次は、ナイト・フロイト・・君だ。いや、ヴェリコ、ヒーム、エディ、君等もだな。」
「俺等?4人全員!?」
「今度は、何だってんだよ・・。」
ヴェリコも、遂に自分が呼ばれた事に席を立ち上り声を詰まらせ、エディが頭を抱えてテーブルに突っ伏した。
「先ず、ナイト、君は退場処分を受けた際に主審、モイード監督に対して暴言を吐いた。規律を乱したとして契約を解除する。ヴェリコ、君は試合中チームメイトのレオナルド・エルバ選手がパスを出さなかった事に腹を立てて蹴りを入れたね。その他監督との対立や暴力事件を起こしている。よって契約を解除する。ヒーム、エディ、君達も2人に加担してモイード監督の指示に従わず試合中に無礼な態度を取る等、規律違反と認める。」
もう、ナイト以外の選手、代理人達は突き付けられたレジメを見て諦めるしかなかった。完璧に舐めていた・・まさかここまでやってくるとは、思っても見なかったのだ。
「それと、ナイト、キャプテンである君に対する問題がまだある。」
ドレイク専務がレジメを見てからナイトを一瞥し言い放つと、背もたれに寄り掛かった。ナイトは、ぼんやりと前を見たままであった。
「君は12月17日、自身のインスタグラムにて、ゲイには『地獄が待っている』という様な過激な投稿をしましたね?以前にも『酔っ払い、同性愛者、姦通(かんつう)者、うそつき、姦淫(かんいん)した者、盗っ人、無神論者、偶像崇拝者――君らには地獄が待っている』と投稿し、彼等は『悔い改める』べきで『神だけが救ってくれる』と主張しているね。情状酌量の余地がないことから、我々は君との契約を終了させる意向だ。」
「ナイト、だからあれほど止めてくれ!とそう言っただろう。何でなんだ・・?」
代理人のケネスが目頭を押さえて項垂れたが、ナイトは無表情で前だけを見ていた。
「それに、もう一つあったね。」
「えっ!?まだ・・ですか?」
今度は、レジ部長の発言に代理人のケネスは、頭を抱えるしかなかった。
「君が今シーズン、ゴールを挙げた際に反ユダヤ主義と見られるジェスチャーをして議論を呼んだね?その後、イングランドサッカー協会(FA)は5試合の出場停止処分を言い渡してきた。君自身は差別的な意図はなかったと説明したが、ユダヤ系ビジネスマンが共同オーナーを務める会社がスポンサーから撤退する事態となった。これは、もう会社に損害を与えた『重大な過失』以外の何物でもないだろう。」
この事は、此処に居るメンバー誰もが知っていることだった。
「だからあれは、マズいって言ったんだよ・・。」
「シッ!」
ヒームが呟いたことをエディが嗜めた。
「終わりかよ。」
「何?」
「終わりか?そう言ったんだよ、聴こえねーのか?このハゲ!」
「お、おい、ナイト、お前何てことを!?」
ドレイク専務に対して侮辱したナイトを見て、最早、ケネスは後悔しかなかった。何故、コイツの代理人になったのか・・才能を見抜いて彼ならば出世する、そう思ったのだ。なのに・・とんだ問題選手であった。恐らく、ケネスの代理人としての価値にも傷が付いただろう。そう考えると自分こそが被害者である!そういう気がして、訴えたい気持ちになってしまった。
「ドレイク専務、私が代理人となった選手達がご迷惑をお掛けしまして、大変申し訳ございませんでした。選手達は、皆、自分の行いを反省していることでしょう。自分が行ったことの責任は、自分で解決する、これは仕方ないことですから。」
ケネスは、身振り手振りで『責任は選手である!』ことを必死にアピールした。
「そうだね、自分が行ったことは、自分で償わないといかんよね?」
「そ、そうですとも!本当、その通りですよ!いゃ〜、我々、代理人達も困ってたんですよ、ねぇ?」
「あ、はい!本当、その通りでして・・。」
ケネスがここぞ!とばかりに担当している選手達の愚痴を零し、ケネディに賛同を促した。と、レジ部長が配っていないレジメを手に取ると読み始めた。
「それでは、最後に代理人4名、並びにヴェリコ、貴方達について、契約金額不正受給、並びに当社女性社員に対する準強姦容疑で刑事告発することを検討中であることを報告いたします。」
「はっ?な、何です・・えっ!?ま、まさか、えっ!!そんな・・。」
「お、おい、どうなってるんだ?まさか、バレた・・いや、あ、いや、そんな・・。」
ケネスとケネディが顔面蒼白で、オロオロし始めた。
「あの野郎!ドジりやがったな・・。」
ヴェリコが眉間に皺を寄せて呟いた。
「強姦?どういうことだ?ケネス。」
ナイトの小さいが心奥底によく響くような声が響いた。彼の考えでは、此処に居るコイツ等全てがクズだと言えるからだ。彼は、ゆっくりと立ち上がると、着ていたロンドン・ユナイテッドFCのジャージジャンパーを脱ぎ、床に叩き付けると会議室の扉へと向かった。
「ナイト・フロイト!貴様、何処へ行く?」
ドレイク専務が立ち上がり大声で出て行こうとしているナイルを呼び止めた。
「フン、覚えてるがいい!俺が生きている間は、このチームの障壁になってやるからよ、忘れんな!!」
ナイトは、怒気により顔を赤らめこめかみに血管を浮き立たせ激昂すると、そのまま出て行き二度とチームに戻ることはなかった。そして、会議終了後、代理人4名(内1名欠席)、選手1名をロイド契約課課長による橋爪チーフ準強姦並びに脅迫、暴行事件に起因した関係者としてそれぞれ個人面接による供述調書が作成された。彼等からの供述により、橋爪チーフがロイド課長に脅迫され、まるでブルーフィルムのポルノ女優の様に扱われていたかが明らかになった。ロイド課長は、橋爪チーフを脅迫し、代理人、選手達に彼女を提供することで、契約金額を下げさせ自らの手柄にしていたことが判明したのだ。レジ部長は、それ等を冷静に纏め念書により彼等が持っている画像、動画を全て回収した。そして後日、全て回収したそれ等の証拠品を原澤会長、ランドルス秘書室長、チャップマン部長に提出したが、原澤会長は全く見ずに全てチャップマン部長に供述調書共々託すことになる。
「徹さん・・何故、自分が・・?」
「ゲイリー、お前はロイドに犯され、殴られ縛られていた彼女を助けたのだろう?彼女が見られたくなかった恥部だ。恐らく、今後もお前を見るとフラッシュバックもあるやもしれん。だがな、助けてくれたことを絶対に覚えているはずだ。そして、其れこそが自分が生きる一縷の綱になり得るだろう。だから、彼女には生きること、生きていることの意味をしっかりと伝えて欲しい。北条チーフ、シャロンと共にな。」
原澤会長は、頭を下げて黙っているチャップマン部長を励まし続けた。
「残念だが、此処にあるのは全て重要書類だ。破棄する訳にはいかない、だからこそだ、ゲイリー。」
彼は大きく息を吸い、そして、ゆっくりと吐き出した。
「お前の為でもある。」
原澤会長のこの一言に、チャップマン部長、ランドルス秘書室長が見つめた。
「徹さん・・。」
「彼女なら、お前の悪夢をそれだけにしないだろう。きっと理解してくれる!そういうものに変えてくれると俺は思う。彼女を助ける事で、ゲイリー、お前も助けて貰えることをよく彼女に伝えてくれ、いいな?」
チャップマン部長は、目頭を抑え、肩を震わせて泣き始めた。原澤会長は立ち上がると彼の肩を優しく叩き窓辺へと近付いた。
「エリック・・。」
「はい?」
ソファに座っていたランドルス秘書室長が立ち上がり原澤会長の右横に来た。
「時期尚早だな。」
「は?尚早・・ですか?」
「そろそろ、社長を受けてくれ、いいな?」
「いや、私はその様な器では・・。」
「得てして自分の器など、小さく見てしまうものだ。君はラドワード前会長から託された宝、そう思っている。」
「そ、そんな・・恐縮です。」
「ゲイリー。」
「はい。」
チャップマン部長も、ハンカチで涙を拭ってソファから立ち上がった。
「お前が秘書室長になれ。もう、演じる必要は何もないだろう、素のお前で行けばいい。」
「いや、それが分かる人には分かるようでして・・。」
チャップマン部長が頭を掻いて誤魔化した。
「何、どういうことだ?」
原澤会長が振り返って問い掛ける。
「エージェント課に北条チーフと打ち合わせに行ったのですが、事務の女性ですか?リサさんに思いっきり言われましたよ(笑)。」
「ほう!何て?」
「『似合わないですから、無理しなくて良いのでは?』と、そう言われました(泣)。」
すると、原澤会長は"ニヤリ!"と笑い言い放った。
「北条チーフが期待している逸材だからな、将来が楽しみだ。」
「しかし、あの態度は、大丈夫ですかね?」
「所変わればと言うだろう、そういうものかもしれん。」
「なるほど・・。」
ランドルス秘書室長も、舞の関係でリサのことをよく知っている訳だが、あの斜に構えた彼女の姿勢には心配するものがあった。だが、原澤会長の一言には彼も大いに賛同するものがあった。
一方で、当の被害者である奈々は、その後、シャロンと舞立ち会いの元、産婦人科へ診察に訪れた結果、妊娠・性病等の心配は無かったものの月経不順になっていたため通院を要した。だが、1番の問題は、心的外傷性ストレス障害でこの治療の為に彼女はマンションにある殆どのものを処分し、次の住まいが決まるまで当分の間、舞の所に居候することとなった。まさかとは思うが、やはり心配である自傷行為を監視する為にも、彼女は快諾したのだ。そして、舞にとってもう一つの悩みがあった。その悩みとは・・?
「もしもし・・」
「舞か?俺、ライアンだけど!」
事件から数日後、仕事中の舞にライアンから連絡があった。
「うん、如何かしたの?」
「奈々が、体調不良で長期休暇と聞いたんだが、お前、何か知らないか?」
"キタ!"思った通りだったが、いざとなると困ったものだ、どう答えて良いのやら・・。
「ちょっと・・色々あってね。」
「色々って、何だよ?お前、知ってるんだろ?契約課じゃロイド課長が懲戒処分で解雇されて、奈々が長期休暇、キャプテンのナイルを含む一部選手達も契約解除じゃないか、何かあったと思うのが普通だろ?」
ごもっともな考えだ。ライアンにとっても奈々は大切な友人なのだから・・。
「電話では話せないわ、会議室でいい?」
舞の呼び出しに応じて、ライアンが会議室に来た。
「一体、どういうことなんだよ!俺だけ仲間外れか?」
「ライアン、事が事なのよ。」
「何だよ"事"って?俺に言えない"事"ってなんだよ!?」
舞は、顔を伏せてため息をつくと掻い摘んで詳細を話し始めた。ライアンの顔色が蒼ざめたり、紅くなったりとまるで信号のように変わって行く。一通り聞いたライアンがテーブルに両手を突いて項垂れた。
「何てことだ・・俺は、アイツの苦しみを全くもって理解していなかった。」
「ライアン・・。」
舞も思わず目を潤ませた、こんな素敵な頼れる友人が居るだろうか?心の底から嬉しかった。
「アイツ『俺に幸せになって欲しいのよ。』て、1番なりたかったのはきっと、アイツ自身なんだよ、チクショウ!俺は大馬鹿だ!!」
すると、テーブルにライアンの涙が落ちた。舞は近付き彼の肩に触れた時、ライアンがいきなり舞を抱き締めた。
「えっ!?」
「すまない、舞・・少しこのままで。」
舞は軽く目を閉じて彼を抱き締めると、頭を何度も撫でてあげた。暫くして落ち着いた彼が舞から身体を離した。2人の視線が交錯する。
「舞・・確かに奈々のヤツ、男である俺に逢うのは怖いかもしれないよな。分かった!待っていると24時間何時でも呼ぶようにと伝えて欲しい。」
「うん!伝えとくね。ありがとう、ライアン。」
ライアンが出て行き、舞が自席へと戻って来た時だった、ユリ課長がエージェント課に現れたのは。奈々の一件後、月曜日に彼女は自席を片付けていたのだが、最終日である本日は人事課に最後の挨拶へ行っていたのだろう。舞、そしてリサを除いたメンバーは、皆、緊張した面持ちでユリ課長を観ていた。彼女は、自席に戻りコートとバッグを取った。
「ユリ課長。」
舞が、彼女のデスク前を訪れた。
「何?」
「お世話になりました。突然の事で、何も御礼が出来なくて残念です。」
舞は本心からそう伝えたのだが、ユリ課長は身体を起こして言った。
「私が居なくなって、貴女、清々してるでしょ?」
「そんな・・私はその様なことを少しも思っていません。」
「私は『やっとか!』と思ってますけど。」
「ちょ、ちょっと、リサ!?」
リサは、PC画面を見ながらユリ課長に聞こえる大きな声で呟いた。ユリ課長の切れ長の目が吊り上がった。
「貴女の毒舌を聞かなくて済むかと思うと、明日から清々するわ!」
「でしょうね。人間、本心を突かれると頭にきますから。オバさんの場合、病ですから仕方ないでしょう。」
ユリの顔が真っ赤になり、口をパクパクとさせている。舞はリサの前に来た。
「リサ、ダメよ!そこまでになさい。」
「はい。でも、まあ、少しは見直しましたよ。」
「えっ?」
リサが初めて褒めた、そう思ったのだが・・。
「モイードなんて使えない男を連れて来て、おめおめとエージェント課の課長が出来る程、厚顔無恥では無かったんですから、まあ、人並みですね。」
「お、おい!リサ!?」
ジェイクも慌ててリサを止めようとした。それに対し、ユリ課長は両手を握り締めて怒りを露わにしていたが、踵を返すとそのままエージェント課を出て行ってしまった。
「あっ!課長・・。」
舞がリサに"バカ!"と言うと走って追い掛けて行った。
「そうですよ〜♬私は"バカ"正直ですからね。」
リサが椅子の背もたれに寄り掛かり両手を頭の後ろに組んで嘯く(うそぶく)。
「それにしたって、あれは言い過ぎだろ?」
ジェイクが心配して話し掛けた。
「は?じゃあ、ジェイクは何、オバさんの無能を黙認する訳?」
「そういうことじゃなくて・・。」
「どういうことよ?あの人のせいでウチは損害を被ってるのよ!チーフがあれだけ拒否を提案したのに、突っ撥ねてモイードを監督に推したのはオバさんなんだからね!」
「確かにそうかもしれないが、リサ、チーフが言いたいのは"別の事"かもしれないぞ。」
「"別の事"?何ですか、それ?」
ジョンの一言で、ジェイクが首を傾げた。
「俺にも分からないが、本来なら1番の被害者であるはずのチーフが課長に訴えなかったんだ、何かあると思うけどな。」
「何もないでしょ、何も・・。」
リサは、PCの画面を見つめたまま、小さく呟いた。
一方、エレベーターホールに着いたユリが怒りに任せてエレベーターの↓ボタンを連打していると、そこへ舞が到着した。
「何よ!笑いに来たわけ、貴女!」
「いいえ、御見送りに来ました。」
「はっ!嫌味な人ね。」
ユリは、顔を歪めて言い放ったが、舞は後ろで背筋を伸ばして待機した。
「課長。色々とあったと思いますが、私は多くの事を学ばせて貰いました、感謝致します。」
そう言うと、ユリの背後で彼女は頭を深々と下げた。振り返ってそれを見たユリが口を開く。
「ホント、嫌な人・・ねぇ、舞さん?この後、時間取れるかしら?」
「えっ?あ、はい。大丈夫ですが・・?」
ユリはそう言うとエレベーターに乗り込み、舞もそれに続いた。二人は1階エントランスにあるコーヒーショップ"ホライズン"に来た。噴水の見えるテーブルを見つけてユリが座ったので舞も反対の席に腰を掛けた。
「失礼致します。」
2人の下にウェイトレスが来た。
「いらっしゃいませ、ご注文は如何なさいますか?」
「私は、アメリカーノを1つ。貴女は?」
「では、カフェラテを1つお願いします。」
「かしこまりました。」
ウェイトレスが恭しく頭を下げると軽やかなターンをしてカウンターへと消えて行った。
「舞さん、知ってた?このお店、接客対応等、会長の肝入りなのよ。」
「そうだったんですか?」
道理で何時も、日本人がしているかのような細かい気配りを感じていたが、そういうことだったのか。ビルの中にある店まで、顧客優先を貫く姿勢に頭が下がる想いだ。
「彼の方は細か過ぎるのよ。だから決まるものも決まらないんだわ。」
舞は黙って顔を伏せた。
(違う・・それは違うわ。原澤会長は、風評被害を非常に大切にされているから、信頼を築くことが如何に地道なことかも・・。)
ユリは、背もたれに寄り掛かり脚を組んで話し始めた。
「舞さん、橋爪チーフの件、大変だったわね。」
舞は、まさかの問い掛けに一瞬顔を上げ、そして、再び伏せた。
「いえ、私は何も・・。」
「貴女が知らない訳ないでしょう。私もおかしいと思っていたもの。」
「おかしい・・ですか?」
「そうよ、あの使えないロイドがよ、貴女達が代理人、選手達と交渉した金額を立て続けに下げたのよ?しかも、自分の手柄だと言ったんだから、おかしいにも程があるでしょう?」
舞もそれは気になっていた。でも、奈々のことだ、きっと上手くやったと思っていたのだが・・。
「決定的なのが彼女の切羽詰った態度ね、あの怯え方は尋常じゃなかったわ。」
「そんなに・・ですか?」
「そうよ〜、彼女に『そんなに決裁欲しければ、其処で土下座なさい!』そう言ったら平然とやったもの、額まで床に付けてね。」
舞は、ビックリしてユリの顔を見つめた。
「ユリ課長、何故、彼女にそんなことを・・。」
「貴女が怒るのも無理ないかしら。でもね、お陰で分かったの、彼女がそうまでして決裁を欲した理由がね。だってそうでしょ?ロイドからのキツい御仕置きが待っていたんだから。」
「な、何故・・それを!?」
「あら?やっぱりそうだったのね♬」
「あっ!?」
舞は、ユリの誘導にしてやられてしまった。思わず手を口に持って来て塞いだが、当然、遅過ぎた。其処へ丁度、ウェイトレスがコーヒーを持って来た。
「ありがとう。・・舞さん、貴女、相変わらず甘過ぎるわよ。」
舞は、流石に項垂れてしまった。
「顔に出るわ、お人好しだわ、直ぐ信じるわ、馬鹿も大概になさい!」
「すみません・・。」
そこで、ユリがため息をついた。
「でも、其処が貴女の魅力なのよね。」
「えっ?」
「貴女のその純粋さが、人を惹きつけて離さないのよ。何故なら、打算がないから。私なんて打算ばかりだわ、だから、見方によっては疑念を持たれてしまう。そうなると、信頼を構築するのは難しいものね。」
舞は、ユリの本音を聞いた気がしたが、一方である人物を思い描いていた。
「何よ、その顔?」
「いえ・・その、まるでリサのようだと、そう思ったので。」
"チッ!"かなり大きくユリの舌打ちが鳴った。舞は、顔を上げてユリを見つめた。
「似た者同士だから、そういう訳でしょうか?」
「何が!?」
「リサと課長が合わないのは?」
「さあね?でも、あの手の女子はキャリアウーマン系によく居るわね。自分が出来過ぎて、人を下に見るヤツ!孤立したと気付いた時には、もう遅いんじゃない。」
「その様にリサに言っておきます。」
"チッ!"再びユリから大きな舌打ちが聞こえた。
「やめなさい!あの子は少し痛い目を見ればいいんだから!」
「はい(笑)。」
やはり、ユリ自身リサには敵わないと理解しているみたいだ。しかし、リサが"キャリアウーマン?"これには、正直???の心境であったが。
「ところで舞さん、ロイドの"キツいお仕置き"って、何かしら?」
「さあ、私には・・。」
「あら?今更、隠す必要もないでしょう?教えなさいよ。」
「ロイド課長の懲戒処分、橋爪チーフの有給休暇、それだけで良いのでは?」
「そんなことで、納得出来ると思って?」
「ですが、それが全てですから・・。」
ユリが深く息を吐いた。暫くしてから舞を見つめていたが、彼女は「美味しい♬」と言ってコーヒーを飲んで"ニコニコ"しているだけだった。
「あれ程の女性を、どうやって奴隷の様に従わせていたのか、それを是非知りたいのよ!教えて頂戴。」
舞はコーヒーを全て飲み干すと、口を開いた。
「結果が全てです。それ以上、それ以外でもないですから。」
「ふ〜ん、結構、口が硬いのねぇ。さっきのが効いたのかしら?」
「さあ?」
舞は相変わらず"ニコニコ"していたのだが、そのまま話し始めた。
「課長、先程のご講義、深く身に染みました。以後、反省として心に留め置きます。」
舞は座ったまま背筋を伸ばして、頭を下げた。それを見たユリは、コーヒーを飲み干してコートとバッグ、レシートを持って立ち上がった。
「あ、課長、それは・・!?」
「いいわ、最後に奢らせて頂戴。あ、そうだわ!ここまで付いてきた貴女に御礼をしないとね。」
「お礼ですか?」
「何故、モイードを私が監督に就任させることが出来たのか?そして、貴女が彼を監督に据えるとするならどうするか、想像出来るかしら?」
「私には、とても・・。」
「何故?」
「モイードさんに、監督の質を感じませんでしたから。」
本心だった。モイード前監督就任に対して、反対を繰り返し唱えてきたのだから、もう、それ以上言うつもりはなかった。
「そうだったわね・・答えは、社長不在に伴い会長決裁を要するチームの決定権を完全スルーして決裁を得る方法があったことをあなたは知っている?」
「えっ?」
「会長が多忙な日を利用したのよ。競技場竣工に忙しく、グループ会社の対応に追われているタイミングを狙ったわ。」
「でも、会長が・・。」
と言いかけた舞が何かを思い出した。当時、ロンドン・ユナイテッドFC関連の最終決裁者は・・。
「気付いたみたいね。そう!ドレイク専務、彼を懐柔したのよ。」
舞が驚きに目を丸くしたが、ユリは決定的な一言を口にした。
「この身体を使ってね。」
唖然・・予想だにしなかった。まさか、その様なことが・・。愛する歳下の彼を監督に据えるために彼女が取った行動は、最終決裁者であるドレイク専務を懐柔するためベッドを共にした、そういうことだったのだ。そうか!だから、彼は暮れに行われた役員会議を欠席した?そういうことか。舞は出席した役員会議のキーパーソンが、実はドレイク専務であったことを理解した。となった時、原澤会長が彼に対する対応一つ一つを、そして、ケイト社長の不快感が思い出された。信頼した部下が、まさか色仕掛けでとんでもないど素人の監督を就任させ、そこからロイド課長のような怪物を産み出し、選手、代理人達を腐敗に塗れさせてしまったのだ。そうなると、ドレイク専務の責任は非常に重大だと感じた。
「あの男、ねちっこいのよ〜。舞さん、貴女もあの男には気を付けた方がいいわよ。」
舞は、会議室で会った彼の視線を思い出し身震いした。絡み付くような彼の粘質のある視線を思い出し、肌が泡立つ思いだ。
「じゃあね。」
ユリが颯爽と身を翻して自動扉へと向かう。
「ユリ課長、色々とお世話になりました。」
舞が深々と会釈をし、ユリはそれを一瞥すると"フフン♬"と笑みを浮かべ、ヒールを鳴らして出て行った。暫くして舞が振り返った先に、エントランスロビーの柱にリサが寄り掛かって観ているのを見つけた。
「なに、観てたの?」
「はい。」
「そう。」
2人は並んでエレベーターロビーへと向かう。
「如何でした?」
「色々と分かったわ。」
「へぇ〜。で、どの様な?」
「奈々がロイド課長のお仕置きを恐れて従っていたことは、伝えてしまったけどね。」
「そんなの、状況で分かりますよ。」
「確信が欲しかったみたいよ。」
「なるほど・・私は、オバさんこそが元凶だと思ってましたが・・、如何でした?」
舞は、思わずにやけてしまう。
「流石ね、その通りよ。会長が決裁出来ないタイミングを利用して、歳下の彼氏を昇らせようとしたのね。」
「と、なると・・ドレイク専務?ですか?」
「本当に鋭いわね!流石だわ。」
「オバさん、もしかして、色仕掛けですか?無理しちゃって♬」
「でも、リサ?愛する彼を監督にしてもらうために身を捧げた・・と言えば、凄い覚悟だと思わない?」
「うーん・・そうなると、チーフ、貴女は出来ますか?愛する彼の進退が掛かっていたとして?」
愛してもいない男性、しかも、嫌悪・・そう言ってもいい男性に抱かれる?そう考えてみた時、奈々が受けた屈辱の数々を想像して、舞は吐き気を催して一瞬、口を抑えた。
「大丈夫ですか?チーフ。」
「うん・・ちょっと、ね。・・大丈夫。」
奈々は、これから大丈夫だろうか?ドレイク専務は交替人事もない、何故なのだろう?エレベーターが降りてくる階数表示のグラフィックパネルが、まるで何かを暗示するカウントダウンに思えて、舞は背筋に一筋の汗が流れるのを感じた。
第15話に続く。
"この小説はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。"