正反対
僕は君が嫌いだ
「またそんな、人なんて信用できないって言って、みんな優しいじゃない」
「人なんて別に僕に何もしてくれない、むしろ嫌なことばっか言ってくる、僕はこの世の中なんて大嫌いだ」
僕がそういうと
君はため息をつくとどうしようもない子供を見るかのような視線で僕に微笑む。
嫌いだ。
正論ばかりの君が。僕の全てを否定されたような気がする。
何もできない、何も認められない、どこでも生きていけない。
そんな気持ちが君に否定されているようで。
僕はどうしようもない怒りに苛まれる。
ほっといてほしい。
そう、ほっといてほしいのに、拒めない。
それがまたムカつく。
君の笑顔を見ると止まってしまう。
つい足を止めると、君は僕に話しかける。
その甘やかな言葉で。
僕はこの世の中に期待してない。
黒い何かに覆われてる気がしてる。
自分も、何もかも・・・君以外は。
だからこそ君の言葉は聞いてしまうし、だけど聞けば聞くほど僕の存在を否定してしまう。
「あなただって、いいところあるのにね」
「嘘だ、いいところなんて何もない、適当な事いうなよ」
「あるよ、意見をちゃんと言えるし、しっかりやる事やるし、いつもこうやって話聞いてくれるし、優しいとこあるし・・・」
「そんなことない、僕には何もない、君の言葉、聴きたくない!」
僕は思わず声を荒げる。
ハッと君の顔を見ると、悲しそうな顔で僕を見つめていた。
「だ、だって、君は完璧じゃないか。何でもできるし、人に好かれてるし、いつも笑顔だし・・・だからそんな適当なこと言って僕のことも取り込もうとしてるんだろ?」
我ながら何でこんな酷い言葉がでてくるんだろう。
でも思ってしまった言葉は止まらなかった。
「私が言ってるのは本心だよ、いつかあなたに届くといいな、今日は先に帰るね、またお話しようね」
君は穏やかな顔で離れていく。
僕は呆然と立ち尽くす。まただ。
まるで僕が悪いみたいじゃないか。
僕だけが君に悪いことしたみたいじゃないか。
君は僕に正論を押し付けようとしてきたのに。
・・・分かってるよ。
僕が悪い。君は僕のこと本当に思って言ってくれてる。
僕だって君が言ったような僕ならどんなにいいかって思っているよ。
でも、信じられないんだ。
僕の信念の強さはけっこう強大だ。
捨ててしまえばいいって分かってる。
でも、なかなか簡単なことじゃない。
今までの価値観を捨てることは簡単じゃないんだ。
それでも・・・それでも僕は君と話していると、君の言ってくれた僕になれればって、君の見てる世界を僕が見ることが出来ればって思わずにいられない。
君は希望、僕にとっての光。
だけど、まだ闇が強すぎて、僕は君の言葉を素直に受け取れない。
だけど・・・でも、いつかは・・・
・・・・・
また怒らせちゃった
私はとぼとぼと落ち込みながら道を歩いていた。
頑なに世界を、否定し、人間を否定するあの人。
善意を信じない。
何も信じない。
自分も信じてないんだろうな。
私は・・・どうなんだろう?
信じては・・・くれてないよね?
私はため息をひとつつく。
でもね、私は彼と関われる事が幸せだ。
彼は私のこと完璧なんていうけどそれとは程遠いから。
私は笑顔でいなさい、人を肯定しなさい、優しくしなさいって言われて、何でも譲ってきた。
笑顔で、優しく、思いやり精神でこれまで生きてきた。
でも、どこかで不満だったんだ。
どうして?何で全て我慢して譲らないといけないの?
私の意志はどこにあるの?
泣きたい時も怒りたい時も笑顔って私ってロボットなの?
静かな怒りをいつも感じていた。
でもね、封印するしかなかったの。だって両親も友達も私という生き物は怒らない、穏やかな人間って決めつけていたから。
私はまるで外れられないレールの上をずっと永遠に歩いていくって思ってたの。
だから彼に出会えて嬉しかったよ。
本当だよ。
彼は人への不満を全て我慢しなかった。
行き過ぎな気もするけど、私はそんな風に自由に意見を言える彼が無性に羨ましかった。
本当は、そんな風になりたいって言いたい。
でも、習慣から、この世界は綺麗だよ、いいところだよって言ってしまう。
本当は、彼と私を、2つに割って混ぜてしまえば
ちょうどいいんじゃないかって思ってる。
彼の攻撃的、自由な視点と私の保守的、平和的な視点。
そうすれば、世の中の見え方は違うと思うんだ。
だからね、だから彼と一緒にいたいの。
ずっとずっといれば、きっと価値観も混ざりあって
お互いのいい所を取り入れられるって思うんだ。
なぜ彼なのか分からないけど、
私とは正反対すぎるからこんなに惹かれるんだって思う。
私は彼と明日も話したい。
その次もその次も。
その先に・・・二人にとっての素晴らしい世界の見え方が待っているって、そう信じているんだ。
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