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心理療法家における心的かまえと、ワインテイスティングの共通項

ワインエキスパート資格勉強がピークの頃、わたしははたと『心理療法とワインのテイスティングって、そっくりだな!』と思うに至り、衝撃を受けました。

あまりの衝撃に、「ねぇみんな聞いてよ!」と興奮気味に心理Twitterに書き込んだのにも関わらず、特に誰からも共感されることなくそっとスルーされました。なんでよ。

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いま思えばあの頃は、エキスパート二次試験対策のまっただなか。来る日も来る日もワインを飲み、感覚器官と脳みそと肝臓を酷使し、心身ともに極限状態でした。人間、極限状態におちいると、たまに変な回路が繋がる瞬間がありますよね。それがたぶん、あのときだった。いやなんか、めちゃくちゃ天啓を受けた気がしたんだよ、あのときは本当に…

当時は『いつかアタシってば、<心理療法家における心的かまえと、ワインテイスティングの共通項>とかいう論文だって書いちゃうかもしれない…!』とまで思い詰めました。が、冷静になってみるとなんの学会で発表したらいいのかもわからないし、出したところでどのジャーナルにもアクセプトされなさそうだし、そもそも誰の役に立つんだこれ、と思って諦めました。

そうこうするうちに衝撃も次第に弱まり、試験が終わると同時に極限状態からもさっくり抜け、いつのまにか「ワインって美味ぇな~」という平穏な日々が戻ってまいりました。そう、ワインって美味いのよ。小難しいことなんて考えなくっても。

ーーと、思っていたのもつかの間。先日、大好きなPodcast番組『味な副音声』の「味を言葉にすることについて考える」回を聴いて、再びわたしに衝撃が走りました。味を言葉にすることって、まるで心理療法の訓練みたいだ!アタシ、やっぱり、書かねばならんよ…!

というわけで、謎の使命感に駆られているいま、おそらく誰にも伝わらない「心理療法家における心的かまえと、ワインテイスティングの共通項」について語ります。なんだよそれ。自分でもなにを言ってるのかわからない。わからないけど、とにかく誰か聞いてください!アタシってば、天才かもしれないんだって…!(フラグ)


前提│ますたやと、ワインテイスティング

ワインは「五感」をフルに使って、楽しむことができる飲み物です。

ドボドボとワインを注ぐ音に「聴覚」で心を躍らせ、「視覚」で色や泡の立ち上がりにワクワクし、「嗅覚」や「味覚」で美味しさを理解する。もちろん「触覚」を使うことで、はじけるような泡の質感も楽しめます。

これらの楽しみはなにも、手練れのソムリエや、ワインの猛者たちだけに限られた遊びではありません。もちろんその多寡はあるにせよ、すべてのひとがおなじように「五感」をフル稼働させてワインを飲んでいます。好むと好まざるとに関わらず。

ところで。なにを隠そうわたくしますたや、テイスティングに自信がありません。

「こりゃあ酸っぱいぞ〜?」と思ったら実はそうでもない酸度だったり、「残糖、ありだな」と思ったらハイアルコールなだけだったりと、こと味を「要素分解」していくことに、相当の苦手さを感じています。え?白ワイン?そりゃあ、柑橘…の香りがするんじゃない?(万能じゃねえぞ)

というわけで、わたしはワインにまつわる活動をしていながら、テイスティングに関してはずっと自信がありませんでした。

「味?わかりましぇ~ん、美味けりゃよし👍」のスタンスは、もちろん立派なワインの楽しみ方のひとつ。ではあるけれども、さすがに「ワ活のひと」として活動している以上、若干責任を感じなくもないわけです。「ますたやさんの投稿を見て、ワイン買いました!」って言われたときの、『え、アタシ、なんて言ってた…?』感ったらない(冷や汗)

ワインエキスパート二次試験の前の我が家は、魔女の館のようであった

で、どうしたもんかな…と思っていたところに、今回の『味な副音声』ですよ。食のしもべであり、フードエッセイストでもある平野紗季子さんが、「食べものについて語るための方法」について語りました。

ワインテイスティングの「かまえ」を作るふたつの方法

さて、ワインのテイスティング能力を伸ばしていくためには、ふたつの同時並行しているルートがあるとわたしは考えます。

まずはこのうちのひとつめのルートについて、『味な副音声』を参考にしながら検討していきます。

[1]センスを磨く

そもそも『味な副音声』は、フードエッセイスト平野紗季子さんがさまざまな「食べもの」に焦点をあてて語り尽くす番組です。食べものは多岐にわたり、たとえば「駅弁」とか「コンビニ冷凍鍋」とか「ポテトチップス」とかとか。とにかくなんでも「美味しいもの」がテーマにあがります。

これらについて”オレたちの”平野紗季子が、ハイパーウルトラすげえ表現力でもって語っていく最高の番組が『味な副音声』であるわけですが、そんな平野さんが「どうやったら平野さんのように、食べものについて語れるようになれますか?」というリスナーからのお手紙に答えたのが、この放送回でした。

これが、ワインの味をわかりたいわたしにとってめちゃくちゃ有用な神回だったんです。そしてこれはワイン界隈のみなさんにも、お役に立つと思いました。

なので、まずは番組で提案された「食べものについて語るための方法」について紹介します。だいぶ端折って書くので、詳しくはぜひ番組をお聞きください📻

(1)とにかく集中する
まずは集中。とにもかくにも集中。エアで「味集中カウンター(by一蘭)」を作る。熟練すると、誰といても、どこにいても作り出せるようになる。そして、そこで自分に問いかけ続ける。これは、なんだろう。この味は、一体なんの味なのだろう。

(2)味を全部書く
味わいは、咀嚼のたびにどんどん変化していく。その流れを、すべてメモする。味のフローチャートを作る。最初は書くことが思いつかないが、それでもとにかく、書いて残す。

(3)具体的な調理法や素材を把握する
たとえば「魚」ではなく「キス」「真鱈」。素材をなるべく具体的に把握する。料理人からの説明も全部メモして、メニューがあれば持ち帰る。イメージは、リバース・エンジニアリング。これは知識と専門性でも補えるが、一方で深追いしすぎないことも大事。

(4)比喩をもちいる
表現の際に「まるで〇〇だ」という比喩を使う。また、その瞬間に思ったこと、たとえば「これは”風”だな」と思えばそれをメモしておき、その理由をあとから分解、再構築して考える。比喩はなんでもありだが、嘘はつかないこと。言葉が独り歩きしないように。

・・・ほらあ。ワインの話、してない?(してる)

ここで述べられていることは、「感覚刺激の受容」それ自体と、そこから得た情報を「言語化」していくための具体的な訓練方法です。

つまり、(1)感覚を鋭敏にする(2)感じられる味の絶対量を増やす(3)知識によって理解を進める(4)言葉にする際に抽象化する、こと。これを繰り返すことによって、「インプットされた刺激(味)を、(言葉によって)アウトプットする」回路がばっしばしに繋がっていく、刺激が神経回路のランビエ絞輪を跳躍伝導していく速度があがっていく――ということを、平野さんは語っています(たぶん)

これこそが、一般的に「センス」とひとくくりにして呼ばれているもの。これを繰り返していくことで、「センスが磨かれる」というわけ。は〜、平野紗季子まじエモい。努力によって生まれる天才を、我は愛する…

平野さんが言うには、「20代の頃に初めてフードエッセイストとして取材をしたとき、まったくなにも感じられない自分にショックを受けた」んだそう。今では、誰といるどんな場面だろうが、「エア味集中カウンター」を作り出せると番組では話していました。その、最初からできていたわけではないという経緯に、なぜだか勝手に励まされます。

美味しい!の、その先になにがあるんだろう

[2]センスのものさしを持つ

さて話は変わりますが、感覚器官はとても個別性が高いです。つまり、ひとそれぞれすぎる、ということ。味や香りなどの情報を「感覚器官」で受け取るとき、すでにそこには自分なりの歪みや癖が存在しています。

たとえば「シラー」に特徴的に出やすい「黒コショウの香り」、これは”ロタンドン”と呼ばれる香りの成分から来ているのですが、このロタンドンを嗅覚で「感じることができないひと」が、そう少なくない割合で一定数存在しているのだそう。

そうなると、おなじワインを飲んで「黒コショウの香りがする」と言うひとと、「いや、そんな香りはしない」というひとがいることは、至極当たり前のことです。だって、受容できてないんだもん。というか、そもそも目の前の「赤色」を見たときに、それが他の人の「赤色」と同じに見えているかどうかだって、実は誰にも証明できないんですよね。視覚異常(色弱)ってわりと小学生以降に気づかれたりするんですが、それは自分と他者の感覚の違いが、外から見てわかるものではないからです。「感覚」ってそのくらい、ひとと共有が難しい、「わたし」固有のものなんですね。

▶ 特に「味覚」についての雑学は、ゆる言語学ラジオの「食レポ」回に詳しいです。何話かに分かれていて長いけど、これも必見。

ここでいったん、この記事におけるワインの「テイスティング」とはどういうものかということについて、わたしなりにまとめておきます。

ここでいうテイスティングとは、もちろんワインを飲むことです。が、もうすこし分析的に飲むことを、ここではイメージしています。わかりにくければ、ブラインドテイスティング、と置き換えていただいても差し支えありません。

ワインのテイスティングによってわかることは、そのワインの元となるブドウが栽培された土壌や気候帯、天気、ワインの醸造方法や、熟成の仕方などです。

ワインはそのブドウが栽培された気候や土壌の違いによって、特徴的な香りや味わいのパターンがある、と言われています。たとえば、冷涼地域のブドウは酸が高くなりやすいとか、熟度があがるとアルコールもあがりやすいとか。おなじく醸造方法による特徴香もあり、たとえばボジョレー・ヌーボーに特徴的な「バナナの香り」は、ブドウ本来の香りではなく、その造り方の一部であるマセラシオン・カルボニックによるものと言われています。不思議よね。

で、これらを飲んで理解することによって、ワインの背景を想像し、生産者の意図をつかみ、そのワインの価値をはかることが、テイスティングのひとつの役割であるとわたしは考えます。価値、というのは、味わい(美味しさ)や質、そして価格のバランスのことです。

これがわかると何が起こるかというと、ワインが楽しくなるよ♡…じゃなくて、いやそれもそうなんだけど、バシッと品種を言い当てられてかっこいい!…でもなくって、あれ、どうしてあたし、テイスティングが上手になりたいんだっけ?えっと………ワインのことを他者に伝える際に、より的確な表現ができるようになるからです。そうだった。

わたしの場合は仕事にも使う大切な能力です

さて、先にも述べたように「感覚器官の精度」は、100人100色。それぞれが知覚できる感覚は違っているのが当たり前で、なんなら自分でもそのことに気づいていないことさえあります。おなじワインを飲んだときに「酸っぱい」と感じるひとと「酸っぱくない」と感じるひと、どちらも正解なわけです。

でもそれじゃあ、一般的な話がしにくいんです。自分が黒コショウを感じないからといって、ほかのひとが全員間違っているわけではない。だから、自分の感覚を誰かに伝えるときには、自分の感じ方の「癖」を知っておくことが役に立ちます。

これが、テイスティングのかまえを作るためのふたつめのルート、「センスのものさしを持つ」ということです。

糖度計を導入してから、糖度についてはだいぶ理解が進みました

たとえばわたしは、苦みを不快に取りやすい「癖」を持っています。苦いな、と感じたときに、直感的に「イヤだな」と思いやすいんです。

これが夫と比べると違いが一目瞭然で、「このワイン、苦く(てイヤじゃ)ない?」と言ったときに、「え、そう(イヤ)でもないよ?」と高確率で返されます。我が家ではここの感覚がどうしても合わないので、わたしはワインを飲みながら、ちょいちょい不貞腐れます(おとなげない

でも、このものさしを持っていると、(夫以外とは)話をしやすくなるんですよね。このワインはわたしにとってはちょっと苦いけど、ほかのひとにとっては心地いい程度かもしれないな、とか。自分の感覚が絶対、ではない可能性があると知っておくだけでも、他者の感覚への許容の範囲が広がります。

「自分はどの味覚が得意なのか」あるいは「どの香りを感じ取りやすいのか」といったことを把握すること。それによって他者との共通言語を作っていくこと。これが、ワインをはかるための「ものさし」を持つということです。

こんなところでも役に立ちます(今のところ役に立った試しがないけど)

心理療法家における心的かまえと、ワインテイスティングの共通項

ここで突如、心理療法の話をします。

と、こっから先はあまりに個人的な話すぎるので、【ママの小部屋】のみなさん向けに有料記事とします。単品でも購入できますので、心理療法、もしくはますたやに興味があれば、お買い上げくださいませ。

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