僕たちこそ現実を見るべきだーベトナム旅行記(8)
今回のベトナム旅のメインの目的であるFuture Coffee Farm(以下、FCFと書く)のToiさん以外の「ロブスタ農家さん」の元をお邪魔させていただく日がやってきた。Toiさんには、Toiさんの持っているヴィジョンを共有している6軒のロブスタ農家さんが「協力農家」として存在する。どの農家さんも、Toiさんとともに、ロブスタ種の品質向上に努め「FINE ROBUSTA」の生産に尽力されている方達だ。
僕自身は、2019年にToiさんの農園FCF、2022年にベトナムのダラットという場所にある「アラビカ農家さん」を訪れさせて頂いている。
そして、今回はロブスタ農家さんを訪れさせて頂けることになったのだ。
FCFのFINE ROBUSTAを日本に初輸入して、それを日本に広めた立役者であるHさんに、以前から「まっすん(僕のこと)も、Toiさんのロブスタ農家さんに一緒に行こうな。アラビカ農家さんとロブスタ農家さんは、"全然違う"から一回行く方がええ。」という話をして頂いていた。Toiさんからも、実際に訪れる直前に「びっくりするかもしれない」と聞かされていた。
実際に、訪れさせて頂いて想うことはたくさんあった。
でも、そのことは僕の中に留めておきたいと思う。
コーヒー農家さんの「現実」というのは、ドキュメンタリー映画などで描かれていて、そのイメージというのは容易くできるのではないか、と思う。僕は、それをあえて伝えようと思わないし、思えない。
なぜか?
農家さんはそこを求めていないと思うからだ。
彼ら、彼女らは、自分たちの生活を掛けて、品質向上に務めていた。
完熟したコーヒーチェリーだけにこだわり採取していた。
それをToiさんがしっかり精製を行い、超一流品に仕立て上げ世界に輸出されている。
僕のやるべきことは、そんな彼ら彼女ら尽力に、さらに僕の力を注ぐ混むこと以外にない。ロースターとしてしっかりと焙煎を施し、それを多くの人にお買い上げいただく努力をする。それが僕の仕事のすべてである。
農家さんと僕たちロースターは、ただ役割が違うに過ぎない。僕はそういう視点を大切にしたいと思う。上から目線に農家さんたちの現実を語ることを、良いとは思わないしかっこいいとも思えない。
「コーヒー業界は儲からない」と言う人が業界人に割に多い気がしている。
儲からないけれど、好きだからやってる。
生産地の想いを伝えたいからやっている。
それがやりがいだと言う。
そのことについて、僕は真正面から異を唱えたい。
僕たちは儲かるための工夫をすべきだし、そのための努力を不断に続けなければならない。自分のその能力のなさを、ただのきれいごとによって有耶無耶にしてはならないと思うのだ。
儲からないけれど好きだからやっているというなら「趣味」でやっていればいいだけのことだと僕なんかは思ってしまう。生産地・農家さんのコーヒーチェリー、コーヒー豆の栽培は、まさに生活に関わる話であって、もっとリアルな言い方をすれば生き死に関わる問題である。儲からないけれど、好きだからやっているなんて生ぬるいことを彼ら、彼女たちは口にしたくてもできない。
収入を上げて、豊かな暮らしを築きたいと思ってやっているのだ。
決して趣味ではないし、道楽でやっているわけではない。
そのために彼ら、彼女らは「品質を上げる」ということに、命とプライドをかけて必死に"生きている"のだ。
同時に、僕たち「街のコーヒー屋」もそれは他人事ではない。
僕たちの方こそ、しっかりと自分たちの現実を見るべきだと思う。
僕たちだって、御多分に洩れず、稼ぐことができなければ生活はできないのだ。さらに、儲からなければ"その先"のことなんて出来るはずもない。生活が出来なければ、そもそも彼ら、彼女らのコーヒー豆を買うこともできない。そうなれば"産地の想いを伝える"なんて、まったくの夢物語でしかない。
生産地のサスティナブルを叫びながら、小売がサスティナブルでなければ何の意味もない。
以前のnoteにも書いたけれど、なぜか、僕たちは「お金」を汚いものとして捉えがちのように思う。もちろん、お金の使い方には人それぞれ個人の品格が表れてしまう部分だと思う。そして、目立つ使い方をする人というのは、どうしても品がなく見えてしまう。そのことによって、お金自体が汚いと勘違いする人も少なくないのは理解ができる。ただ、"そのこと"と"このこと"とは「別だ」という視点を忘れてはならない。
誤解を恐れずに書くけれど、僕は豊かな暮らしをしたいと思う。
だから、日々の仕事を心血を注いで、まさに一所懸命にやっている。
一切の妥協はない。もちろん、失敗をすることも多い。でも、その度に、リカバリに努め、さらなるあらゆる面の品質向上に努めている。ベトナムで出会った農家さんたちと同じように。
彼ら彼女らと出会って、今一番想っていることは
「自分のことをしっかりやろう」
ということだ。
「THE MIDFLOW coffee roast」という自分のお店を盛り立てて、人気店にして、しっかりと経済の「小さな歯車」の一つとして、しっかりと日本経済、世界経済に貢献していくことだ。
それがすべての出発点だと思っている。
お金は稼げなくても「農家さんのことを想っています。」と誰も救われない自己満足で終わるつもりは僕にはない。
僕が訪れた農家さんたちは、品質向上に命とプライドをかけて挑戦されていた。僕は、自分の命とプライドをかけて、しっかりと焙煎を行い、プレゼンをし、たくさんのお客様にお届けし、そして、今年もたくさんの生豆を仕入れるだけのことだ。農家さんの想いは、そんな一連の流れの中で自然に伝わるものだ。
今日のnoteは、少しばかり辛辣だったように思う。想いのある人の、言葉尻を捉えただけの批判を書いてしまったかもしれない。でも、僕は、自戒の念を込めて、この文章を残したいと思う。
僕たちの方こそ、斜陽国家としての現実を見て、それを打開すべく努力を重ねなかればならない存在なのだから。