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未来にゆっくり伝える味噌

子どもの頃、8月になると、父が運転する車に着替えやお土産を乗せて、家族で佐渡島へ向かった。
島の海沿いの町に父の実家があった。
父方の祖父と伯父夫婦が住んでいた。毎年8月の数日だけ、祖父と伯父伯母に会える。一緒に暮らせる。私はその8月の数日が大好きだった。

毎日の食事は祖父と伯父夫婦が用意してくれていた。

祖父がその日に漁で獲ってきた魚。伯父が早朝市場で買ってきてくれたイカ。

そして、伯母が毎年仕込んでいた味噌でつくる味噌汁。

「麹だけは酒蔵で分けてもろうたけど、大豆はうちで作ったんよ。昔は塩も海水から作っとったんやけどね」

大阪にいる母方の祖母と違い、毎日の畑仕事で真っ黒に日焼けして、ニカっと笑う伯母は、珍しそうに味噌樽を覗く私に教えてくれた。

最後に伯母の味噌汁を食べたのは、20代最後の夏だった。こんなに美味しかったのかと改めて思った。
「味噌仕込みはもう大変だから、今年は仕込まない。息子夫婦も孫たちも、誰もやらないしね」

もったいないなぁ、こんなに美味しいのに。いつか私も、味噌仕込んでみようかな。

そう思ってから10年ほど経った冬。私はようやく味噌仕込みを始めた。1度始めたら、その美味しさから毎年仕込むようになり、友人たちにお裾分けするようになった。仕込む味噌は毎年1樽ずつ増えた。

伯母の味噌は、ゆっくりゆっくり、40年以上の年月をかけて、私に自家製味噌とお味噌汁の美味しさを教えてくれた。美味しいだけでなく、味噌はゆっくりゆっくり育っていくもんだということも教えてくれた。

5年後、10年後、100年後のため、
なにができるのか。
私が未来にできること。
考えたってわからない。

でも、ゆっくりゆっくり伝わる、大事なこともある。

何十年も経ってから、できることもある。

伯母は、お味噌の大切さに気がついた人間、私を育ててくれた。
伯母が未来のためにやってくれたことだ。

味噌を仕込み、翌年その味噌で味噌汁を作る。夫と息子は毎日飽きずにそれを食べる。そして、小さな子どもたちを大事に育てる友人に毎年味噌を送る。

友人の小さな子どもたちが、「お母さんの友達が送ってくれたお味噌で作ったお味噌汁、美味しかったなぁ。お味噌仕込みやってみよかな」と思ってくれる未来がくればうれしい。

それまでは、来年のための味噌を仕込もう。夫と息子。そして、小さな子どもたちに、私のお味噌を伝えていこう。

伯母が私に伝えてくれたように。

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わたなべ ますみ
美味しいはしあわせ「うまうまごはん研究家」わたなべますみです。毎日食べても食べ飽きないおばんざい、おかんのごはん、季節の野菜をつかったごはん、そしてスパイスを使ったカレーやインド料理を日々作りつつ、さらなるうまうまを目指しております。