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株主提案の可決率と経営への影響:メディア業界をファイナンス視点から考察
企業の重要な意思決定の場として注目される株主総会。特に、フジメディアHDに対して、著名な個人投資家がどのような株主提案を行うのかに注目が集まっています。その期待から、株価は急騰しています。私は、一旦上昇して、その後に下落、そしてゆっくりとガバナンス改革が行われることで株価が再び息を吹き返す・・と、そのような展開を予想しています。なぜ、そう考かについて、ファイナンス研究を基に考察します。
0.株主提案に関する注目研究
近年、株主提案(Shareholder Proposals)が経営に与える影響について議論が活発化しています。2021年にNickolay Gantchev 氏と Mariassunta Giannetti 氏が発表した論文 「The Costs and Benefits of Shareholder Democracy」(The Review of Financial Studies, 2021)では、株主提案の可決率や投資家の種類による影響の違い、そして提案が可決されなくても経営陣に与える圧力について詳細な分析が行われています。
本記事では、同論文の知見を基に、株主提案の可決率が機関投資家と個人投資家でどのように異なるのか、なぜその違いが生まれるのか、そして可決されなくても企業経営に与える影響について解説します。
1. 株主提案の可決率:機関投資家 vs. 個人投資家
Gantchev & Giannetti (2021) によると、アメリカでの株主提案の全体的な可決率は約20% です(日本においては、私が2020年までのデータを見たところ1%もありませんでした)。しかし、提案の提出者が機関投資か個人投資家かによって、その可決率は大きく異なります。
機関投資家による提案の可決率:相対的に高い
機関投資家(例:年金基金、ヘッジファンド、アクティビスト投資家)は、慎重に企業価値向上につながる提案を作成するため、他の投資家の支持を得やすい。
企業の大株主である場合が多く、他の株主に対する影響力が強い。
個人投資家(特に「Gadflies」)による提案の可決率:低い
Gadflies(頻繁に提案を行う個人投資家)は、多くの企業に画一的な提案を行う傾向があるため、企業の実情に即していない傾向。
平均して3%以下の可決率
また、企業価値向上に直結しないと見なされる提案も多く、機関投資家の支持を得にくい。
結果、個人投資家提案の可決率が機関投資家提案より低くなる。
ただし、今回のフジメディアHDに関しては、著名人の個人投資家が株主提案を行うかもしれず、想像以上に高い賛成票が得られるかもしれません。
2. 機関投資家と個人投資家の提案の違い:なぜ可決率が異なるのか?
(1) 提案の質の違い
この研究では、機関投資家は、多くのリソースを活用し、提案の質を向上させることがしやすいことを指摘しています。
機関投資家は専門家の意見を取り入れ、企業の状況に応じた適切な提案を行いやすい傾向
特に機関投資家は企業価値向上に寄与するデータに基づいた提案が多く、支持を得やすい。
(2) 他の株主の支持を得る能力の違い
機関投資家は、大口株主であることが多く、他の投資家に対する影響力が強いです。なので、注目されているアクティビストファンド、ダルトンインベストメントが株主提案を行ったり、特定の個人投資家の株主提案に賛同を見せたら、一気に潮目が変わるでしょう。
一方、個人投資家は小口株主であり、提案に対する信頼性が低く見られるため、支持を集めにくい傾向が指摘されています。今回のフジメディアHDにおいては著名個人投資家が、多くの個人投資家だけでなく、機関投資家も味方にできるかが鍵を握っているように思います。
(3) 企業経営陣の対応の違い
機関投資家の提案は、経営陣が無視しづらい。なぜなら、彼らは長期的な企業価値向上を目的としており、経営陣に対する監視の役割も果たしているため。
一方、個人投資家からの提案は取締役会が慎重に扱うことが多く、実際に実施されるのはわずか 3% にとどまるとのことでした。
3. 株主提案は可決されなくても経営に影響を与える
しかし、興味深いのは、株主提案が可決されなくても、経営陣に一定の影響を与える点です。この研究では、以下の理由を提示しています。
経営陣の意思決定への影響
株主提案が賛成票50%未満で可決されなかったとしても、賛成票30%台など多数の投資家が支持した場合、経営陣はその意向を無視できない。
企業は、提案に対する対応を慎重に検討し、株主への説明責任を果たす必要があるため、経営陣が行動するインセンティブがあります。
説明責任を果たさない場合の株価への影響
4. この研究の概要と対象データ
上述で消化したGantchev & Giannetti (2021) の研究は、2003年から2014年の間にS&P 1500企業で提出された4,878件の株主提案を分析しています。日本では、アメリカほど株主提案は活発ではないことを考えると、少し割り引いて考える必要があるでしょう。念の為に、この研究が対象にしている企業データも記しておきます。
研究のアプローチ
データソース: Institutional Shareholder Services (ISS)、企業のプロキシファイリング
分析手法:
機関投資家と個人投資家の提案を比較
株主提案の可決率と株価への影響を分析
経営陣の対応(提案の実施率)を検証
日本を対象にした研究ではないものの、この研究の最大の貢献は、株主提案が企業価値に与える影響を定量的に評価した点です。特に、情報を持つ投資家が意思決定にどのように関与しているかを詳細に分析しており、企業経営や投資判断に役立つ重要な知見を提供しています。
5. まとめ
株主提案の可決率は アメリカでは約20% だが、機関投資家の提案は可決されやすく、個人投資家(gadflies)の提案は可決されにくい。
提案の質の違い、支持を得る能力の差、経営陣の対応の違いが可決率の差を生んでいる。
ただし、著名個人投資家が機関投資家から賛同を得られたら結果は変わる可能性も
株主提案が可決されなくても、経営陣に圧力をかけ、株価にも影響を与えることができる
結果として、とにかく期待で株価は一旦上昇して、株主提案の可決がきびしくその後に下落、しかし株主提案が出たことによる影響でゆっくりとガバナンス改革が行われることで株価が再び息を吹き返すのではと、予想しています。
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崔真淑(さいますみ)
*冒頭の画像は、崔真淑著「投資一年目のための経済と政治のニュースが面白いほどわかる本」(大和書房)より抜粋。無断転載はおやめくださいね♪
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